真実の盗撮事件簿 七 和歌山の盗撮現場を発見

当時、私が住んでいた和歌山市には、М興産が運営する和歌山市きっての観光スポット内にある「KK温泉」、老舗の材木屋が事業展開する「スーパー銭湯U」、スイミングスクールを母体として運営する「K湯」、遊戯施設など幅広く経営している「Kの湯」などがあり、一般公衆浴場施設として天然温泉を売りにしている「H湯」などが存在する。

 その視野を和歌山市内から紀ノ川筋に向けると数件の温泉施設があり、県内全域に向ければ有田、湯浅、みなべ、白浜、龍神、椿、勝浦、本宮と至るところに温泉が存在する温泉天国なのである。

 さらに町の銭湯などを数に入れるとかなりの件数の温泉・公衆浴場施設が存在する。盗撮販売会社のある大阪から最南端のW温泉まで約300キロ近くある。

 その間にある全ての浴場施設を視野にいれて調査するとなると時間が掛かりすぎるし、その都度の入浴料金も馬鹿にならない。そこでまずは、和歌山県内の観光地にある温泉施設と大阪に向けた主要道路沿いにある公衆浴場やスーパー銭湯、温泉施設を「調査対象店舗」として調査を展開することとした。

 調査する手順としてバーチャル店舗として作成した自社資料と、インターネット上に公開されている浴場施設のホームページや温泉マニアのホームページ・書店で販売している温泉掲載の本・企業が配布している資料、リーフレット・パンフレット・などの情報と自社資料とを照らし合わせ類似する場所を一つ一つ確認していくのだが一軒の店舗を特定するには、膨大な時間と根気が必要とされる。

 その作業を重ねて私たちは被害現場を特定しているが、確認の出来ない脱衣所については、個別に分けて現場特定時に確認することとした。そんな作業の中で群を抜いて多いのが、KK温泉で撮影された映像だった。

 同店の特色として、露天風呂のシーンで映るヨーロピアン風の屋根の形状とオブジェ・瓦の色・壁の色・ダクトの位置・換気口の色と位置そして形状・露天風呂に設置されている手摺の形状と位置・植物の種類・石灯の形状・ブルーのタオルに赤色のロッカーキーケース・ロッカーの素材と形状・番号プレート・観葉植物・温泉を示す泉質表・冷水機・そして窓越しに映し出された近隣のマンションの形状など、出力した映像は数百点にのぼった。「間違いない」私達が出した場所は、和歌山唯一のテーマパークとして有名な観光名所内にある、「KK温泉」しかないという答えだった。
 
・「KK温泉」
私達はその状況を自身の目で確認するため、KK温泉へ向かった。駐車場に調査車両を停め、出力した画像と屋根の形状・オブジェなどを照らし合わせ確認した結果、盗撮ビデオから出力した画像と酷似していることを確認した。
 
 その後店内確認のため入浴料を支払い、脱衣所と浴場・露天風呂内一つ一つの装備品を数時間掛けて照らし合わせて確認した結果、私達の読みのとおり、膨大な盗撮ビデオにて撮影されていた場所は、「KK温泉」であることが判明したのだった。

 KK温泉とは、あの世界的に有名なPの母体に関連する企業でもあり、その施設を猥褻な盗撮ビデオのロケ地として施設側が貸し出すことがないのは、聞かずとも解る明確な答えであり、それと同時に、和歌山で盗撮されたビデオが存在するという答えが出た瞬間であった。

 私が確認作業を終え一階のロビーに降りてくると、フロアーを走り回る子供に注意するまだ若い母親の顔が、モニターに写し出された盗撮犯罪の被害者とオーバーラップして見えた。

 盗撮犯に対し許せない気持ちとやるせない苛立ちの中で、ただ見ているだけしか出来ない気持ちに後ろ髪を引かれる思いで施設を後にしたのを今も覚えている。※KK温泉の盗撮映像は、脱衣所・室内浴室・露天風呂のすべての場所で撮影されているのを私達は確認した。
 
・「スーパー銭湯U」
「あ!この石灯篭とししおどしがある。」
「これはスーパー銭湯Uの露天風呂では?」
某セルビデオ販売店で、盗撮ビデオを解析していた時、ジャケットに映ったワンシーンの写真が私の目を止めた。

 関西系大手盗撮グループ「龍」のジャケットには、露天風呂で座る女性の後ろに映る石灯篭とししおどし、それと女性が使用しているオレンジ色のタオルが見える。

 私は数本の盗撮ビデオを購入し、早々に事務所に戻った。
スーパー銭湯Uは、和歌山市内の西部に位置するところにあり、Yという材木店が運営をしているスーパー銭湯で、現在二代目の若社長が代表を務めている。和歌山のスーパー銭湯として「ゆーとぴあ」の次に出来た2件目の浴場施設だ。事務所に着いた私は、業務用ビデオデッキにテープを押し込み問題のシーンを早送りで再生した。

 昼下がりの露天風呂に、一人でたたずむ十代と思われる少女。露天風呂の淵に腰を掛け、癒しの時間を満喫しているかの様に思われる。

 少女の後ろに映った石灯籠とししおどし、白い壁に同色のパイプ。カメラは少女を追い掛けるかの様にアングルが変わる。「間違いなかった!やっぱりUだ!」私は、すぐに自社で集めた資料と問題のシーンを照らし合わせたところ、少女が腰を掛けていた石の形状が同じである。

 また手摺の位置関係、資料として集めたパンフレットの撮影位置と同じ場所から撮影されているのだからすべてのものが一致するのは当然である。

 私は過去のビデオを含め、すべてのビデオを再度、片っ端から探した。過去解析した時は気付かなかったシーンが次から次へと出てくる。一般浴場にあるウェーブ模様のタイル壁と一般浴場・ロイヤル(別料金の天然露天温泉コーナー)の天井部分にある木の形をしたタイルである。

 資料として購入したビデオの大半に、スーパー銭湯Uの浴室のシーンが挿入されていたのだった。また、スーパー銭湯Uは日替わりで男湯と女湯を入れ替えているので、もう一つの洋風の露天風呂の映像を探した。

 「必ずあるはずだ。」スーパー銭湯Uの洋風露天風呂には、ビーナスの像と雨よけの天井にはステンドガラスを使用し、白色の柱を使ってヨーロピアン風を演出している。

 その映像を探すため、約二週間一本一本を見続けたが、当時私達が持っている盗撮映像では発見出来なかったのだが、後日発売されたN書店企画会社CU●ID女銭湯「ギャル編」の中で、発見する事が出来た。スーパー銭湯Uは、脱衣所・一般浴場・ロイヤルルーム・和風・洋風の露天風呂のすべてにおいて撮影されており本書を書いている平成19年現在も発売されている。
 
・「K湯」
「有名女子大寮隣接の女風呂」
「◎有名女子大寮の近くにある街の銭湯。」
「ここは地元の男達なら誰でも知っている位、女子大生がワンサカと来る事で有名・・・ナント風呂屋なのにナンパ目的で来る男達がいる位だとか・・・マニア必見ですぞ!」
あるビデオのパッケージに書かれているキャッチフレーズであった。女子大近くの大学?どこだろうな・・・和歌山の某女子大の近くには浴場施設が存在しない。
 
 共学の大学でいえばW大学かK大学しか和歌山にはない。K大学の近くには浴場施設はない。

 あるとするならば、和歌山大学近くには「K湯」というスーパー銭湯がある。ジャケットに写った一枚の写真にはK湯の特色である「赤色のサッシ」が写っている。
 
 「このライン?ガラスドアに微かに写る白色のライン…」私はスタッフに「D●GON」JDF-●から出力した画像を出す様に指示した。これがすべてです、と出されたフォルダーの写真を見た瞬間、これは「K湯」で撮影された盗撮映像であることがすぐ解った。

 K湯は、和歌山市北部に位置するところにあるスイミングスクールが経営するスーパー銭湯である。

 赤色のサッシ・低いロッカー・ロビーから脱衣所に入る木製の引き戸・非常灯の位置・空調ダクトの位置と形状・浴室内の洗い場に使用されている仕切りの材質・形状・天井と柱の位置関係などすべてがK湯と全く同じなのである。

 協力者で私の友人のMと二人で現地確認に向かった。KK温泉・スーパー銭湯Uと和歌山市内にある二件の浴場施設で盗撮されていてもおかしくないのだが・・・無言のまま車を運転するMの横顔を見ると歯を食いしばって苛立っているのがわかる。

 「どうしたんな?なんも言えへんけど」と聞くと「本当に許せないよな。」と一言だけ言った。Mには映像に映っていた少女と同年代の子どもがいる。一人の娘を持つ親として、仕事を終え協力してくれる彼の横顔に彼らしい誠実な一面を見たような気がした。

 私達は盗撮現場であるK湯の駐車場の奥に車を止めた。その状況を確認し店内へ入り、いつもの様に入浴料を支払い、フロントの前を通り脱衣所へつながる引き戸を開けた。

 その瞬間、私達の目の前に広がったのはビデオに写し出されていたシーンと同じ光景であった。

 木製の引き戸の形状・丸い形の時計とその位置・ロッカーの配列と口数・浴室の入口のドア・ドレッサー換気用ダクト・店頭ポップ・観葉植物とのどれをもっても同じだったのだ。
 
 パソコンと向かい合う解析調査については簡単であるが、今までの説明で特定方法はご理解頂けたと思う。

 しかし、本当に大変だったのは盗撮浴場施設を探していくことだった。

 一人の調査員が一日に入れる入浴件数は、5件が限界である。私達が入浴施設で一つ一つの特徴を確認して記録していくには、最低1件2時間以上を必要とし、他の入浴客の目もあることから、ある程度入浴や体を洗いながら一つ一つを記憶し、他の施設にない目立つ特徴・施設の位置関係を記憶する。

 私達が盗撮現場を特定する一つとして、シャワーの出ている時間をストップウォッチで計ったりもした。

 そんな事をしているとのぼせてくる。
通常の入浴と違い、二時間近く掛かるため突然鼻血が出てきたり、大変な作業だった。

 他のお客さんに不審がられない様に体を洗うフリをして入浴するのだが、この作業を繰り返し行うと成人男性の肌でも、脂分が落ちてガサガサになってくる。

 季節はまだ寒い頃だったから、体中が痛くって、痛くて・・・やわらかいタオルで体を拭くのさえ本当に辛かった。

 脂分が落ちた肌に少しでも脂分を補強する為に、施設を出た後スタッフと交互に保湿クリームを塗りながら次の浴場施設へと回った。スタッフからはクレームの声も上がったが、止めることは出来なかった。浴場施設で何も知らない利用者と盗撮の被害者をオーバーラップして見ていたからだった。

 そうして自身の体に鞭を打ちながら回った結果、和歌山県下の盗撮現場と大阪府下にある数件の温泉施設・スーパー銭湯で盗撮行為が繰り返し行われている実態を解明することが出来た。

 私達が特定した場所は、街中にあるごく普通の銭湯やスーパー銭湯ばかりであり、どう考えても卑劣で卑猥な盗撮ビデオの製作に加担するハズのない、本当に普通の浴場施設が盗撮ビデオの舞台となっていたのだった。これが、私達が長い時間を掛けて調査した結果なのである。

 

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