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7才7ヶ月のねこ氏がFIP(猫伝染性腹膜炎)に罹った話 [経緯記録]

2月上旬に受けた健康診断で、我が家のニルに小さな腫瘍が見つかりました。そこから検査を重ねて発覚したのがFIP(猫伝染性腹膜炎)の発症でした。病気の特性から7才の猫が罹ることは稀な例ですが、病気についてや診断に至るまでの経緯などがどこかで役立つことを願ってここにまとめたいと思います。

誰が罹ったの?

今回病気が発覚したのは向かって右側のニル
左は弟猫のオルカ

ニルは、今月で7才7ヶ月を迎えるベンガルの雄猫です。
私たち夫婦が初めて迎えた猫で、私にとっては人生で初めての動物の家族です。食べ物の好き嫌いはあまりなく、来客時には誰にでもウェルカムで人懐こいタイプ。かかったことのある病気といえば猫風邪くらいで、ずっと健康優良児でした。

去年の年末頃にワクチン接種のハガキが届いていたけれど、病院嫌いが年々強まっている様子もあり病院に連れて行く踏ん切りがつかず。そんななか弟猫のオルカがお腹をこわしがちだったり猫風邪でくしゃみが出ていたため、病院で治療がてら健康診断をしてもらいました。まとまった検査を受けておくと色々安心だと思い、ようやく病院に行く決心がついたのでした。

FIP(猫伝染性腹膜炎)ってどんな病気?

ウイルス感染症の一つで、主に子猫で発症しやすい病気です。
原因は猫コロナウイルスの一種であるFIPウイルスで、人間が罹るコロナウイルスとは異なるものです。

猫コロナウイルスには2種類あり、弱毒性の猫腸コロナウイルスと、それが突然変異したFIPウイルスに分けられます。そして、猫腸コロナウイルス自体は猫の大半が保有しているようです。

猫腸コロナウイルスはほとんど無害ですが、変異したFIPウイルスは致死性で進行が早く、死亡率が非常に高く絶望的な病気とされています。突然変異の原因はストレスなどと言われていますが、未だに明らかになっていないようです。

FIPの症状は、発熱・食欲減退・体重減少など多岐に渡りますが、大きく2つのタイプがあります。

滲出型(ウエットタイプ)
 腹膜炎により胸水や腹水が溜まるタイプで、特に進行が早い
非滲出型(ドライタイプ)
 内臓に肉芽腫というかたまりができるタイプで、外見では分かりづらい

病気が進行すると、歩けなくなったり目が見えなくなるなどの神経症状が出て、衰弱して死に至ってしまうようです。発症から亡くなるまでの期間が非常に短いケースもあります。

FIPの特定には確定的な検査はなく、症状や様々な検査結果を元に総合的に判断されます。今回ニルの場合でも何種類もの検査を重ねてようやく確信に至ることが出来ました。

ここまでは私が調べたことをまとめましたが、より詳しく知りたい方は「FIP 猫」などのキーワードで調べていただくことで、実際の症例など見ていただけるかと思います。

参照元: 一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム, ロイヤルカナンジャポン, konomi動物病院


ここからは起こったことを時系列で記載していきます。


2/4 しこりの発見

健康診断中の触診で小さなしこりを発見。
腹部超音波検査を実施すると、腸に何かが詰まっているのではなく、何らかのかたまりであることを確認。

血液検査の結果、血漿総蛋白濃度が高い。
追加の血液検査を行うと、総蛋白と特にグロブリンの数値が高い。
体内で炎症が起こっている状態とのこと。

血漿総蛋白濃度が基準値より高い
追加検査では総蛋白、特にグロブリンの数値が高く出ていた

この時点で考えられる可能性が以下の2つ。

① リンパ節炎(何らかの炎症orリンパ腫)
② 感染症(コロナウイルスつまりFIP)

それを調べるために、追加で3つの外注検査をすることに。

蛋白分画:血液内の蛋白質の分布をより詳細に調べる検査
ウイルス検査:猫コロナウイルスの遺伝子検査=PCR検査
病理細胞診:細い針のようなもので採取した腫瘍の細胞を分析する検査

この時点で目に見えるニルの体調変化は特になし。
ただ、体重の減少傾向が見られた。Catlog Boardで計測された体重の推移では、2021年末から約500gほど減少。

Catlogアプリで確認できた体重推移

2/18 追加検査の結果、リンパ腫の可能性が消える

前回から2週間経ってようやく3つの検査結果が出揃う。

蛋白分画検査

血中の蛋白質の分布を調べると、γ-グロブリンの数値のみが高く出ていた。
正常波形と比べて一種類だけ山が高くなるのはFIPによく見られる傾向らしい。

ウイルス検査

猫コロナウイルスについて陽性判定。
ただし、FIPの紹介で触れたとおり猫腸コロナウイルス自体は大半の猫が保有しているため、ほとんどの場合で陽性になるそう。

バイオタイプの検査では「限界以下」つまり今回採取した細胞では検体が足りず判定不能。

病理細胞診

細い針のようなもので採取した細胞の分析結果が
「リンパ節の反応性過形成」

まず、リンパ腫と判定される所見は認められず。
FIPの場合は肉芽腫というものが形成されるが、この時点ではその傾向も認められなかった。

ごく初期のためハッキリとした判定は出なかったが、今後の拡大傾向や他の検査結果との兼ね合いで検討を進めていく必要ありという所見。

ただし、悪性リンパ腫であれば早い段階でその傾向が分かるようなので、その可能性はなくなった。

2/22 開腹手術による細胞切除

ここからさらに調べるために、手術で腫瘍の一部を採取して病理組織診断をすることに。検査結果の共有日から最短の手術可能日を予約。

2/21
22:00から絶食。

2/22
手術のため入院。
事前に全身麻酔に関する説明を受けて署名。
手術自体は1時間弱とのこと。
夕方頃に手術が終了し、無事目が覚めていると連絡を受ける。

2/23
退院。
抗生剤の投与済み、身体に吸収される糸で縫合されているため、自然に回復を待つだけで良いとのこと。
貸し出してもらったエリザベスカラーを装着。

この時点でもニルに大きな体調の変化は見られず。
手術後はかなり気が立っていたが、よく食べよく寝ていた。

3/10 病理組織診断でFIPと判定

さらに2週間と少し経って病理組織診断の結果が出る。

ウイルス検査

バイオタイプで「FIPV」の結果。
前回「限界以下」と出ていたが、FIPウイルスが検出された。

病理組織診断

診断結果は
「空腸リンパ節: 化膿性肉芽腫性リンパ節炎、中等度」

これは感染性病原体によるものが多く、念のため組織を特殊染色を実施したが、細菌・抗酸菌・真菌および原生生物は確認されなかった。

FIPと判定、治療方針の検討開始

今回の結果を受けて、FIPの確度がかなり高まった。
さらに確定的な情報を得るためにFIP抗体を使用した免疫組織学的染色という検査を追加で発注したが、その結果を待たずに治療方針の検討開始。

FIPに対する治療として、これまでステロイドやインターフェロンなどが使われることがあったが再発リスクがあり完治はしないとのこと。

一番確実といえるのが、MUTIAN(現在の薬品名: Xraphconn)という薬。比較的最近出た薬品で、FIPに対する効果は非常に高く特効薬とも言われるが、製造過程で特許など色々な問題があり、現在日本では未認可。正規品として流通していないため非常に高価。

MUTIANについては以前から情報として知っており、もしFIPだったら絶対MUTIANで速攻治そうと決めていたため、即決でその治療を希望した。

錠剤タイプと注射タイプがあるようだが、注射タイプはかなり痛みを伴うそうなので錠剤タイプの手配を依頼。幸い、かかりつけの病院の系列に在庫があるそうだった。

ニルの術後の経過は良好で、この頃にはカラーも取れてお腹の毛も生え始めていた。発熱もあったが、食欲やトイレなどに問題は見られなかった。

3/18 FIP確定と治療開始

免疫組織学的染色

この検査の結果、肉芽腫性炎症巣内の一部マクロファージに、FIPウイルスの抗体が確認された。抗体陽性の細胞数は少ないが、過去の検査結果と合わせて、FIP罹患がほぼ確定。

治療開始

MUTIANが届く。
腹部超音波検査で現状の肉芽腫の状態を確認。
翌日から投薬による治療を開始。

振り返り

発見から1ヶ月半を要して、ようやくFIPの診断がつき治療を開始することが出来ました。目に見える症状はなかったものの、今ニルの身体の中で何が起こっているのか・いつ症状が出るのかという不安が常につきまとい、早く手を打ちたいのに何も出来ない状況にやきもきする日々でした。

心配を打ち消したい思いで普段よりおやつを多くあげていたところ、その影響で弟猫のオルカが尿道閉塞になってしまったり…。

飼い主としての責任や、ねこたちの健康について考えさせられることの多い時間でしたし、FIPの原因が何だったのか?や反省や後悔の気持ちが消えることはありません。ですが、幸いなことにねこたちはどちらも大事には至らず快方に向かっており、今はそのことを素直に喜びつつ、完治まで頑張っていこうと思います。

治療や各経緯の詳細についてはまた別のnoteに書こうと思うので、よろしければまたお読みいただけると幸いです。

ねこもふもふ