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最近読んだ小説-1-「プロジェクト・ヘイル・メアリー」他5作

ここ数か月で読んだ小説の感想をまとめて書いていきます。
暇だったら読んでください。


1,「プロジェクト・ヘイル・メアリー」アンディ・ウィアー

傑作!! こんなに面白いSFは初めて読んだ。
1行目から最後の行まで面白い。
この作品を魅力的にしている要素の一つに異星人ロッキーの存在があった。
人類が初めて見るなら逃げ出したしくなる見た目をしていて、最初は感情移入できんなと思ったが、読んでいくうちに彼の天真爛漫な言動の虜になってしまった。
今でも突然、「幸せ」が頭に降りてきて、思い出し笑いをしてしまう。
しかし、この作品を読んで頭が良い人への羨望を感じてしまった。
私もプログラマの端くれだが即席で異星人の言語を解析するソフトウェアを開発することなんて逆立ちしてもできない。
私が宇宙に行っても何もできないだろうな。
そして、ロッキーからも逃げ出すだろうな。
ともあれ、父の日のプレゼントにして、この興奮を布教したいと思う。

2,「火星の人」アンディ・ウィアー

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」が面白かったので、同著者の過去の名作を読んでみた。
結論として「プロジェクト・ヘイル・メアリー」ほどは刺さらなかった。
科学でサバイブしていくわくわく感は序盤だけで、話の重点としては、火星に置いてけぼりになった主人公の救助方法を決定するための政治的プロセスにあったように思う。
それはそれで面白かったし、アンディウィアーはこんな話も書けるのかと感嘆したが、求めているのはそこじゃないんだよなあと思ってしまった。
読んで勉強になったことがあった。NAS長官のメディアの使い方である。
主人公の情報を出しすぎてはいけないが、出し渋ると世論を味方につけることができない。
世論をある程度、味方につけないと、主人公の救出に予算や時間を割くことができないのだ。(NASAは政府機関なので)
私が社会との関わりで軽視していた部分を教えてくれた。

3,「君が手にするはずだった黄金について」小川哲

とても読みやすくて、なおかつ面白い。
万人が好きになる作品ではないかもしれないが、読めば万人の心に何かを残す作品ではないだろうか。
読んだ人は、この作品に出てきた登場人物ほどでないとしても、周りにこういう人いるとか、自分にもそういう面があるなどの意見を見出しそうな気がする。
多くの人が言っているように、語り口がエッセイっぽくて、現実なのか虚構なのか読んでいて分からなくなる。
6つの短編の中に実話が紛れていてもおかしくはないリアリティがあり、読後は不思議な気持ちになった。
朝井リョウの「何者」の読後感に近い気がする。
しかし、専業作家というのは、自分の仕事に対してあのような感情を持つものなのだろうか。

4,「タイムリープ あしたはきのう(上・下)」高畑京一郎

岡田斗司夫さんが絶賛していたので、読んでみた。
タイムトラベルへの洞察、時間構造の組み立て方はすごいと思った。
しかし、やはりラノベ体の文体は苦手だ。
おかげで話に没入できなくて残念。
主人公がタイムリープしてしまう原因も突飛過ぎて引いてしまった。

5,「成瀬は天下を取りにいく」宮島未奈

本屋大賞受賞作ということで読んでみた。
結論から言うと全く刺さらなかった。
気を悪くさせてしまうかもしれないが、読むのが苦痛で読了することはできなかった。
面白いと思ったのは、成瀬と島崎が漫才をする話で、成瀬の異端さと愛らしさ、島崎のオタクっぽさ?、大胆さがぶつかり合って良かった。
この二人の話をずっと描いてほしかったが、途中でサイドストーリー(成瀬とは無関係の人の)が挟まることで、なんだか冷めてしまった。
もっと島崎の視点から二人の関係を綿密に描いてほしかった。
ていうか島崎が好きすぎた。
二人が漫才の天下を目指す話だったらめっちゃ俺得な作品だったろうな。
それを長編で読みたい。

6,「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス

作者の想像力の豊かさに驚愕した。
与えられた感動の裏には、チャーリーの文章の変遷に見られるような緻密な仕掛けが施されている。
しかし、感想を書いている今、チャーリーが明晰な頭脳を得ていく過程に経験したことは実は普遍的なことではないかという気がする。
というのも、我々人類は、自分が幼いころを思い出して、あの頃はバカだったなとか、愚かだったなだとか過去と現在の自分を比較したりしないだろうか。
私は、よく思い出して悶絶したり、後悔したり、理不尽にも過去の自分のアホさにキレたりしている。
そんなことをしてしまうのは、我々が成長しているからである。
チャーリーにとって悲劇だったのは、家族との関係が原因で知能に執着してしまったこと。
そして、彼に成長を与えてくれる機会に出会うのが遅く、成長が急激で、酷く短期的だったということだろう。
一方で、チャーリーが知能を失っていく中で経験せざるを得なかった悲しみは、我々が年を取り、耄碌していく過程で体験することになるのだろうか。


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