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ユングを詠む_(022)『タイプ論-こころの羅針盤』

『タイプ論』から『こころの羅針盤』について

 先回は「『タイプ論』から『タイプの一般的説明(外向型)』」というタイトルで外向型の紹介と私の感想を書いた。すぐに対になる“内向型”の紹介に移ろうかと考えたが、図があった方がわかりやすかろうということで、“こころの羅針盤”というこころを構造化したモデルを紹介したい。

 特に優越機能(MBTI®︎では主機能と呼ぶ)と劣等機能の関係、さらには補助機能との関係には“こころの羅針盤”を使うとイメージしやすくなると思う。

1.     イントロ


『タイプ論』https://amzn.asia/d/2t5symt  [3]の補論3と補論4には2つの一般的態度と4つの心的機能、そしてそれらの関係を図にしたこころの羅針盤ともいえる“羅針盤”について説明がある。
文中紹介した。

2.     タイプとは(再掲)


便利のために再掲しておく(一部省略してある)。ユングを詠む_(016)『タイプ論』からMBTI®︎へ を既読の方はスルーOK。

タイプの説明では、参考文献[4]がわかりやすかったのでこれに沿って私なりに理解した形で書いていく。

 一人一人の心理学的タイプは、一般的態度と心的機能の2つの側面からなるとユングは20年に及ぶ臨床経験から見出した。

一般的態度;「外向(E; Extraversion)⇔内向(I; Introversion)」
心的機能;「感覚(S; Sensation)⇔直観(N; iNtution)」
                  「思考(T; Thinking)⇔感情(F; Feeling)」

 馴染みのある言葉・単語が使われているが常識的な意味で使われていない内容にあるので定義はしっかり確認しておきたい。(と言っても、定義というより臨床経験から来ているものなので説明と言った方が良さそうな気がしないでもない。)

 で、いきなり定義の中に“リビドー”という言葉が出てくる。これ、避けて通れないことば。特にフロイトの“リビドー”より広い意味で使っている。

 “心的エネルギー”とユングは定義している。エネルギーは高校物理で習うエネルギーと同じ。私は心が実装されている神経組織を動かすにもエネルギーと解釈する。

(腹が立ったり悲しかったりすれば心的エネルギーが大量に使われて疲れる。とか、美しいものを見て興奮して心的エネルギーが使われたってイメージになるだろう。)

2.1一般的態度;「外向(E; Extraversion)」

「リビドーが外へ向かうことを意味する。主体が公然と客体に関係していること、すなわち主体の関心が積極的に客体に向けられていることを表す。(中略)したがって外向とはいわば関心が主体から客体に移ることである」[3]p461

2.2一般的態度;「内向(I; Introversion)」

外向(Extraversion)に対応するのが、内向(Introversion)。
 
 「リビドーが内に向かうことである。これは主体が客体に対して消極的ない関係を持っていることを表している。関心が客体に向かわずに、客体から主体へ引き戻されるのである」[3]p475
 
一般的態度の定義の段階だが、ユングの特徴のあるコンセプトは必ずタイプを対にしていることにある。「外向(E; Extraversion)⇔内向(I; Introversion)」、「感覚(S; Sensation)⇔直観(N; iNtution)」、「思考(T; Thinking)⇔感情(F; Feeling)」といった具合だ。

これは、補償(Kompensation)という概念による。私は、ようは心のバランサーがタイプの対の相手というふうに解釈した。

正常な状態では補償は無意識的であって、意識の活動を無意識的に制御してくれているという。[2]p480

2.3心的機能;「感覚(S; Sensation)」

「五感による感覚、すなわち感覚器官や身体感覚(運動感覚や脈拍感覚など)による知覚」[3]p458
 
目、鼻、口、耳、肌などの感覚器官からやってくる情報のこと。日本語で感覚というと感情とか気持ちとかが混じってしまうが、ここでは純粋に神経信号のことと捉える。ただしその神経信号も主体の中で変質してしまうこともあり得る。例えば色弱があるとか視神経に疾患があれば多くの人とは違った感覚を受け取ることになる。

2.4心的機能;「直観(N; iNtution)」

「知覚を無意識的な方法によって伝える心的機能 」[3]p475
 
閃いたとか、降りてきたとか、ビジョンが見えたとかいった類のものもこれに入るだろう。
 
「その内容がどのようにして生じたのか示すことも発見することもできない。直観はその内容がなんであれ、一種の本能的把握である」[3]p476
 
そして、直感は前述の“感覚”と補償関係にあるとユングは記している。

2.5心的機能;「思考(T; Thinking)」

 「それ固有の法則に即して、与えられた表象内容を(概念的に)関連付ける心的機能」[3]p452
 
これについては説明する必要はあまりないだろう。最も客観的に意識内容を整理・分析・評価・判断する機能のことだ。

2.6心的機能;「感情(F; Feeling)」

 「自我と与えられた内容との間に生じる活動であり、しかもその内容に対して受け容れるか拒むか(「快」か「不快」か)という意味で、一定の価値を付与する活動」[3]p462
 
ユングは、感情も一種の判断と見做している。

 自我という言葉が入っている。ユングは自我と自己をしっかり分けて使っている。
(私の解釈では、たった今、自分が意識している狭い範囲での自分とイメージ。CPUと演算に使っているデータといったらわかるだろうか。自己というといつでも取り出して意識下に持って来られる記憶などを含む自分とでも言ったらいいか。SDDとかHDDにデータが入っているような感じ。)

 感情と激情は区別すると説明されている。激情とは感情の強さが高まった神経性身体現象(表情が変わったり顔色が変わったりとかだろう)を伴った状態。

思考が意識内容を概念によって整理するように、感情は意識内容をその価値(受け容れるか否かの判断という意味で)に即して整理する。

感情と思考は、互いに共通項のない範疇に属しているとされる。感情を概念で説明することはできないとしている。
 
再度、示す。
 
一般的態度;「外向(E; Extraversion)⇔内向(I; Introversion)」
心的機能;「感覚(S; Sensation)⇔直観(N; iNtution)」
「思考(T; Thinking)⇔感情(F; Feeling)」
 

3.     こころの羅針盤

では、今回の本題。
 
[3]をもとに、[2]と[4]も参考にして”こころの羅針盤“のβ版を作成した。

図1;こころの羅針盤

 優越機能(主機能)が内向直観型、第一補助機能が外向感情型、MBTI®︎でいうところの”INFJ”をサンプルとして示した。
 
 詳しくこの図の説明に移る前に、ユングは“羅針盤”についてどう参考図書[3]で説明しているかを先に紹介していく。

その前段として優越機能について。

 これまでの研究の全成果は、外向と内向という2つの一般的構えのタイプ、そしてさらに思考型・感情型・感覚型・直観型という4つの機能タイプを設定したことであり、この機能タイプは一般的な構えごとに分かれ、そのために八つの種類を生み出すことになる。

[3]p576

八つとは、これら。優越機能がこのタイプになっていることを表す。
1.外向的思考型
2.外向的感情型
3.外向的感覚型
4.外向的直観型
5.内向的思考型
6.内向的感情型
7.内向的感覚型
8.内向的直観型
 
 まだ、優越機能、第1補助機能、第2補助機能、劣等機能について説明していなかったので後で紹介する。ユングの“羅針盤”についての説明を続ける。

 なぜ、思考型・感情型・感覚型・直観型という4つの機能タイプなのかについてユングはこう説明している。

何よりもまず純粋に経験的に出てきたことである。
ただしこの四つによって一種の全体性が達成されるということは次の考察によって明らかにすることができる。

感覚は現実に存在するものを確認する。

思考はぞんざいするものが意味することを認識できるようにしてくれるし、

感情はそれがいかなる価値を持っているかを、

そして、最後に直観はそこに存在するものの中に潜んでいる、そこからきて今後どうなるのかという可能性を示してくれる。

[3]p576

そうしてこう結んでいる。

四機能はある意味で四方位に似ている。
(中略)
この羅針盤を私(ユング)の心理学における発見のたびにおいて決して失いたくない。
(中略)
羅針盤によって我々はこれまで長い間欠けていた批判能力のある心理学を可能にする尺度体系と方向付けの体系が与えられるという客観的事実のためでもある。

[3]p576

3.1   優越機能(主機能)

 次に優越機能とは何か?
 
意外なことに『タイプ論』の定義の章に“優越機能”という項目はない。MBTI®︎では、主機能と紹介されている。
 
先に8つの心的機能を列記したが、そのうちで最も習慣的に使っている、あるいはもっぱら意識されている状態にある機能のことである。優越機能はそのほかの心的機能に対して優位にあってよく使われるので分化して発達している。
 
『タイプ論』からその説明文を拾ってみよう。

優越機能は最も意識化されて、意識の制御や意識的な意図の完全に従っている。

優越機能が常に意識的な人格を表しその意図・その意志・その行為・を反映する。

[3]p366

意識の制御と動機付けに完全に従っている機能

[3]p367

四機能を図解すると、合理性の軸が非合理性の軸と垂直に交わる十字形となる。

[3]p589

3.2補助機能

 補助機能の前に、不合理的機能合理的機能について説明が必要であった。
 
非合理的機能とは、感覚(S; Sensation)、直観(N; iNtution)の2つ。知覚機能とも呼ばれる。

(非合理的機能の下にある)彼らの行動が理性判断に基づくものではなく知覚の絶対的な強さに基づいているからである。

[3]p399

現れてくるものを主として理性的判断に基づいて選択するのではなく、ちょうど目の前に現れてくるものに従って自らを方向付けるという意味において、非合理的タイプである。

[3]p426

合理的機能とは、思考(T; Thinking)、感情(F; Feeling)の2つである。判断機能とも呼ばれる。

これらの特徴が合理的判断機能の優位にあるからである。この2つのタイプの一般的特徴は、活動のほとんどが合理的判断に従ってなされるという点である

[3]p387

 補助機能は、優越機能となった機能を含まない合理的機能または非合理的機能になる。図1の場合、優越機能が内向直観なので、非合理的機能に属す。従って、補助機能は合理的機能になる。
 
 第1補助機能は意識の側にある機能、第2補助機能は無意識の側にある。第1が内向なら第2は外向になり、第1が外向なら第2は内向になるとのこと。MBTI®︎では、補助機能は1つで主機能の内向または外向とは反対になり、第2補助機能はなく第三機能と呼ばれる。
 
 MBTI®︎を学んだ方なら知っていることだが16種類のアルファベット4文字のタイプになる。MBTI®︎を離れると同じユング派でも、それ以外のタイプも存在する。そういった方やケースが実際にある。MBTI®︎もSTEP2ではさらに細かいタイプが紹介されている。
 
 補助機能の存在意義について戻ると、生活していく上で、知覚し判断することは人間には必要であり、どっちが優位に機能しているかの違いであると私は理解した。非合理的(知覚)機能だけ、合理的(判断)機能だけしかないということはあり得ないだろう。
 
『タイプ論』ではこんなふうに説明されている。

 現実に存在するあらゆるタイプに当てはまる根本法則は、それらが意識的な主要機能と並んでもう一つ、相対的に意識的な補助機能を持っており、しかもそれがいかなる点においても主要機能の本質と異なっているということである。

 たとえば感覚と組み合わさった現実的な知性・直観をちりばめた思索的な知性・感情判断の助けを借りて自らのイメージを選び取り表現する芸術家の直観・力強い知性に助けられて自らの幻視を理解させうるように言語化する哲学的直観・といったよく知られた人物像が生まれてくるのである。

[3]p438-p439

3.3 劣等機能


 これは優越機能の対極にくる機能になる。
 
 優越機能は習慣的に使われる機能、状態なので経験・学習を積んで分化・成長していく。しかし表に出ることもほとんどない対極の機能は経験・学習を積む機会がなく相対的に劣等に位置するという意味のようだ。
 
 劣等機能の取り扱いが良くないと神経症とまで行かなくても、様々な問題を引き起こすようで、『タイプ論』の中では優越機能の説明とは比べ物にならないほどページを割いている。
 
 ユングは定義の中でこう書いている。

 劣等機能は分化過程において取り残された機能と理解する。すなわち経験によると、自らの心的機能を同時に全て発達させることは----全ての条件が整うものではないので----ほとんど不可能である。

 社会の要求だけを考えても、人間は生まれつき最も得意とする機能、あるいは自らが社会的に成功するために最も有効な手段をなるような機能を真っ先に一番よく発達させることを余儀なくさせられる。

[3]p484-p485

 あなたご自身の経験に照らしてどうか?
 社会の要求だけでなく親や会社の要求に屈してやりたいことは後回しどころか石棺に埋葬していたことを思い起こす次第。さあ、続けよう。

 発達過程が偏ると、一つないし数個の機能の発達が必然的に取り残されてしまう。従ってこれらを「劣等」と呼ぶことは的を射ていよう。
(中略)

 正常な場合には劣等機能は、少なくともその作用は、意識されているが、これに対して神経症においてはその一部ないし大部分が無意識の手に落ちている。というのはあらゆるリビドーが優遇されている機能に供給されるのに応じて、劣等機能が退行的に発達する。

 すなわち太古的な前段階に逆戻りしてしまい、そのため意識的で優遇されている機能と相容れないものになってしまうからである。

[3]p485

 ここで無意識と言っているのは紛らわしいが、完全に無意識に沈んでしまい一瞬でも意識の領域に浮上できなくなった状態を言っていると思われる。図1ではグラジエーションをかけて、時には意識の領域に浮上できるとこともあるような意味合いを醸し出した。
 
 完全に無意識の領域に沈んでしまった機能の怖さについてはこんな説明がされる。

 普通なら意識されている機能が無意識の手に落ちてしまうと、この機能に特有のエネルギーまでも無意識の手に落ちてしまう。

 例えば感情のような生まれつきの機能には生得的に備わったエネルギーがあり、しかもこれはしっかりと組織化された生きた体系であって、このエネルギーを完全に奪うことは不可能である。
(中略)

そのため無意識が不自然に活性する。

[3]p485

不都合に感情機能が振る舞い出すことになるというわけ。
こうなったらどうするかはこう書いてある。

 劣等機能を無意識から解放するためには、まさに無意識化した機能によって沸き立っている無意識的な夢想の産物を、明るみに出すしかない。

 こうした夢想を意識化することによって劣等機能も再び意識されることになり、それによって発達の可能性が与えられるのである

[3]p485-p486

先にあげた8つのタイプに対応した劣等機能の特徴が細かく『タイプ論』には説明されておりそれらは次回以降に回したい。
 
今回はここまで。

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参考文献[1] MBTIタイプ入門(第6版)https://amzn.asia/d/gYIF9uL
 
参考文献[2] MBTIタイプ入門 タイプダイナミクスとタイプ発達編https://amzn.asia/d/70n8tG2
 
参考文献[3] 『タイプ論』https://amzn.asia/d/2t5symt
・補論3: スイス精神医師会、チューリッヒ、1928年において行われた講演。『現代における心の問題』p101
・補論4: 『南ドイツ月報』1936年2月号に初出。
 
参考文献[4] ユングのタイプ論に関する研究: 「こころの羅針盤」としての現代的意義 (箱庭療法学モノグラフ第21巻) https://amzn.asia/d/7aCkmyB
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こころざし創研 代表
ティール・コーチ 小河節生
E-mail: info@teal-coach.com
URL: 工事中
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