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博士論文を自費で印刷する(+郵送する)

博士論文(に限らず何かしらの論文集等)を自費で印刷業者に委託して製品するまでのみちのりについて簡単にまとめておきます.

はじめに

自主出版の要領は同人誌の作成と同じです.結構な気合が必要なので途中で変なこだわりを持たない,いい意味で手を抜く,といった心構えを持っていただいたほうがよいと思います.

大学生協で発注できたり,先輩のやり方を真似する方が楽なのであれば,そちらを選んだ方がいいかもしれませんが,私自身は研究室で2人目のドクターで,社会人だった(時間がない),DTPの経験がある,といった事情を踏まえて,自分でオンデマンド印刷を発注するという流れになりました.

Step1 「台割の作成」

まず最初に,Excelなどで簡単な台割を作成します.なぜこれを作成しておいたほうがよいかというと,データで完成した論文が,紙の本になったときに,
・「各章の頭が奇数or偶数ページから始まるのか」(これはこだわりがなければ調整の必要はありませんが...)
・「本文が最後に奇数ページで終わっていないか」
を念のためにチェックする必要があるからです.

「台割り(だいわり)」 とは、冊子のどのページにどういった内容が入るのか、全体で何ページになるのかを把握、設計することです。
ページ数の少ない冊子でも、どこに何が入るのかおおよそでも決めないと、原稿制作が始められません。台割りを作っていくうちに、なかなか決まらなかった内容が固まってくることも多々あります。
台割りを表にしたものが「台割り表」です。
冊子の構成をページごとにまとめて、分かりやすい一覧にしたものです。

特に最後のページが奇数で終わっている場合は,必ず偶数で終わらせる必要があります.その場合,Wordなどで1ページ分,何も書いていないA4のPDFデータを作成し,その後,Acrobatなどを使って本文ページに統合しましょう.その上で,Step2で必要となる「本文」のページ数を算出します.(例えば,論文が103ページで終わっていたら,空白のページを足して104ページが本文データのページ数です)

Step2 「印刷業者の選定と見積もり」

最近はオンデマンド印刷といって少部数から製本に対応している印刷業者さんがたくさんあります.「少部数 オンデマンド印刷」で検索してみてください.
どこの業者さんでもホームページ上で見積もりを自動計算してくれるので,Step1で把握した本文ページ数納期を入力していくつかの業者さんで相見積もりをとってください.(その際に,次のStep3の情報も必要となることがあります)

印刷費用は納期と冊数・ページ数によって算出されます.印刷に必要な冊数については,周りの人の意見を聞きながら送り先リストを作成し,少し余裕を持ってきりのいい数字で注文すればよいかと思います.もし足りなくても,オンデマンド印刷なので入稿データがあれば再発注可能です.

私は今回,お世話になった先生方に会って直接お渡しできる日が決まっていたので,それにあわせて「この日までに手元にないといけない」という感じで調整しました.余裕があるに越したことはない(=安くなる)ので,締め切りドリブンにしないほうがよいと思います(=学位を取ったらさっさと印刷したほうがよい).

注意していただきたいのは受け付けてもらえる入稿データの仕様の確認です.PDFデータで入稿が可能なのはほとんどですが,業者によっては「◎◎というソフトで生成したPDFのみ」といった指定がありました.そのような業者さんに電話で「TeXで生成したPDFで,フォントも埋め込みがきちんとできてるんだけど大丈夫ですか?」と問い合わせたのですがNGですと言われたこともありました.

Step3 「表紙と本文の紙選定」

発注する際に,指定する必要がある情報の一つが「紙」です.
印刷業者はたいていどこでも,無料もしくは送料を入金することで紙のサンプル集を送ってくれます.実物を見て決めたいという人はサンプルを取り寄せるのも一つの手です.
ただ,実際のところサンプルを見ても「紙の束」になったときにどれくらいの厚みになるのか,どれくらい裏写りするのか,といったところはなかなか想定しづらいかと思います.今回私もあれこれ悩みましたが,最終的に印刷業者さんに相談した上で選んだのは,

表紙:レザック (よく見る皮っぽい紙.レザーライクでレザックというらしい)
本文:上質紙70K

でした.表紙・本文ともにモノクロであれば,この選び方で間違いないかと思います.(悩むと印刷がどんどん先延ばしになってしまうので,迷うくらいならレザック・上質紙70Kでいっておきましょう!)

Step4 「背表紙の厚みの計算」

入稿にあたって作成が必要となるデータは
1.表紙データ
2.背表紙データ
3.本文データ
の3つに別れます.
この内,最も面倒くさいのが「背表紙」の作成です.(論文を書いてるときには,背表紙の作成は不要なので,この作業はここで初めて登場します.)

背表紙は,表紙と本文の紙の厚さと本文ページ数から背幅が決まります.印刷業者さんによっては,算出するジェネレータを用意してくれているところがありますので,これを活用します.

Step5 「表紙・裏表紙と背表紙の作成」

特にこったデザインのものをつくる必要がないのであれば,Wordで作成できるはずです.Illustratorなどがあれば,もっと自由にできると思います.しかし,凝ればこるほど,発送が遅くなるので,いい加減なところで妥協してしまいましょう.どうしてもかっこいいものが作りたいのであれば,特別エディションとして,あとで作れば良いのですから(そして絶対やらん).

個人的にはデザインよりもフォントが大事だと思いますので,モリサワのフォントを使って作成しました.顔になる部分ですので,サブスクリプションサービスを利用したり,アウトソーシングでフリーランスのデザイナーさんにお願いするなどしてもいいかもしれません.

背表紙の入稿方法や作成方法については,各社指示がまちまちだとおもいますので,わからなければ業者さんに問い合わせをするとよいと思います.

「わからなかったら電話で聞く」 これ大事.

Step6 「入稿」

お使いになられる印刷業者さんの入稿方法に従って入稿しましょう.

不慣れな方が気をつけておかないといけないのは,手戻りのコストです.入稿の不備が指摘された場合,再入稿すると営業日が伸びてしまうことにもなるので余裕を見たほうがよいかと思います.入稿した日は,電話で修正指示が来たりすることもあるので,お急ぎの場合はもしもに備えて電話を手元に置いといたほうがよいですよ.

Step7 「お礼のお手紙の作成と発送の準備」

納品されてきた本を発送するために,封筒を購入します.送る相手は多忙な方です.見逃されないように,きちんとした感じを出したかったので白色の封筒を用意しました.ただ,ハードカバーで分厚いような本を作られる方は,納品されたあとに封筒を準備したほうがよいと思います.せっかく買ったのに入らないかもしれないので(^^;)

ここで気をつけたのは,発送時の糊付け作業の手間を省くこと.そこで,封筒には両面テープがついているものを選びました!

あと,お礼状を作成しましょう.なぜなら,久しく連絡を取っていない人から突然論文が送りつけられてきたら,普通の人はびっくりするからです!

本来であれば,一人ひとりにきちんと手書きでお礼のお手紙を書かないといけないところですが,文章を考えたり丁寧な字を書くことが苦に感じるような人がそれをやってしまうと,確実に発送が伸びてしまうので,印刷でいきましょう.ここでも,白い和紙っぽい封筒(郵便番号なしのもの)と,季節を感じさせるようなデザインの紙を準備しました.

お礼の文章については,(この頁を見られているような知的な方にはアドバイスなんてものはないですが :-P),①時候の挨拶,②本来なら直接お礼を申し上げないといけないのに手紙でごめんなさい,③学位が取得できたことのお礼,④今どうしているか(これからどうするか),⑤これからもよろしくおねがいします(また遊びに行きます!),といった構成であれば,大丈夫だと思います.

ちなみに,実はWordでは時候の挨拶をチョイスできるって知ってましたか?(私は仕事をしてから知りました)

これをWord(TeXでもヨシ)で作成して用紙にプリントします.インクが乾いたら,封筒に入れましょう.(このやり方が正しいかはわかりませんが私の場合)封はせずに,表紙を開いて一番最初の頁に差し込みました.開封したときに,見落として封筒の中に残されてしまわないようにするためです.

Step8 「発送」

発送は,様々なところに結構な数を送らないといけない・本そのものがそこそこ分厚くて重たいので,メルカリなど中古品の売買をしている人にはおなじみのクリックポストを利用しました.

規定のサイズ以内であれば,一律料金で発送することが可能です.また,先のステップで作成しているリストも,csvで取り込むことができ,効率的に送り状を作成することができます.あと最もありがたいのは,サービス上でクレジットで決済できるところです(アマゾンのアカウントが必要ですが).

作成した送り状をひとつずつ封筒の表面に貼り付けて行きます.封筒は,糊付け不要の両面テープのものを購入しておいたので,さくさく封をして行きましょう.

これで完成です!紙袋につめて,郵便局に持っていくだけ!

余った場合はSNSで告知して,「(お渡しできていない失礼をお詫びしながら)他に欲しい方おられたらお声がけください」と宣伝するとよいかもしれません.

おわりに

最後に,私がお世話になった印刷業者さんをご紹介しておきます.

住んでいる大阪にあったことと,こちらの不安についてもお電話で相談に乗っていただけたこと,そして何よりも安価で高品質なもの(オンデマンドにもかかわらず,糊のシワなどがほとんど見られませんでした)を納品していただいたこと(納品物には印刷見本として1つおまけでつけてくださっていました.※その時だけのサービスの可能性もありますので,過度にご期待なさらず),ホームページのコンテンツも充実していたこと,など,とても満足できました.

25部で100頁ほどのものを印刷して送料を含めて1万5千円というのはかなり安いと思います.郵送料や封筒代もこみにすれば,2万円ほどで一通りを賄うことができました.

上記記載のように,発送までの工程数がかなりありますので,私のように,学位取得後ほったらかしにせず(本当に失礼なことをしました),ちゃちゃっと印刷して発送しましょう.グッドラック( ´∀`)bグッ!