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新国立劇場 初台アート・ロフト特集記事「ホフマン物語」ジュリエッタ衣裳修復プロジェクト~vol.2~

新国立劇場の公開スペースには、「初台アート・ロフト」という名前の衣裳展示ギャラリーがあります。そこでは、実際に舞台で使用された衣裳や精巧なレプリカたちが、修復され、舞台とはまた違う空間で新たな輝きを放ちます。

後世に、モノを残す価値。

その意味を思索しながら新たに生まれ変わった展示スペースです。

vol.1から引き続き、今回のお相手はギャラリー展示を監修されている衣裳作家・桜井久美さん(アトリエヒノデ代表)とテキスタイルデザイナーの牛尾卓巳さん(http://www.ushiotakumi.com/index.html)。
前回は修復内容を伺いましたが、話は広がって若きアーティストたちへのメッセージまで・・・。

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■ 人の手でしか伝わらない。人の手であれば伝えられる。
みんなの中にある“アート”とは

—— 衣裳を修復し展示することで、“新しい生命”を衣裳に吹き込むというお言葉が印象的でした

桜井:衣裳を修復してそれを展示するというのは、アートの世界でもう一度生きさせるという特殊なものなんですよ。人が一度着たものだから、そのときに不思議なことに魂が一個入っている。それをまた人前に出すときに、今度はこちらの魂を込めた別の世界を用意してあげる。するとどんどん成長していく。舞台のときとは違う意味を衣裳が持ち始めるんです。

—— なるほど。たしかに、多くのスタッフや役者の手に触れた衣裳には彼らの“想い”が宿っているような気がしますね。修復や展示というのは、衣裳に新たな魂を、人の手でまた宿していくような過程なんですね

牛尾:そうですね。特に人の手による仕事というのは大事だと思います。テキスタイルの世界でも随分前から手仕事は減ってきています。染めなんかもインクジェットプリントで行ってしまいます。多分、手間的にもコスト的にもそれがいいんでしょうけど。でも自分はやっぱり人の手仕事でしかできないことにこだわっていたいですね。一点ものを、時間をかけて染めて作るということ。衣裳を通してそういうことを伝えていきたいなと。
桜井:プリントはね、平面的だから。
牛尾:浅くなっちゃうんですよね、どうしても。
桜井:下手でも、人の手で描かれたものにやっぱり心がズキンと来ますよね。結局は人間が作ったものに感動するんですよ。そういう意味では舞台衣裳って最終的には全部手仕事だもんね。
牛尾:そうですね。
桜井:牛尾さんもよく担当しているけど、海外の劇場には衣裳に汚しを入れて立体的にする「汚し」っていう仕事があって。汚し専門のアーティストが各劇場にいて、それだけで食べていけるぐらい海外では価値を認められているんです。日本じゃあまり汚さないけどね。
牛尾:そこは違いがありますよね。
桜井:壁画修復とかフレスコ画修復でも、修復師がいますよね。手法を体系立てて、学生なんかにもどんどん教えている。衣裳をもう一度蘇らせるときにも、あれと同じことができると思うんです。初台アート・ロフトをきっかけに、そうなってほしいと思います。
牛尾:そうですね。そのためにはやはり手仕事でないといけません。人が舞台鑑賞に行くのも、やはり画面からは伝わりきらない“何か”を受け取りに行くんですよね。そしてその“何か”は、人と人の間を通じて確かに伝わるものだと思います。海外でワークショップなどを行うときでも、言葉も通じない子ども達がテキスタイルを見せると集まってきます。それで興味深そうにみんな見ている。伝わるものがあるんだなと思いますね。

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—— お二人には近々劇場での講座もしていただく予定です。そういう手仕事の魅力も伝えられる機会にしたいですね

桜井:服飾に興味のある方もない方も、子どもも大人もみんな来てほしいですね。「劇場に来る」「アートに触れる」って聞くと敷居が高く感じる人も多いですけど、そんなことない。アートはみんな持っているものなんだって伝えたいです。「だって、みんな子どものとき絵描いてたでしょ?」って(笑)。
牛尾:アートに対する敷居はありますよね。
桜井:海外の若者なんてさ、すぐに自分のことを「芸術家だ」って言い切るじゃない。でも日本でそれを言うと、
牛尾:ちょっと変な人になっちゃいますね(笑)。
桜井:そこを壊したいですよね。新しい物同士を合わせてみたり、既成概念を壊したり、アートはある種の破壊ですから。海外だと誰でも劇場に来ることができ、いつ来ても何かしらのレクチャーを無料開催していたりする。日本じゃまだまだ劇場との距離があるから、初台アート・ロフトにはそこを破壊してもらいたい(笑)。
牛尾言葉がなくても伝わるものがある。手仕事の魅力やアートを通して、そういうことを共有できるような機会にしたいですね。
桜井:そしてそれは誰でもできることなんだよ、ってね。「アートは遠のかなくて、いつもあなたの中にあるのよ」って、一人でも多くの人に伝えたいですね。

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新たなアートを生み出しながら、後世へと繋げようと活動されているお二人。その言葉には不思議な温かさとエネルギーを感じました。
ワークショップなどの情報も決まり次第公開いたしますのでぜひご覧ください!

新国立劇場 初台アート・ロフト『ファンタジー展』について       ☞☞☞詳細はこちらもご覧ください

対談者紹介
桜井久美さん

パリ・オペラ座の衣裳部へ押しかけて衣裳を学ぶ。その後、オペラやバレエなどの衣裳をロンドンのアトリエスタッフと共に担当して、ヨーロッパ各地の劇場で3年半働く。
帰国後、衣裳デザイン、リアリゼイト、製作室としてアトリエ・HINODEを設立。一連のスーパー歌舞伎や紅白歌合戦、オリンピックセレモニー衣裳などを幅広く手がける。
V&A「ヴィヴィアンウエストウッド展」、ニューヨーク・メトロポリタン美術館「ジャクリーヌ・ケネディ展」、パリ・オペラ座「白鳥の湖」、ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場「影の無い女」、ベルリンのシャウビューネ劇場「サド侯爵夫人」など、多くの話題作を手がけている。
早稲田大学、文化女子大学、武蔵野美術大学にて講師を勤める。

牛尾卓巳さん
広島県生まれ。武蔵野美術大学大学院修了。在学中にテキスタイルを学び、繊維素材の持つ表情の豊かさと可能性に惹かれる。 国内外の美術館、ギャラリーでの作品発表のほか、舞台美術、衣裳のデザイン、制作も行う。
2018年に「The 5th Textile Art of Today」 Excellent Award賞
を受賞するなど、国内外を問わず高い評価を受けている。
現在 相模女子大学准教授、多摩美術大学非常勤講師。

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