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7万円のメガネを買った話

7万円のメガネを買った。
もう2年ほど前になる。

きっかけは些細な好奇心だった。しがない底辺系アパレル民の私は、嬉々として売られていく高級メガネ達を見て、ふと思い至った。高いメガネは、なにか他のメガネと違うのだろうか?

意識は低いが知識はある。どうせなら納得できる良い物がいい。有名どころを見つくろって店舗を調べると、一軒の店を見つけた。足を運べる場所だし、商品のラインナップも良さそうだ。なに、気に入らなければ止めればいいだけのことだ。私はさっそく眼鏡店へと向かった。

駅前の商業ビルを行き交うオシャ人(おしゃんちゅ)をすり抜けて着いたのは、いかにもオシャな眼鏡店といったアンティーク風の店だった。一歩踏み出すだけで、コンシェルジュらしきスタッフが「ようこそお越しくださいました。どうぞ、お手にとってご覧くださいませ」とこちらを伺ってくる。
自らが接客業もたしなむ手前、今更ビビれるほどピュアではないのだが、それでも「気に入らなかったら帰っちゃお」という気持ちに罪悪感を覚えてしまう。思うツボである。今回に関しては割と買う気で来ているので、歓迎される分には悪い気はしない。どちらにしろ思うツボだった。

使いやすい眼鏡が欲しかった。私は裸眼だと15cm先までしかまともに物が見えない。コンタクトをしていた時期もあったが、なんせ手間とコストがかかる。手抜きケアによる眼病も怖かった。(自分がズボラな癖に、なんという勝手な言い草だろうか)それに非常時のことも考えると、総合的に考えて眼鏡が最も合っているように思えた。

ぴしっとしたスーツのスタッフの視線を背中に浴びながらメガネを見ていくと、ひときわ細いセルフレームのメガネが目に留まった。オーバル型のプレーンなタイプだが、こんなに細いセルフレームは見たことがない。
セルフレームではカジュアルすぎる、メタルフレームではクールすぎる。そんなジレンマを抱えた私には最適解のように感じた。早速手にとってみる。軽い。スタッフがすぐさま横につく。きみ、今日はラッキーだったな。大したセールストークも必要とせず、私はおそらくこれを買うぞ。

メガネを試着してみるが、やはり15cm先までしか見えないので鏡に寄りまくる。いつものことながら、近すぎてよくわからん。でも遠ざかると何も見えん。よくわからんが、結構いい感じな気がする。ツルも細くて不快感がないし、顔のサイズに合っているような気がする。よく見えんが。

いいんじゃないだろうか。

そう思うと、ついさっきまで他人だったメガネが、まるで親友のように見えてきた。

毎日使うものだし。

一生モノになるかもしれないし。

よし、買おう。メガネ、買おう。買っちゃおう。メガネ。7万円のメガネ。


後日、自宅に郵送で届いたメガネは、桐の箱に入っていた。7万円のメガネって、桐箱に入ってくるんだなあ……と、そのまんまのことを思った。

7万円のメガネは、今やすっかり私の生活に溶け込んでいる。


※ちなみにレンズ加工オプションをバチバチにつけたので最終的に7万円になったけど、フレームの値段は4〜5万円ぐらいでした。
※郵送受け取りにしましたが、後日ちゃんと最終調整してもらいました。全然違った。すごい。

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