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C.G.ユングを詠む(028)-読書ガイド

今回は読書ガイド。

イントロ

先回に年表にて紹介した著作の概要を、河合俊雄氏の『ユング――魂の現実性(リアリティー) (岩波現代文庫)』[6]の主要著作ダイジェストなどからピックアップする。ユングの著作のメインストリームに決めたのがこれらになる。ようは読みたい著作というわけである。

1『心理学的タイプ論』(Psychologische Typen GW 6,1921)
2『自我と無意識の関係』(die Beziehungen zwischen dem Ich und dem Unbewussten. GW 7. 1928/1964)
3『黄金の華の秘密』(Das Gebeimnis der Goldenen Blute: ein chinesisches Lebensburh)
4『心理学と錬金術』(Psychologic und Alchemic. GW 12, 1944/1972)
5『アイオーン』(Aion, GW 9/11, 1951)
6『結合の神秘Ⅰ・Ⅱ』(Mysterium Coniunctionis, GW 14/Ⅰ・Ⅱ. 1955)
7『ユング自伝1・2』(Erinnerungen Traume Gedanken)

では、その概要のご紹介。

1 『心理学的タイプ論』(Psychologische Typen GW 6,1921) 林道義訳 『タイプ論』みすず書房、 1987)

まず1921年の『タイプ論』。現在、継続して精読中。タイプ論でいうところの外向と内向という心の“一般的態度”という切り口で見て、様々な分野の対立を論じているところが主題になる書。各章でこのような対立が取り上げられている。
・第1章 古代及び中世の精神史のおけるタイプ問題
・第2章 タイプ問題に関するシラーの理念について
・第3章 アポロン的なものとディオニッソス的なもの
・第4章 人間観察におけるタイプ問題
・第5章 文学に見られるタイプ問題−カール・シュピッテラーの『プロメテウスとエピメテウス』
・第6章 精神病理学におけるタイプの問題
・第7章 美学におけるタイプごとの構えの問題
・第8章 現代哲学におけるタイプの問題
・第9章 伝記におけるタイプの問題

外向と内向と対になっている”一般的態度”。
感覚と直観と対になっている合理的機能とされる”心的機能”。
思考と感情と対になっている非合理的機能とされる”心的機能”
について説明があり。
2×2×2=8タイプのタイプがあると言う。

[6]ではこのように紹介されている。

有名な外向と内向という心的態度や、思考、感情、感覚、直観という四つの心的機能を提示した本である。言語連想において反応のタイプがあることに気づき、フロイトとアドラーというそれぞれ独自の心理学をもつ人間に出会ったことへのユングの答えとしても読める。精神的危機を脱してからの最初の大著である。
 しかし、この本は、単なる静的なタイプの分類を超えて、自分のタイプにないものをいかに取り入れていくかという力動的な心理学的統合の過程として理解する必要がある。これはその意味で個性化の過程を描いているのである。さらには、実在論と唯名論の対立をはじめ、西洋の精神史におけるタイプの対立をユングが扱っていることから、この頃からすでにユングがコスモロジカルなレベルでの対立物の結合というテーマに取り組んでいたことがわかる。後の錬金術との関係で大切になってくる精神的なものと身体的なものの対立は、すでに中心的なテーマになっている。

[6]

2 『自我と無意識の関係』(die Beziehungen zwischen dem Ich und dem Unbewussten. GW 7. 1928/1964) 単行本 1995/1/1 C.G. ユング (著), 松代 洋一 (翻訳), 渡辺 学 (翻訳)
新装版 C・G・ユング (著), 野田 倬 (翻訳) – 2017/7/20

『タイプ論』の後から出版された著書である。個人的無意識、集合的無意識、ペルソナ、個性化、アニムス・アニマ、マナー人格など詳述している。しかし、私には分かりにくかった。
 ユングは生前において臨床記録等個別のケース・事例を出さなかったので、なぜそういった結論になるのか分かりにくい。この書に限った話ではない。
 河合俊雄氏の解説は[6]ではこうなっている。

ユングには珍しく、比較的体型だった著作である。無意識の過程に対する意識的自我の反応が扱われているので、錬金術やグノーシスに関連した著作よりも近づきやすいとも言えよう。ユングの本で何か一冊と言われれば、平均的にはこれを進めるであろう。
 個人を超えた集合的無意識の内容が現れたときに、意識がどのように反応するかをかなり弁証法的に描いている。例えば圧倒するような無意識の内容が出現したときに、元の自分の社会への顔である「ペルソナ」を取り戻すように逃げてしまうか、それとも無意識の内容と同一化してしまって自我肥大を起こすかのどちらかである。
 あるいは、社会への顔として「ペルソナ」があるように、無意識への関係の機能として異性像としてのアニマがあるなどのように、である。アニマに取りつかれた状態を克服し、アニマが無意識への関係の機能となるところで「マナ−人格」が現れる。これはユングの概念では「自己」とほぼ同義なので、アニマから自己へという個性化の過程の図式があてはまる印象を与える。
 しかしこのような一般に信じられている読みが通用しないことは本書[6]、あるいはユングの著作を読めばわかるであろう。
 自我と無意識の関係というと、無意識の統合というモデルを思い描きがちであるけども、ユングは無意識の内容を自我から区別することを徹底して強調していることも印象的である。

[6]

 数学でいう「集合」の概念を子供の頃から私は叩き込まれているので、無意識のうちにユングを読むときにも適用していることに最近気がついた。
“ある「集まり」が集合と呼ばれるためには、対象が「その集まりの元であるかどうかが不確定要素なしに一意に決定できる」ように定義されていなければならない。”
 だから一意にならない多義になってしまうというか曖昧な説明には居心地の悪さを感じる。言い換えると用語の定義が曖昧で、くっきりとした境界線が引き難い様相となっているユングの説明は心地の良いものではない。
 そして一意に決定できるという前提条件がユングにはないのかもしれない。なにせユングは数学が嫌いだ。

3  『黄金の華の秘密』(Das Gebeimnis der Goldenen Blute: ein chinesisches Lebensburh)
新装版 単行本 – 2018/4/24 C・G・ユング (著), R・ヴィルヘルム (著), 湯浅 泰雄 (翻訳), 定方 昭夫 (翻訳)

ChatGPT4oに要約してもらった。

『黄金の華の秘密』は、CGユングとリヒャルト・ヴィルヘルムによる中国の古代道教の瞑想書の研究と解釈をまとめた作品。この書は、心理学的および哲学的な観点から中国の内的錬金術の核心を探るものだ。
ユングとヴィルヘルムの背景はこのようなものだ。
リヒャルト・ヴィルヘルムは、中国文学と哲学の権威として知られ、中国で長年を過ごし、古代の文献を深く研究した。彼が翻訳した『太乙金華宗旨』は、道教の秘儀と瞑想法を詳述したもので、この翻訳が『黄金の華の秘密』の基礎となっている。一方、CGユングは、無意識と個人の内的成長に関する理論を発展させた精神分析学者である。ユングは、西洋の錬金術と中国の内的錬金術の共通点に興味を持ち、ヴィルヘルムの翻訳を心理学的に解釈した。
内容とテーマについて、『黄金の華の秘密』は、精神の発展と変容を中心に据えた内容で、瞑想と自己探求を通じて「黄金の華」を開花させる方法について論じている。「黄金の華」とは、個人の精神的覚醒や啓示の象徴であり、その開花は内面的な光の放射と見なされる。書中では、瞑想の実践方法や、内なる光を育むプロセスが詳細に説明されており、内的錬金術としての瞑想がいかに個人の精神的成長に寄与するかが探求されている。
心理学的解釈はこのようになる。ユングは、この道教のテキストを彼の個性化理論と関連付け、個人が無意識の深層を探索し、意識と無意識の統合を目指す過程を示す。ユングの解釈によれば、「黄金の華」の開花は、個人が自己の深層と調和し、全体性を達成する道程を象徴している。これは、現代の自己啓発やスピリチュアルな探求にも通じる普遍的なテーマである。 
本書は、東洋と西洋の精神的伝統を架け橋するものとして、現代の心理学やスピリチュアリティに大きな影響を与えている。ユングの分析は、道教の教えがいかに深遠であり、個人の内的な成長と自己理解を深める助けとなるかを明らかにしている。『黄金の華の秘密』は、内面の探求を続ける人々にとって、深い洞察と指針を提供する意義ある書である。

この新装版は、湯浅泰雄と定方昭夫の翻訳により、原文の豊かな意味合いを損なうことなく、現代の読者にもわかりやすく解説されている。

ChatGPT4o 20240624

この要約の中で使われている“内的錬金術”とは、道教の修行方法と言った方がよさそうなもので、「煉丹術」や「内丹」とも言われるもの。話題が逸れてしまうのでこのテーマについては、『黄金の華の秘密』の感想を書く段階に持ち越す。

4 『心理学と錬金術』(Psychologic und Alchemic. GW 12, 1944/1972)
心理学と錬金術 I 新装版 単行本 – 2017/11/1
心理学と錬金術 II 新装版 単行本 – 2017/11/1
C.G. ユング (著), 池田 紘一 (翻訳), 鎌田 道生 (翻訳)

 まだ一文字も読んでいない著作なので、河合俊雄氏[6]の要約を紹介する。後術する『結合の神秘Ⅰ・Ⅱ』の冒頭に錬金術についての解説があるので後回しにしても良い気がする。

 前半部分は心理療法における夢分析について錬金術の象徴体系から光を当てたもので、後半部分は逆に、錬金術についての心理学的解釈である。一般的には錬金術はキリスト教的世界観に対抗して、化学の前身になったまだ怪しげな学問と見なされるけれども、ユングはむしろ自分の心理学の先駆者のようにみなす。つまり新しい物質を作ろうとした錬金術の作業とは、文字通りに物質を変容させることに意味があったのではなくて、むしろそれに参加していた錬金術師の心理学的な過程が物質に投影されたものであるとみなすのである。
 カオスと死である「黒化」から白、黄色、赤と進む錬金術の過程は、一つの儀式であり、心理学的な死と再生の過程である。またユングによれば、キリスト教の世界観において排除されていた物質が統合され、結合されることが、錬金術において大切なことであった。

[6]

5 『アイオーン』(Aion, GW 9/11, 1951)
アイオーン (ユング・コレクション) 単行本 – 1990/11/15
カール・グスタフ・ユング (著), 野田 倬 (翻訳)

まだ一文字も読んでいない著作なので、河合俊雄氏[6]の要約を紹介する。

グノーシス主義を研究したものに基づいて書かれている。いわばコスモロジーとの対決の書であると言えよう。例えば悪の欠如の問題や、悪をコスモロジーに入れてきたときに三位一体ではなくて四位一体になることなどを詳しく書いている、これを読むとコスモロジーにおける対立するものがもともと同一のものであることがよくわかる。神と怪物の関係がそうであるし、キリストと魚、あるいは漁師と魚の関係もそうである。
 キリストのイメージの解釈を通じて、自我と自己の区別が揺らぎ始めているのがわかる。また結合が対立と対立するものの結合の両方の契機を含むことが明瞭に書いてある。

[6]

6 『結合の神秘Ⅰ・Ⅱ』(Mysterium Coniunctionis, GW 14/Ⅰ・Ⅱ. 1955)
結合の神秘 1 ユング・コレクション (5) 単行本 – 1995/8/1
結合の神秘 II (ユング・コレクション) 単行本 – 2000/5/30
C.G.ユング (著), 池田 紘一 (翻訳)

著者前書きを読んだ程度なので、河合俊雄氏[6]の要約を紹介する。

 ユングによる最後の大著で、ある意味でユングの思想の完成を示すと言えよう。
第1巻では対立するものの結合が、錬金術における太陽、硫黄、月、塩など様々な材料を用いて述べられている。迷宮に迷い込んだような印象も受けるが、それぞれの概念が一義的で静的なものではないかに気づくと、ユングの錬金術の材料の扱い方がまさに彼の心理学の論理に他ならないことに思い至ってくるのである。だから結合は、男性的な太陽と女性的な月の結合という単純なものではない。『心理学と錬金術』において認められる図式と心理学臭さは影を潜めている。
 第2巻、すなわち『結合の神秘Ⅱ』においてはコンユンクチオ(結合)が精神と魂の結合としての「心的結合」(unio mentalis)、それと身体との結合、さらには全体的人間と「一なる世界」(unus mundus)との結合の三つの段階を踏むとして記述されている。特に第3段階の原初的な一体性の世界との結合は、個人を超えた魂を考えるユングにとって重要である。またこの巻では王の再生をめぐっての、老人と若者のペアのイメージも興味深い。第1巻に比べて、むしろ解釈が心理学的で図式的すぎる印象もある。全集十四巻のⅢはフォン・フランツによる。

[6]

7 『ユング自伝1・2』(Erinnerungen Traume Gedanken)
ユング自伝 1―思い出・夢・思想 単行本 – 1972/6/21
ユング自伝 2―思い出・夢・思想 単行本 – 1973/5/11
カール・グスタフ・ユング (著), アニエラ・ヤッフェ (編集), 河合 隼雄 (翻訳), 藤繩 昭 (翻訳), 出井 淑子 (翻訳)

 ユング自伝2の『死者への七つの語らい』への感想は、C.Gユングを詠む(008)~(013)に載せた。今読むとその『死者への七つの語らい』の内容がグノーシス派のものと理解せずに感想が書いており未熟なものと赤面のいたりである。

河合俊雄氏[6]の方の要約を紹介する。

 ヤッフェの編集の仕方、英訳、およびそれに基づく邦訳に関する様々な指摘はあっても、ユングの世界を知るには最も適していると思われる。特に本書[6]でも取り上げた幼少期からの数々の夢やヴィジョン、それに対するユングの答え方は印象的である。フロイトと訣別した後の精神的危機や六十八歳の時の臨死体験の記述も興味深い

[6]

ユングの著作でメインストリームというか私が読みたいリストを紹介した。

しかし、心理学のバックグランドのない私のような人が、いきなり読んでも分からないと思うので、副読本としてはこんなものがよいだろう。
河合隼雄著『ユングの生涯』
河合隼雄著『ユング心理学入門
河合俊夫著『別冊NHK100分de名著 集中講義 河合隼雄: こころの深層を探る (教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著) 』ムック – 2021/6/24

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参考文献[6]『ユング――魂の現実性(リアリティー) (岩波現代文庫)』https://amzn.asia/d/cUEvxPS

背景画像:原案:ティールコーチ小河。作画:ChatGTP4o。
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ちなみに特にSNSで告示してないが、ユング読書会を月1回開いている。ご興味のある方は、下記e-mailにお問合せください。

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こころざし創研 代表
ティール・コーチ 小河節生
E-mail: info@teal-coach.com
URL: 工事中
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