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飲み込まれる臨場感 #タワゴト

ご縁があり、観劇する運びとなりました。Shin pro様の戯言(タワゴト)を観劇しました。女性キャスト中心の戯言(ザレゴト)もあったそうですが、今回は日程の関係もありタワコドのみ


あらすじ

新宿歌舞伎町___
雑居ビルの一室。
男たちが店の周年を祝っている夜。
新宿警察署の刑事が現れ、ある一人の女が死んだことを告げる。
その女を知る者。
その女を知らぬ者。
そしてその女を知らぬふりをする者。
ある書き込みと写真により、男たちの戯言(タワゴト)が暴かれ
全員がその女の死に深く関わっていたことが明らかになっていく…

良質

ベテランの方々ばかりでフライヤーも威圧感があり、オマケに新宿歌舞伎町というVシネの要素が役満クラスに揃っているのですが、実際の脚本はシンプルなミステリーというか、刑事もののミステリー小説のような作品なので、広くお芝居だとか読書のような文学が好きという人も十分に楽しめそうな印象でした。観る人のターゲットは見た目以上に広いでしょう。分かりやすくエンタメ系ではないので裏切られ感もなく。
強いて言えば、笑えるシーンは実質皆無なのでメンタル状態によっては期待とズレがあるかもしれないですね。あとはジャンルの好みのズレくらいしか合わない理由が見当たらないです。今のところは…

脚本は後ほど詳しく記述しますがすごくロジックが組まれていて、伏線の回収も美しい。またその伏線を張ったことが思い出されたときの吐き気のような感覚(褒め言葉)や、ドロドロした人間の愚かさ、一人の女性の儚さの演出は病みつきになりそうです。(映像化されないのがもどかしい)
そしてなにより、ベテラン揃いでずっしりした安定感のある演技。会場の臨場感もあって、ドラマの中のような雰囲気がありました。声を張り上げるようなものではなく、若い人が無理やり歳を重ねた役をやっているような上ずった感じもない。重くアングラな感じの雰囲気がたまらないですね。

また、アクセントとなる一人の女役、新田えみさんの役の振れ幅は個人的にすごく印象に残りました。ホステス、旅館従業員、不倫相手、マッチングアプリで出会った人、そして全ての糸と繋がった結末の演じ方。ゾッとするし、どこか儚い。感情移入したら間違いなく後悔する結末に引きずり込む演技は、色んな女優さんに観て欲しいものでした。ラストの白装束(?)での回想シーンは、なんかこう精神がぐちゃぐちゃになりました。

男性陣はそれぞれ個性があり、いわゆる裏社会的な存在の豪快さの裏に隠れるちっぽけな男たちが描かれていました。そのちっぽけな男かな?というほんの少しの違和感を見事に出しているところは実力の高さが見えました。言葉の一つ一つどころか、全ての言葉に反応し、その反応を間違えてはいけないわけですから適当に自分でアクセントを加えることは許されず全ての行動が「正解」でなければいけない。演出、脚本の意図が分からない人だとここまでの空間は作れないかなと思います。

完成度の高いストーリー

今作で面白いと感じたものが、ミスリードして最後の最後にそれを二度三度ぐしゃぐしゃにして観ている人の感情をめちゃくちゃにした所。ラストの怒涛の感情コントロール崩壊までの種まきも飽きさせず、非常に高い満足度でした。

一人一人が、(偽)刑事から発せられた「サツキ」というホステスに対しての供述をし、その全てが観ている側、話している側も「サツキ」について話しているという認識。
しかし、全員がサツキについて話しているという認識でありながら、それがサツキである保証が実はなかったという所がポイント。最初に写真を見たのはオーナー(男1)のみで、従業員には「ダメです」と明確に断っており、全員に同じ写真を見せて「全員の認識を共通させる」という当たり前のことをしていませんでした。つまり、「そんなことはありえない」と思いつつもそれぞれが別の女性について話していたのでは?という疑心暗鬼を呼び起こしたところに1つ目の引っかかり。そして実はさっきは死んでいなかった。という安堵からの「全員が話していた内容が戯言(タワゴト)」で「話していたのは確かにサツキについてだが、自分に都合のいいストーリーに乗っけた虚構のサツキ」という2つ目のミスリード。

一回「別人のことをさも一人の女性について語らせた」というトリックを見せつけて、それがさらにミスリードであった。という二重トリック。そして一瞬ハッピーエンドに向かったと思ったらバッドエンドにたたき落とす。そこの落差に持っていくまでもすごく美しい。

伏線については、観劇しながら見つけたものを次の項で書きたいと思います。

幾重にも張られた伏線

今作はミスリードを完成させるための伏線が自然に組み込まれています。それは台本にもありますが、各々の言葉の発し方や振る舞いにも張り巡らされています。

まず、サツキの人間性に対して感情移入をさせる伏線。コロナ禍でホステスをクビになる。くらいでは特に感情移入しません
しかし、その後湯河原に住み込みで働いているときの晴れやかな表情、男4にマンションを買ってもらった時の表情のギャップは、ほんの少し「この人が死んでしまったのか」という儚さを生みました。
また、同じ男4とのエピソード中の「普通で人並みの暮らしが、私にとって最も贅沢な暮らしなの」というワード。このワードにピンと来た人はおそらく多く。物語冒頭の何気ない会話で男1の結婚相手について執拗に「普通」という言葉を重ねて、ほんの少しコメディチックな笑いを呼びました。だから他に笑わせるシーンがないのかと気が付き、若干吐き気のような感覚に(笑)明らかに重要なワードではなく、物語の核心にも迫らないワードでもこういう手法でさりげなく意識の中に刷り込むという構成と演出はお見事でした。舞台でしか得られない栄養です。(「事務職」もその後出てきた気がしましたが、台本では見つけられず…町工場の事務職だった気がしましたが)
そしてそうやって少しだけサツキに心を動いたがために、「実は生きている」という安堵と、その後服毒で苦しみながら死にゆく様を見て、なんとも言えない気持ちになりました。

また、それぞれの男たちの供述。一見裏社会系の男たちの供述は人間の弱い部分を見せているようでした。男1はサツキに対してやけに優しく、男3は機嫌が悪かったことをぶつけ、男4はサツキを愛する気持ちと配偶者がいることの板挟み。男5はサツキの犯した罪を救うため。そして男2は無戸籍写真同士の苦しみの分かち合い。

しかしそれらの真実はすべて、別の意味での弱い部分。言い換えれば器の小さい部分であったものでした。自分に都合よくストーリーを話していただけ。また、それも口裏を合わせておらず男4と男5は席を外しており、男3は直近で仕事に加わったということで、「この5人」ではなく、「世の中の人全員が」自分の身を守るためにタワゴトを言うというイヤーな感じを共感させたものだったと思います。

また、言葉や構成の伏線もさることながら、「サツキ」という言葉が出てきたときの男2のピクっとした表情、男5がニンマリとして供述した様、男3の自己防衛についての表現や若干考えの足りていない感じ。
特に従業員2人は、暴行と詐欺で明確に犯罪を犯しているのでオーナーや男4よりは若干行動がおかしい様子が多めだったのかもしれませんね。

こういった細かい伏線の張り方、そして回収された時のスッキリと絶望感が心にずしりと来る空間でした。

脚本を担当された菅野臣太朗さんの作品は今後注視したいと思います。

熟練の業

プロデューサーである船戸慎士さんが、同世代の役者を集めた。というプロデュース。各個人の年齢は存じないですがおそらく普段観ている界隈よりはもう少しベテランの方々かな。いわゆる2.5次元やエンタメのようなド派手さはほぼない。反面、染み付いた演技力の安定感はほぼほぼはじめましてでしたがすごく感じとれました。

若い世代の方々の演技を否定するつもりはなく、若いからこそできる演技もあればこういった熟練の味がある演技が響くこともあるのです。
基本的にこの年齢層の方々オンリーの舞台を観ることも多くないのでとても新鮮な気持ちになりました。

お店の中という空間

今回の劇場(?)はパニック東京というスペース。

案内所と書いてあって、無料案内所かと思いました

サイケリックなラウンジのような空間でした。本来は入った奥の方が小さいステージらしいですが、今回は客席がそのまま舞台になりました。だから没入感がすごい。細かく演技もみれるのでお芝居好きな人はすごく楽しめる空間になります。
暗転も独特で、急に無表情になり各個人が待機場所へ移動する感じは「スイッチの切り替え」のようでした。(若干回想と現代の行き来が多くなった男5とのシーンの時に煩わしさは感じましたが仕方ない。)
あとはどこまでリアルさを追求するかですが、最後の真相のシーン。サツキが男3に連れ込まれるシーン。どうしても通路の関係があったと思いますが、広さがあればもっと乱暴な感じが出せたのかな?なんて思いました。ただ、あのシーンはちょうど目の前だったのでゾクゾクっとする感じがしました。(何言ってんだ)

という、正直演出面は多少普通の舞台で出来ることに比べると限られてる感じは若干しましたが、それを補って有り余る空間でした。

今回がプロデュースvol1とのことで、次回があれば是非今度は両キャストも観てみたいと感じるものでした。
今作が偶然ハマったのではなく、次は他の人を誘って行けるような出会いとなりますように。


ちなみに物販は台本のみ(1500円)
もりもりの物販アンチの私にとっては凄く嬉しく、当然今作は購入にいたりました。じゃないの男1~5を的確に当てはめるのは無理です笑

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