真実の盗撮事件簿 第一章《和歌山盗撮事件》一 発端

なぜ盗撮事件と関わることになったのか。
以前私が書いた、真実の盗撮事件簿1の完成版を配信販売をしていたのですが配信会社の閉鎖・私自身が保管していたHDDの破損が原因でプロット原稿しか手元になかったものを、新たに校閲して頂き再公開することとしました。


真実の盗撮事件簿  
著者 全国盗撮犯罪防止ネットワーク 平 松 直 哉
 
第一章 《和歌山盗撮事件》
一  発端
二  盗撮ビデオを検証する
三  3つの柱
四  関西系大手盗撮会社
五  伝説の盗撮師和歌山AC
六  仮想店舗の復元
七  和歌山の盗撮現場を発見
八  和歌山県警へ
九  信頼関係の破綻
十  ふざけるな!和歌山県警
十一 市会議員田中孝季氏との出会い
十二 犯人逮捕
十三 和歌山県迷惑防止条例
 
第二章 《捜査するジャーナリスト黒木昭雄》
十四 出会い
十五 もう一つの和歌山事件
十六 和歌山から全国へ
十七 白浜町の怠慢
十八 盗撮防止法案
十九 草津町の努力
二十 韓国盗撮の実態
二一 2006年盗撮現状調査の実施
二二 2007年懲りない白浜町の盗撮
 
第三章 《盗撮犯罪》
二三 盗撮犯罪統計資料
二四 盗撮から身を守る方法
二五 被害者救済と盗撮防止法
二六 感謝
二七 盗撮犯罪資料
(注)著書制作は2012年頃であり、その当時を包み隠さず記録し、後世に残していくためのものである。また一部加筆・修正している箇所もあるが、内容に差し障りない程度である。


私は「真実を追究する総合調査機関」として生まれ育った故郷の和歌山県和歌山市と大阪府枚方市(※2024年現在閉社)に活動拠点を置く調査会社の代表である。通常は、民事・刑事事案を問わず、依頼者の権利の保全を目的とした調査業務(探偵業)を正業として生計を立てている探偵だ。

 その私が、盗撮犯罪の実態を解明する相談を受けてから早いものでもう8年になろうとしている。その間、私が感じてきたのは「怒り」の一言に尽きる。盗撮ビデオを解析する中で「見えない盗撮犯との孤独な闘い」、「被害企業の保身・行政の怠慢」、「数万人もの盗撮犯罪の被害者達の怒り」を痛感し、卑劣な犯罪の実情に辟易していた。そしていつの間にか狭い当社事務所の一角を資料としての膨大な量の盗撮ビデオや関連資料で埋め尽くされてしまった。
一体なぜここまで盗撮犯罪が野放しにされてきたのだろうか?
まず他の犯罪と比べ、被害者自身が加害者の犯罪行為に気が付かないことにある。これは盗撮犯罪の性質上、性癖のない被害者が盗撮映像などに接触する機会がないため仕方がないが、もし罪を犯し犯人が逮捕されたとしても、盗撮犯罪そのものを厳しく罰する法律がないということをどの位の人が知っているだろうか。

 現在、盗撮行為を犯した犯人を罰する法として、軽犯罪法(昭和23年5月1日法律第39号昭和23年5月2日施行改正昭和48年法律第105号)第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。二十三項「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他、人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」とある。そして驚くのは、その罪を犯した者が支払う制裁金の額は、なんとたったの1万円以下だということである。
 
 軽犯罪法が定められた昭和23年当時と比べ、犯罪の手口そのものが巧妙になり、当時の法律では対処が出来ない状況であるにも関わらず、法律の見直しの必要性は本当になかったのだろうか。

 それ以外に、盗撮犯罪を規制する定めとして、各都道府県が個別に定めた条例があるのだが、47都道府県すべてが横並びで定めている訳ではない。現在、47都道府県中22の都道府県が公衆に著しく迷惑をかける行為の禁止として「卑猥な行為の禁止」と定め、その内18の都道府県が、公共の場所での盗撮行為を明文で定め規制しているのだが、未だに定められていない都道府県も多く存在する。
 
 例えば盗撮に関する条例が定められている所で盗撮犯罪が起きれば条例違反として犯人を検挙できるのだが、条例の定められていない場所で罪を犯した場合、軽犯罪法違反として1万円以下の罰金で済まされる。ちなみに条例の制裁金の最高金額が100万円と定められており、つまり同じ「罪」を犯したとしても罰金が99万円もの開きがあることになる。
 これに疑問を持っているのはきっと私だけではないはずだ。

 また公衆浴場施設で盗撮行為が発見された場合、建造物侵入罪などにて検挙される場合もあり、その場合は施設が被害者になる。だって、建造物侵入罪だから・・・もし盗撮目的で施設へ侵入したとしても、盗撮行為をする前に捕まったりしたら・・・
 盗撮目的であることを犯人が黙っていたとしたら・・・
このように根は盗撮犯罪での逮捕であっても、バラバラな法律で処罰をしているのが現状だ。
 これでは実際の盗撮犯罪の被害実態を明確にすることすら困難でほぼ不可能だ。私が盗撮の実態調査に着手した当初から、盗撮犯罪を「女性の性的尊厳を脅かし、プライバシーを著しく侵害する卑劣な猥褻犯罪」と位置づけ、国内ではじめて長期間に亘り実態解明調査を実施することになった。

 後述するが、私達の解明調査方法の一つとして、実際の盗撮映像から盗撮場所を特定する方法がある。
 その過程で数え切れない盗撮犯罪の被害者達をモニターを通して見てきた。
 無邪気にお母さんの周りを走り回るまだ幼い女児ら、身体の発育途中の少女達、そして若い女性から初老の女性まで、数万人以上の被害者を見てきた。
そして私が最も許せないのが浴場施設を運営する企業のお粗末な実態である。自施設で盗撮されている事実を知りながらも渉外室に所属する県警のOBを使い事実隠しに奮闘する企業や、苦し紛れのいい訳をする寝惚けた企業など、本当に情けない実態を盗撮事件を通じ私は見てしまったのだ。
 
 今回本書を書くにあたり、盗撮犯罪の脅威と被害者の苦しみを少しでもご理解いただき、その上で法の必要性・企業の在り方について皆さんに問いかけをしたいものである。当団体の活動は被害者保護を目的とし、今後もいかなる圧力にも屈することなく、信条を曲げずに活動を続けていくのみである。


第一章           《和歌山盗撮事件》
一 発端
私が生まれ育った町和歌山は、本州の最南端に位置し、温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、霊峰高野山と熊野三山など、歴史と文化の宝庫でもあり、美しい海、広大な山々、素晴らしい自然と癒しの町と胸を張って本来は紹介したいのだが、その裏で数十年間に亘り繰り広げられている事件がある。

 それは「盗撮」という卑劣な犯罪で、入浴中の女性のあらわな姿をこっそり撮影し、猥褻映像として、全国的に販売されている事件だ。
 盗撮映像の一部の商品には、地域限定販売という商品もあるが、和歌山の某浴場施設で撮影され、編集された盗撮映像が、その浴場施設より数百メートル離れたセルビデオ店で堂々と販売されているのだから驚きというより脅威である。
 ではなぜ数十年間もの間、盗撮犯罪が放置され続けてきたのか?その理由の一つは、被害者であるはずの女性が、盗撮ビデオを見る機会が無いという現実。そしてもし仮に貴方が盗撮ビデオをみている時、知り合いの女性が映っていたとして、貴方ならその事実を知らせることが出来るだろうか。事実を知らせることで、盗撮ビデオを見ていることが相手に知られてしまうこととなり、以後偏見的な目で見られることが想定の範囲内であり、多分本人に知らせることは出来ないだろう。

 そんな背景があり、盗撮被害の実態が表に出にくいのだと思われる。和歌山で起こった事件でいうならば、本来、市民の平和を守るべき和歌山県警察本部の一部の者の怠慢と企業の保身が、これ程まで盗撮事件を拡大させたといえるだろう。

 あれは忘れもしない、平成12年も終わりに近づいた寒い日の夕方だった。仕事柄、クリスマスが終わる頃まで浮気調査でバタバタと街中を飛び回っているのだが、その日は翌朝からの仕事に備え早めの帰り仕度をしていた。
その時、事務所の電話が鳴ったのだった。
相手は長年に亘り交友のある、元和歌山県東警察署 刑事第二課 暴力団対策係 主任で、当時 警新宮警察署本宮交番(現田辺警察署管轄)にて勤務する新屋巡査部長からの電話であった。

 「おう平松ちゃん、新屋です。」唐突な切り出しは相も変わらず元気な声がいつものお互いの挨拶なのだが、この日はいつもと違う声のトーンであることはすぐ分かった。「平松、ちょっと困ってるんや」という切り出しだったのを今も覚えている。「ワシの知ってる温泉施設から相談を受けているんや。」その温泉施設を利用した女性のお客さんが、「何者かに入浴姿を撮影され、それが街のビデオ店で盗撮ビデオとして販売されている」という内容の抗議の電話が温泉施設にあり、慌てふためいた施設の支配人が、管轄する新宮警察署に相談に訪れたのだが、対応した警察官は「抗議の主が誰か解らなければ販売されているビデオのタイトルさえも解らないという状態では対応が出来ない」と、その支配人からの訴えを相談の域に止め、帰らせたみたいだ。  まあ、私がその警察官でも同じ対応をしたとは思うのだが、顧客の安全を守るべき立場から、放置しておくことができない事案であり、もしそれが事実だとしたら施設の信用を落とすだけでは済まない大きな信用問題となることから、巡回に訪れた新屋巡査部長(当時)に相談したのだ。  相談を受けた新屋巡査部長の性格からしてどんな小さな犯罪も放任することが出来ない性分だということは、長年の付き合いの中で知っている。

 少し話は脱線するのだが、私と新屋巡査部長との付き合いはもうかれこれ25年以上になる。
私が幼少の頃習っていた少年剣道の先生であり、手加減のない練習は厳しく私は嫌で仕方がなかった。
 小学生相手に、小手であり面であり、容赦なく打ってくる。中には余りの痛さに泣いて帰る者もいた程である。
 私自身、練習が終わると至る所が腫上がっていたのを今でも覚えている。それでも練習が終われば、優しい人柄から人気のある先生だった。
そんな新屋巡査部長とのお付き合いは変わることなく、私が探偵業に身を置いてからも、色々な事案で知恵を頂くことの出来る、唯一信頼できる警察官なのである。
 その新屋巡査部長の頼みを断る理由もないことから二つ返事で「一度私の中で集められるだけの情報を集めてみます。」とだけ答え、電話を切った。

 私はこの相談があるまで、当然男性だからアダルトビデオは見たことはあるが盗撮ビデオというものを見たことがなかった。
 ただ遠い昔の話に、「和歌山で撮影された盗撮ビデオの噂」を聞いたことはあったのだが、それが和歌山のどこで撮影されたものかというハッキリとした話を聞いた訳でもなく、おぼろげな記憶でしかなかったため、私の友人で様々な業界に顔の利く人物のMに電話をした。

 「もしもし唐突な質問なのだけど、和歌山で撮影された女湯の盗撮ビデオの噂って聞いたことある?」と聞くと、「なんか聞いた事はあるけどな~ハッキリ解らんわ~」という簡単な返事が返ってきただけだった。
 「そうか、ありがとう。なんか話が掴めたら情報をまわして」と言って一旦電話を切った。

 私の周りでアダルトビデオに精通している知人を考えてはみるが思い当たる人物はいないし、誰かいないものかと何冊もある名刺フォルダを引っ張り出し探してみたけれど、映像関係者はいない。
 そうなれば、手っ取り早く情報を収集するには「餅は餅屋に」ではないが、盗撮ビデオを取扱うところで情報を収集するのが早いのではないか?という安易な考えから、セルビデオ店(販売を主流とするアダルトビデオ店)に客を装い聞き込みを掛けるため、電話帳で探したところ、和歌山市近郊に数件の販売店があることが判明した。

 そこで私は、事務所から近い販売店へ足を運んだのであった。
その時の私は「盗撮ビデオはそれ程多くないだろう。」という安易な考えがあったのだが、一軒目の販売店でその考えがことごとく砕け散ったのであった。

 生まれて初めて入るセルビデオ店に緊張しながら入り、ドアを開けるとアルバイト店員と思われる20代前半の店員が私の方を見て「いらっしゃいませ」と、気だるそうに言った。
 私は、その愛想の悪い店員に「盗撮系のビデオありますか?」と聞くと「一番奥にあります。」と素っ気ない返事が返って来た。

 狭い店内は、迷路のように組まれた棚を埋め尽くすかのように所狭しと並んだアダルトビデオが私の身長より高くまで積まれている。視聴用に映し出されたモニターからは、艶かしい女性の喘ぎ声が響く中、私は雰囲気に圧倒されながら、店の奥に向かって進んだ。「盗撮ビデオ」と書かれた棚の方に向かっていくと、辺り一面の棚が数百本以上はあると思われる「盗撮」というジャンルのビデオで埋め尽くされていた。
一概に盗撮ビデオといってもそのジャンルの多さに唖然としたのである。
・ラブホテルでの男女の営みを隠し撮りしたとする「ラブホテル盗撮」
・探偵顔負けの暗視撮影で野外や車内の男女の行為を撮影した「赤外線盗撮」
・ジャケットを見るだけでも顔を背けたくなる「トイレ盗撮」
・デパートの試着室や水着売り場での着替えシーンを撮影したとする「試着室盗撮」
・逆さ撮りのパンチラなどを撮影した「衣類盗撮」・離れたところから望遠機器を使用し、露天風呂などを撮影した「露天風呂盗撮」
・スーパー銭湯やクアハウスなどの浴場施設での脱衣シーンや入浴姿を撮影したとする「風呂盗撮・脱衣所盗撮」など各ジャンル別に陳列されており、その量に唖然としたのはいうまでもない。

 本来、盗撮行為は軽犯罪法にふれる違法行為であり、その犯罪の証拠ともいえる映像を商品として町の販売店で堂々と販売しているのだからその商品の信憑性を疑いたくなる訳だが「本当にこれが盗撮ビデオなの?」と疑いたくなるものから「これは本物では?」と感じるものまで様々である。
 
 そして何よりも値段を見て驚いた。通常のアダルトビデオの販売価格が、数千円から販売されているのに対し、盗撮ビデオの販売価格は高い物だと一本数万円もするものまである。

 浴場盗撮だけでも、百タイトル以上あり一本一万円ぐらいする。
そんなビデオを早々何本も購入することはできない現実が私を惑わした。

 ましてや調査の依頼ではなく、経費はすべて自腹となることから、私は再度店員の所まで行き、盗撮ビデオについて興味の有るフリをしながら、情報を収集することにしたのだが、思っていた以上に店員の口は重く、素っ気ない回答しか返ってこなかった。

 店員からの情報が収集出来ない以上、無駄口をたたいていても仕方がないと思い、私は数本の盗撮ビデオを購入するため、一本一本を手に取り、ジャケットに書かれているキャッチコピーや写真から少しでも情報を集める。
 「それにしても高い!何で表ビデオなのにこんな値段なの、別に私自身好きで買うのでもないのに・・・」と心の中で感じながら「和歌山での盗撮実態を調べるためには仕方がないか」と、渋々他の客の目を気にしながら、狭い店内で片端から盗撮ビデオを手に取り、パッケージを解析したのだった。

 実はこのパッケージを解析するだけでも多くの情報を得ることができる。今から考えれば、この時の解析が後々盗撮現場特定を楽にすることとなった。
 盗撮ビデオ販売会社は、客に商品を購入させるために目を引くキャッチコピーに試行錯誤を施している。
 また、商品を販売する「販売元」、そして企画制作する「企画会社」が明記されており、被写体となる女性のおよその年齢、「美少女達の着替え」十五歳~十八歳「うら若き乙女達」十七歳~二十歳「花の女子大生達」十八歳~二十二歳「人妻達の」といった大まかな年齢を想定できるキャッチコピー、ジャケットに使用されている写真に映るモザイク処理のされていない素顔の女性が確認できる。
 また盗撮場所の情報として「日本の名湯・温泉百選にも選ばれた」・「開放感のある山奥露天風呂」・「有名シティープール」など大まかな場所を特定する事ができる情報なども一部含まれている。撮影方法も盗撮場所によって様々な特色が見られた。
・追い撮り「一人の対象者の行動を脱衣所から浴室内を追い続けて撮影する方法」
・電波盗撮「電波を利用して撮影した映像を離れた場所で受信し記録する撮影方法」
・望遠盗撮「見晴らしの良い場所からカメラと望遠鏡をジョイントさせ撮影する」など、盗撮方法までもがジャケットには書かれている。中には、映像の鮮明さを謳うため「デジタル録画」と標記しハイテク機器のイメージを売りにしている物からオーソドックスなピンホールレンズで撮影したと思われる映像など、私達探偵が日々の業務の中で使用している機器を使い撮影している様子がジャケットに書かれているキャッチコピーからの情報で充分に想定できた。

 だが、肝心の問題である「和歌山で撮影されたもの」に繋がる情報は何一つなかった。これだけの情報をひとつひとつ見て行くだけでも結構な作業であるが、この時、約2時間以上見ていたと思う。
 店員からすれば、「一見さんの客がマニアックな盗撮ビデオコーナーで数時間も見ている」のだから、かなり怪しい客である。また店内にある万引き防止策である威嚇用防犯カメラの視線を気にしながらメモを取ることもできず、目星をつけた数本の浴場盗撮ビデオを購入し、店を後にした。その後色々な視点から盗撮映像を解析する為、スタッフ以外にも数名に協力してもらい見ることにした。
つづく・・・

 

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