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第三十三候 鷹乃学習(たかすなわちわざをならう)

暑い。暑くて、外に出ると体力気力が失くなっていく。太陽の強さに、いつもより日月(じつげつ)を意識する。

先日、茶道資料館で見た和歌「夏ふかき木の間の夕日影はへてこころ涼しき庭のうち水」*のように、涼を感じて興に入ろうにも、盆地の気温と湿気がなかなかそれを許さない。夜ごはんを食べ終わると、たまに溶けるように眠ってしまう。

太陽が存在感を増す暑中、月は秋冬より見えづらくなっている。夏の陽や入道雲、祭囃子などが前景にある中、月はひとつ後ろに下がっているように見える。

そんな月について考えていると、精神保健福祉士の新澤さんが書かれた『同じ月を見あげて』**という本を思い出す。心の病をそれぞれに抱えながら生きるひとびとやわたしたちの情景。わからないことばかりな世界の中にあって、ただもがいて、それでもたまに同じ月を見あげている情景。

わたしたちは、お金の稼ぎ方やコスト削減、時間短縮などを学ぶよりも、同じ月の見あげ方をまず学ばなければならないのではないだろうか、と思うときが度々ある。同じ月の見あげ方、ひととひととの繋がり方、目の前のひとと同じ場所に居る方法を。そのためには、焦らず、急がず、互いを聴き合う場を持つことが大切なように感じている。永井玲衣さんが実践される哲学対話のように***。

私たちはほんとうは、一緒に月を見ているはずだ。それぞれの仕方で。

あなたの月を、わたしの月を、そのそれぞれの見え方を聴き合える場が、ぽつぽつと増えていくことを願う。





参考文献・資料:
*掛物「庭中九景」, 裏千家今日庵蔵, 茶道総合資料館.
**新澤克憲, 『同じ月を見あげて』, 道和書院, 2024年. https://harmony1.theshop.jp/items/85621526
***永井玲衣, 『水中の哲学者たち』, 晶文社, 2021年. https://www.shobunsha.co.jp/?p=6703
山下 景子, 『二十四節気と七十二候の季節手帖』, 成美堂出版, 2013年. https://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415314846


(晩夏、小暑・末候、第三十三候 鷹乃学習(たかすなわちわざをならう))

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