見出し画像

『ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律』コンサートwith 京都市交響楽団

このコンサートは2016年に京都で開催された音楽フェス「OKAZAKI LOOPS」の一つとして上演されました。
OKAZAKI LOOPSにはかなり実験的なコンサートや企画も多く、音楽フェスでもこんなことができるのか! と当時とてもわくわくした記憶があります。数年前から次回開催の告知がされないままであることが非常に惜しいです。

ALMA MUSIC BOXについては以下に詳しく書かれています。

ALMA望遠鏡のデータから作られたオルゴールのおとを元に、さまざまなアーティストが曲を制作したCDが「Music For Dying Star」です。

このCDだけでも素晴らしいのですが、2016年のOKAZAKI LOOPSでは、なんとこの作品を全曲フルオーケストラアレンジで演奏されました。知った時はめちゃくちゃ驚いた。
この2日間にコンサートは本当に素晴らしく、一度きりの公演では惜しいくらいでした。いつか別の機会に再演されるだろうと思っていたら、もう6年経ってしまった。

このコンサートに関する言葉がインターネットから消えてほしくないので、ブログから発掘した当時の感想を再掲することにしました。


※以下は2016年9月4日のコンサート後に書いたものの再掲です。


『ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律』コンサートwith 京都市交響楽団 に行ってきました。

二日間の公演。夢のようなコンサートでした。一曲一曲の感想を書いてみようと思います。


みやこめっせの第三展示場に入ると、藍色に染まった空間が広がっていました。あちこちからつるされている電球がゆっくりと点滅を繰り返しているのがとても美しかったです。
舞台の指揮台の前には、ALMA MUSIC BOXそのものが置かれ、オルゴールのメロディが客入れとして流れていました。実際に演奏されていたのはNo.07だったと思うので、流れていたNo.30はBGMでしょうか。
オーケストラの前にそれぞれのアーティストの方が演奏される様々な楽器が配置されていました。まさかチェレスタまであるとは…!
開始15分前には、天文学者の方からALMAについての説明もありました。


1. Waves of The Frequency(澤井妙治)

星からのデータに少女が声を重ねる、というコンセプトの曲。
澤井さんが操る音に重ねる細井美裕さんの声がとても透明でした。たった一音から始まって、少しずつオーケストラの音が重なっていき、歌声も段々と和音を形作って行く。オーケストラが爆発する時には、歌声はまるで女性合唱のように重なっていました。
1人の人間の声から、宇宙へと視界が一気に開けて行くような始まりの曲。オーケストラがtuttiで鳴り響いた時には、自然と涙が溢れていました。

2. the signals ~くらやみのレクイエム~(mito)

mitoさんのスティックによって始まるこの曲には、CDにはなかった歌詞が追加されていました。
歌うのはゲストボーカルのAimerさん。レクイエム、という題名の通り、星を弔うように一つひとつの言葉が丁寧に聴こえてきました。
この曲には70種類全てのMUSIC BOXの音が使われているそうで、そのオルゴールの音も演奏に加わっていたのですが、同時に徳澤青弦さんがチェレスタを演奏されていました。MUSIC BOXの音よりも柔らかく、少し物悲しい音色が印象的でした。

3. the blossoms close at sunset(スティーヴ・ジャンセン)

MUSIC BOXの中の旋律をテーマとした曲。
テーマは徳澤青弦さんのチェレスタと、トウヤマタケオさんのピアノによって演奏されていました。この音とこの音を重ねるとこういう音色になるのか…という驚きがコンサートの中でたくさんあったのですが、これもその一つです。
重なってゆくオーケストラの音色がとてもさわやかで、テーマとなる旋律の朗らかな印象にとても合っていました。

4. sea ice(伊藤ゴロー)

「宇宙はひんやりとしたエーテルに包まれているのだろう」という伊藤ゴローさんの言葉のように、涼しげなストリングスが印象的でした。
編曲の狭間美穂さんがジャズの方だからでしょうか、伊藤ゴローさんのギターもあいまって、他の曲とはまた異なった、少し気だるげな、不思議な心地良さを持った曲でした。

5. #31-#40(蓮沼執太)

原曲とかなり違った雰囲気で、驚いた曲です。今CDを聴くと確かになるほどと思えるのですが、楽器が違うだけでこうも雰囲気が異なるとは。
蓮沼執太さんが奏でる音からは星から送られてきたデータそのものが感じられました。
照明も様々に動いていて、ロマンチックな死にゆく星のイメージとはまた違った印象の、グルーヴ感のようなものを感じる音楽。

6. Limbo(milk(梅林太郎))

この曲にもボーカルとしてAimerさんが参加。歌が中心の曲という印象でした。
スティーヴ・ジャンセンさんによるドラムが鳴り始めると同時に、一気に変化した曲調の中でのオーケストラは、まさに! というようなtuttiで、Aimerさんが朗朗と歌い上げていました。


この曲で一旦休憩。会場の後方ではCDの物販と、ALMAの展示もされていました。
大きく展示された星々がとても鮮やかです。

7. Thoughts of Colours(Throwing a Spoon)

冒頭は徳澤青弦さんチェロ、トウヤマタケオさんピアノのThrowing a Spoonのみによる演奏。
MUSIC BOXの音自体は使われておらず、チェロとピアノだけの世界。死にゆく星のことをずっと想ってコンサートを聴いていたからか、チェロのハーモニクスが星のなき声のように聴こえました。
途中から、木管楽器が音を奏で始めました。この木管の動きがとても好きでした......。
メロディーもオーケストラに引き継がれ、まずホルンによって、そこからおそらくクラリネット、フルートに引き継がれていたと思います。とにかく美しい。
終盤にはストリングスが奏でられ、さらにチェロとピアノも加わり、最後は不思議な空気が満ちていくようでした。
オーケストラとチェロとピアノによる演奏は、ぜひコンサートホールで、PAされていない状態でも聴いてみたいです。

8. lost star(湯川潮音)

冒頭、客入れで流れていたNo.30のMUSIC BOXから始まる、湯川潮音さんによる歌。
とても美しい歌声とオーケストラによる伴奏。背景には満天の星空。
「They just began to bloom」の言葉と共に、弦楽器が激しい刻みを始め、曲調が一気に変化します。
原曲ではおそらくチェロの音が重ねられていたものがストリングスによって奏でられると、より細かい和音が聴こえてきて、さらに不思議な世界へと連れていかれました。
オーケストラの音はどんどん膨張を続け、打楽器が激しく打ち鳴らされ......。この部分がどうオーケストレーションされるのかとても楽しみだったので、ただただ聴き入りました。
突然曲が止まり、オーケストラのtuttiと共に潮音さんが歌い上げる部分では、二日とも涙が流れました。格好良すぎる。オーケストラの和音も原曲からさらに格好良くなっている…。
後ろの映像ともかなりしっかりとリンクしている印象でした。すごい曲だ。
湯川潮音さんは、CDの冊子に載っている文章も非常に印象に残っています。無限の空間に放り出された星の一生は人の一生に似ている、という潮音さんの言葉が音楽を聴きながら頭をよぎりました。それも含めて、最後のtuttiに圧倒されたのかもしれません。

9. Chascon 5850(滞空時間) 

この曲はCDで聴いた時、あまりにも異質でただただ驚きながら聴いていたのですが、こうしてコンサートで聴くとこんなにも楽しい曲はないと感じました。
ボーカルのさとうじゅんこさんの歌の力強さがすごい。他のアーティストの方とかなり毛色が違うのに、舞台上の全てを飲み込んでいく生命力でした。
元が民俗音楽的で、ガムランのような音色が印象的だったので、オーケストラがどうなるのか気になっていたのですが、すごいです。常に躍動していて、踊るか歌うか手拍子をしたくて仕方がなくなりました。
この曲ではチャスコン隊が結成され、潮音さん、細井さん、mitoさん、トウヤマさん、蓮沼さん、途中からは青弦さんが、さとうさんと共に「チャスコンチャスコン!」を担当していました。
(女性ボーカル陣と並んだ時の男性陣のなよっとした感じが面白かったです)

10. あわい(高木正勝)

高木さんはこのコンサートには出演されないため、オーケストラのみによる演奏。
ずっと一つの和音が持続する中で聴こえてくるオーケストラの楽器の様々な動きが、「あわい」に聴こえてくる音であるように思えました。
オーケストラでは、原曲とはまた別のあわいの音が多くあって、一つひとつの音色を耳を澄ますように聴いていました。それぞれの楽器の音がとにかく魅力的で、常に何かがうごめいているような、生命力のようなものを感じました。

11. alma712(クリスチャン・フェネス)

クリスチャン・フェネスさんのギターの音はどこか人間的という印象で、映像がALMA望遠鏡そのものに切り替わったこともあってか、地上へと再び戻って来たような感覚になる曲でした。
曲にはMUSIC BOXのNo.07そのもののメロディが使われています。CDにも入っていて、おそらくMUSIC BOXの中で最も美しいメロディであるNo.07はもう覚えてしまっていました。ギターと、オーケストラが奏でるNo.07のメロディが溶け合っているように感じました。
オルゴールの最後のメロディが弦楽器によって静かに演奏されて、信号が途絶えるようにコンサートが終わったのが印象的でした。


この後、2日目にはなんとアーティストによるセッションがありました。
セッションに参加したのは、青弦さん、澤井さん、蓮沼さん、伊藤さん、トウヤマさん、ジャンセンさん、mitoさん、細井さん、潮音さん、さとうさんだったかと思います。
青弦さんがNo.07のMUSIC BOXにスイッチを入れ、その音が奏でられる中に澤井さんと青弦さんが音を重ね、そこへ他のアーティストの方が重なり、さらにボーカルの女性陣が増え…と、まさに「死にゆく星の旋律」とのセッションでした。
それぞれの音と音が反応し、星の声と対話しているような、星に音を届けているような時間でした。


CDの冊子の文章からは、死にゆく星の旋律とそれぞれのアーティストの方がどのように向き合ったかが伝わってきます。
それらを知った上で今回のコンサートを聴いていると、それぞれの編曲がそれぞれの曲の意図を尊重して作られているということが感じられました。


ALMA MUSIC BOXは、Music for a Dying Starのクラウドファンディングにも僅かながら参加させていただき、直前まで目標資金が集まらずずっと見守っていた記憶があります。
それがCDとなり、今回こんなコンサートに足を運ぶことが出来て、とても感慨深いです。

こんなに壮大な計画が2回の公演だけで終わってしまうのが贅沢でもあり、寂しくもあります。
もちろんこんなメンバーでそう何回もできるものではないと思いますが、もしCDにして下さったら、次も必ずクラウドファンディングに参加します。

どうか、ALMA MUSIC BOXの営みが、これからも長く続いていきますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?