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2023年8月に観た映画

8月に映画館で観た作品の一部。
ネタバレ注意。


バービー

監督:グレタ・ガーウィグ
2023年
114分

ピンクに彩られた夢のような世界「バービーランド」。そこに暮らす住民は、皆が「バービー」であり、皆が「ケン」と呼ばれている。そんなバービーランドで、オシャレ好きなバービーは、ピュアなボーイフレンドのケンとともに、完璧でハッピーな毎日を過ごしていた。ところがある日、彼女の身体に異変が起こる。困った彼女は世界の秘密を知る変わり者のバービーに導かれ、ケンとともに人間の世界へと旅に出る。しかしロサンゼルスにたどり着いたバービーとケンは人間たちから好奇の目を向けられ、思わぬトラブルに見舞われてしまう。

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字幕版で鑑賞。
個人的にバービー人形には縁がなく、家にはなぜかCOMME CA DU MODEの15周年記念で作られたリカちゃん(コムサの制服・黒ニットとチェックスカート、小さい男の子(誰?)が入ったやつ)があって、貴重なものだから下手に遊ぶなよというプレッシャーをかけられていたことを思い出した。

バービーが自らの存在意義について問う、ピンクで可愛い!だけではない哲学的な作品。
でも基本的には笑える。
常にKが強引なあいうえお作文とか、ケンの「なぬ!?」とか良かった。
「もう十分やケン」はTシャツにして売って欲しい。

「男も女も、もちろん男女二元論ではなく、すべての人が差別・搾取・抑圧されることのない世界を目指そう」という本来の正しい意味でのフェミニズムの作品。
もちろん、実際に売られてるバービー人形のラインナップ的に仕方がないのだろうが、あのバービーランドには赤ちゃん、子供、老人はおらず、基本的にはひとりにつきひとつの家があるようで、家族制度、育児や介護といったものがあまり存在しなさそうなので、そりゃあ理想の世界だろうよという印象。

あの演説シーンには胸を打たれたものの、わりと1から10まで台詞で説明しまくっている作品だなとは思った。
あと、あの選挙のやり方はアウトだと思う、けどそこで定番バービーだけは「いいんかこれ…」って微妙な表情してるのが上手い。
本作が超有名おもちゃを扱ったビッグバジェットの作品で凄いことを成し遂げたことは確か。
バービーが映画になる、と聞いてこの内容になるとはなかなか想像できなかっただろう。

性別を問わず、全ての人が自分の足で立ち、自分らしく生きることを肯定するパワーと愛に満ちた作品なので、その作品の宣伝部に戦争被害を軽視する人がいたことは残念。


さらば、わが愛/覇王別姫 4K

監督:チェン・カイコー
1993年
172分

1925年の北京。遊女である母に捨てられ、京劇の養成所に入れられた小豆子。いじめられる彼を弟のようにかばい、つらく厳しい修行の中で常に強い助けとなる石頭。やがて成長した2人は京劇界の大スターとなっていくが……。

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1920~1970年代の中国激動の歴史をなぞりながら、京劇の古典『覇王別姫』を演じる2人の役者を描く壮大な大河ドラマ。
製作30周年、レスリー・チャンの没後20年となる節目の年である今年、4Kリマスターによりさらに鮮やかに蘇った名作。
画面を見ているだけでも、ため息が出るような美しさ。

本作、そしてウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』に出演したこともあり、レスリー・チャンのクィア・アイコンとしての存在も再認識する。
レスリー本人のセクシュアリティについては、カミングアウトしたという記事もあれば、明言はしないがほのめかす発言はしていたという記事もあり、適当なことは言えないが。

蝶衣が抱く小楼への思い。
そして自分を捨てた母親と同じ娼婦出身でありながら、小楼と婚約した菊仙への嫉妬心。
しかし蝶衣と菊仙の関係は、愛憎混じりながら次第に名付けられないどこか特別なものになっていくのが印象的。

レスリー・チャンは、悲しい最期のことばかり語られがちなのかもしれない。
これは彼が確かにこの世界に生きた証、そしてスクリーンの中で今もこれからも輝き続けることを再確認する1本になっている。
京劇についてはほとんど何も知らなかったので、他文化を知るという点でも面白かった。


マイ・エレメント

監督:ピーター・ソーン
2023年
93分

火、水、土、風のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ。家族のために火の街から出ることなく父の店を継ぐ夢に向かって頑張っていた火の女の子エンバーは、ある日偶然、自分とは正反対で自由な心を持つ水の青年ウェイドと出会う。ウェイドと過ごすなかで初めて世界の広さに触れたエンバーは、自分の新たな可能性、本当にやりたいことについて考え始める。火の世界の外に憧れを抱きはじめたエンバーだったが、エレメント・シティには「違うエレメントとは関わらない」というルールがあった。

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字幕版を鑑賞。
劇場公開のピクサー作品という話題作であるものの、その中身はまるで移民2世である監督の私小説のよう。
さまざまなエレメントが混在しているものの、異なるエレメントと関わることを禁じる人もいる(特に上の世代は)…というのは、言うまでもなく現実世界を反映させたもの。
それぞれのエレメントを活かした舞台設定、あるあるネタのようなものが面白い。

これまでは、あくまで恋愛関係に囚われない、性別関係ない「バディ」を描いてきたピクサーが満を持して描く恋愛物語は、このうえなくロマンティック。
今目の前にいるこの人が魅力的だと思う瞬間、この人に触れたいと思う瞬間、恋愛におけるさまざまな一瞬のことを思い出す。

触れ合うことをためらう火のエンバーと水のウェイド。
ふたりはどんな画期的な方法で触れ合えるようになるのかと考えていたけれど、結論の「特に何も起こらない、なんか大丈夫そう」という描き方は、観客もそりゃそうだよねと納得するものになっている。
異なる文化・出自の者同士が愛し合ったって何も問題はない。世界が大きく変わってしまうなんてことはないはず。
ただ愛する二人が結ばれるだけ。

エンドクレジットで後日談が描かれる系は好きなので、今回もほっこり。ラウヴが手がけたテーマ曲も好き。
さらっとこんなクオリティの作品を出しちゃうピクサーはやっぱりとんでもない。
えっ実写?と思うくらいリアルなシーンの数々、何気なく描いてるけど水エレメントキャラの後ろが透けて見えていたり、炎エレメントキャラがずっとメラメラ揺れていたり、アニメーションの技術も凄いの一言。


オオカミの家&骨

監督: クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ
2018年
74分

美しい山に囲まれたチリ南部で、「助けあって幸せに」をモットーに掲げて暮らすドイツ人集落。動物が大好きな少女マリアは、ブタを逃してしまったために厳しい罰を受け、耐えきれず集落から脱走する。森の中の一軒家に逃げ込んだ彼女は、そこで出会った2匹の子ブタにペドロとアナと名づけて世話をするが、やがて森の奥からマリアを探すオオカミの声が聞こえてくる。マリアがおびえていると子ブタは恐ろしい姿に変わり、家は悪夢のような世界と化す。

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ちょっと話題になっていたので気になって観てみた、チリ発のストップモーションアニメ。
まず、この作品が持つ「フェイク・プロパガンダ映画」という構造が面白い。とはいえ設定はとても面白いと言えるものではない。
チリに実在した「コロニア・ディグニダ」という美しい共同体。それは一見楽園のようだが、その実態は人々への虐待、拷問、殺人が行われていたという。本作は、そのコロニア・ディグニダがモデルの団体が作ったプロパガンダ映画、という設定なのだ。

ASMR的な要素あり、アトラクションに乗って予想もつかないところに連れていかれるような要素あり(ほぼ一軒の家の中でのみ進行する物語だが)、とにかくワンシーンワンカットの情報量がすさまじい。
ストップモーションで動くと言っても、常に創造と破壊を繰り返す驚異的な映像で気が遠くなる。
画面上で何も起こっていないシーンなどほぼないのでは。
上映時間は74分と短いが、内容はかなり濃密。


監督: クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ
2021年
14分

新憲法草案について議論が交わされる2021年のチリで、ある映像が発掘される。1901年に撮影されたその映像は、少女が人間の死体を使って謎の儀式を行なう様子を記録したものだった。

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同時上映の短編映画『骨』も、同じくストップモーションアニメで、こちらは全編白黒となっている。
『オオカミの家』同様、作品に設定が付けられており「1901年に作られた、世界初のストップモーションアニメ(作者不詳)」となっている。
確かに本作は、何も知らずに観ると一体いつ作られたものなのか全く分からない。
描かれるものは、可愛らしい少女が行う、人骨を使ったとある儀式。
ストップモーションなのもあり、不憫+不気味+可愛いという独特な空気がそこには生まれている。

このとんでもない作品を世に出した映画監督、レオン&コシーニャコンビが次に手がけたのは、あのアリ・アスター監督の新作『Beau Is Afraid』内のアニメーションのシーンだという。
一体どのようなものに仕上がっているのか、今から怖い…。

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