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懊悩タイムトラベルVol.2-2

横浜でデートを終えた僕らは彼女が泊まるホテルの街まで電車で移動した。
と言っても僕は泊まることができないので送るだけ。
日付が変わる前には家に戻ってなけりゃならなかった。
The CLASHの影響を受けてパンクスだったのに親の言いつけは守る律儀さがこの頃はあった。
そんな律儀なパンク少年だった僕は生まれて初めてセックスをした。
18歳というのは周りの仲間と比べるといくらか遅かったので何だか余計な荷物をおろすことができたような安心感が勝ってしまい気持ちが良いとかそういうことはほとんど無かった。
よく分からないけれどこういうもんなのか…くらいでしかなくて、どちらかといえば面倒なことだと思っていた記憶がある。
帰りの電車でも周りから聞いていた話とだいぶ違うなと思いながらドア横でいちゃついているカップルを見て自分がさっきしてきたことを思い出すと恋愛って謎めいたところが多すぎるなぁなんて考え込んでしまうような性格の持ち主だった。
実に不便だ。
翌朝、僕は普段はしない早起きをして彼女を迎えに行った。
昨日と違う香りを漂わせながらとびきりの笑顔でハグしてくれたとき、よく分からないけど幸せってこういうことなんだろうな…と思いながら今夜もセックスをするのだろうか…と頭の片隅で考えていた。

この日は八景島シーパラダイスを訪れてオッサンみたいな姿勢で寝てるアザラシやセイウチを見てはゲラゲラ笑っていた。
彼女は僕のしょうもないギャグや形態模写でよく笑ってくれて、それが何だか僕を認めてくれているような気がしてずっと笑わせようとしていた。
背伸びしまくりの純粋青年を彼女がどう思っていたかは知らないけれどかわいい年下の子くらいには思っていたと思う。
明確に覚えているのは付けている香水がダビドフのクールウォーターだったこと。
ボトルが僕の好きなブルー系でとても奇麗だったのもあると思う。
ちなみに現在の僕が付けているのはメンズのクールウォーター。
と言ってもなにか影響を受けたわけじゃなくてカッチリでもラフでも使えるから使っているだけで彼女の影響というわけじゃない。

この日の夜も僕はセックスをした。
肌を重ねると温かさと重みが心地良いことには気づいたけれど相変わらずセックス自体には魅力を感じていなくてどこか冷静なままだった。

もし相性というものがあるとしたらあまり良くなかったのかもしれないけれど初めての相手でそんなことが分かるはずもないので僕の感覚がどこか欠落しているような不安さが付きまとっていた。

ずっと描いていたセックスの幻想はしょせん幻想に過ぎない。

そんなことを考えながら僕はこの日も律儀に帰宅した。


にも関わらず翌日、僕と彼女はラブホテルにいた。

単純に僕が行ってみたかっただけなんだけどぼんやりしに行く場所ではないから少しだけ後悔した。

ただベッドが回るとか鏡張りになっているわけじゃないんだなと変なところで安心していた。

が、寝てから天井が鏡ということに気づいた。

彼女が上になっているときに自分と目が合うので小っ恥ずかしくなってしまい気が散って仕方がなかった。

思っていたよりもセックスってややこしいな…と思いながらも肌を合わせていると落ち着くので夕方までホテルで過ごしていた。

この日が一緒に過ごす最後の夜。

さすがに後ろ髪を引かれたけれど僕は律儀に家に帰った。


そういえば彼女が来たのはクリスマスの直後だったので僕にディープグリーンのロングマフラーをプレゼントしてくれた。

それはどんなマフラーよりも温かくて素敵なデザインだった。

そのマフラーに彼女は別れ際、お気に入りの香水を吹きかけてくれた。

僕があまりにも寂しがりやなので気遣ってくれたときに僕は急に別れがつらくなって泣いてしまった。

なんだか逆のような気がしたけれど止まらないものは止まらないので空港のロビーでぎりぎりまで抱き合っていた。


空港からの帰り道、次は僕が会いに行こうと決めていた。

ずっと一緒にいたい。

よくドラマや映画で聞くセリフだけど本当にこんな気持ちになるんだな…なんてことを考えながら年の瀬のガラ空き電車に揺られていた。


そして僕は予定通り春休みを使って札幌を訪れることになった。

そこから僕の苦悩の日々が始まるのだけど今回はここまでにしておこう。

我ながら…暗い恋愛だな…と思っております。

お付き合いいただきありがとうございました。

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