『紙の動物園』 - ケン・リュウ

 中国系の移民で大学ではCSを専攻していた…という作者の属性が見えるようだった。二世や三世にしては中国への帰属意識が強すぎると感じたが、Wikipediaで答え合わせをするとこう書いてあった。

1976年、中華人民共和国の蘭州に生まれる。8歳(11歳という説あり)の時、両親とともにアメリカ合衆国に渡り、以後はカリフォルニア州のパロアルトで育つ。

 プログラマをしていたのも事実だったが、ハーバード大学(!)で学んでいたのは法学だったそう。言われてみれば法律についての話題も多かった。しかしハーバードとは恐れ入った。優秀なんだなあ…。

 短編集なので『紙の動物園』以外にも収録されているがどれもある程度似通っていた。とにかく中国への想いが強い。それから中国系だからっていじめられてる描写が多い。というかそれしかない。「作家は自分の経験したことしか書けない」という言葉の重さ。きっと多感な学生時代に苦労させられたんだろうと痛ましく感じる。

 『月へ』で西遊記の孫悟空が登場するが、この猿のことを「ヒーロー中のヒーロー」と呼んでいるのが本当に良かった。あんたは玉皇大帝の十万人の兵をものともしなかった。あんたは山の下に千年閉じ込められてから自分の力で逃れた。…
 現実とは観念でしかないという話に孫悟空を持ってくるのが良かった。この古いおとぎ話が多くの中国人の子供時代にどれだけ勇気を与えたのか、それが理解できた気がして何か凄まじい気持ちがした。

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 ほんのここ最近で中国はついに “復興” しアメリカに追い付かんばかりの国力を取り戻しているが、ケン・リュウがこれらの作品を書いた頃は勿論まだ雌伏の時代だった。作中に「中国には暗い歴史しかない」というようなセリフもあったが、そういう時代背景が忘れられてゆき「中国と言えば強国」という現代のイメージが当たり前になると次第に雰囲気を読み取るのが難しくなるかも知れない。

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