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その背中を追い続けてChapter3

その日のことを僕は今も鮮明に覚えている。

生まれて初めて訪れる日本武道館。

ちょっと怖そうなお兄さんやお姉さんにビビりながら野暮ったい当時の僕は緊張したまま端っこで開場を待っていた。

正直に言うと緊張のあまり3時間前に着いてしまい誰もいないときから端っこにいたけれど。

「あれがダフ屋か…」とか思いながらも目を合わせないようにひたすら金色の玉ねぎみたいなものを見つめていた。

そしてようやく入った武道館の2階席はステージからものすごく遠かった。

とはいえそこは異空間。

聞いたこともないドラムンベースのSEがなんだか巨大生物の鼓動のようだし全体的に暗い。

なんか変だなと思ったらステージのあらゆるところが蓄光塗料で塗装されていて四方からブラックライトで照らされていた。

開演が近づくにつれてあちこちから野太い布袋コールが起き始めいつしか地鳴りのようになっていた。

そして暗転。

そこに現れた布袋さんもまた蓄光素材で作られた衣装を纏い髪の毛は真っ青だった。『SuperSonicGeneration』のイントロとなるジェットエンジンのスタート音が聞こえた瞬間、僕はステージから目が離せなくなった。

武道館の2階席後方から見る布袋さんはマッチ棒が爪楊枝を持っているようにしか見えないくらい距離があったけれど距離を打ち消すような爆音の連続が僕を包んだ。

自然と体が動き始め何かが目覚めた気がした。

このツアーで布袋さんのサポートをしていたベーシストはhideのサポートもしていたチロリン。

ギターはThe Mad capsule marketsにいた石垣愛という実に激しい組み合わせだったことも僕にとって新鮮で後々、様々な影響を与えてくれることになった。

前半はアルバムのトラックリストのまま進んでいく珍しいセットリストで畳みかけるようなデジタルロックだったのに対して中盤はアコースティックな展開。

そこからクライマックスに向けて一気にギターバトルを全面に打ち出した展開になっていき布袋さんの魅力を全て感じることができるライヴだった。

ただちょっと残念だったのは代表曲をほとんどプレイしなかったことかな。

もちろん後から考えればそれがまたレアなツアーだったなと思えるわけだけど。

トレードマークのG柄と呼ばれる幾何学模様も蓄光塗料になっていたり火の玉みたいなファイヤーボールという変形ギター、まるで芸術品みたいなゼマイティス。

次から次に出てくるギターが僕には魔法の杖や侍の刀に見えた。

あらゆることが新鮮で衝撃でしかなく僕は改めて布袋さんに強く憧れるようになった。

さすがに髪を青くすることはできないけれどエレキギターは手にしたいと思いながら何とも言えない心地よい疲労感に包まれて僕は武道館を後にした。


人は自分にとって衝撃的だったことや快感だったことを伝えたくなる生き物だと思っている。

当然、僕もライヴで体験した衝撃的な洗礼を誰かに伝えたかった。

が、高校を休学してスナフキン状態な僕には伝える人がいなかった。

なので仕方なく通っていたカウンセリングでその日のことを伝えることにしたのだけど、これがプラスに働いた。

何しろここにはオカンも通っているので僕の話は職員間で共有されている。

おそらくオカンのカウンセラーから何かしらの働きかけがあったんだろう。

あれほど反対していたエレキギター。

それを買う許可が出たのだった。

言うまでもなく持つならG柄のシグネチャーモデルと心に決めていた僕は翌週、楽器屋を訪れた。

そして店員さんから悲しい現実を突き付けられることになった。

「レフティ(左利き)はこれしかないんですよねぇ…それにメーカーに在庫がないと3ヶ月くらいかかりますよ」

カタログに載っていたのはG柄でもなければ変形ギターでもなく至ってシンプルなフェンダージャパンのストラトキャスターとテレキャスターだけだった…

せめて真っ赤なギターを…と思っていたけどチェリーサンバースト一択。

僕の人生においてこの時ほど左利きを恨めしく思ったことはない。

とはいえ背に腹は代えられない。

僕はフェンダージャパンのストラトキャスターを注文して納品されるのをじっと待つのだった…

続く…



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