可愛いは正義ではない 映画 正欲

皆様は映画が終わり、明るくなった映画館の雰囲気はどう想像しますか?晴れやかな気分で感想を言い合う人で溢れるとかそういう印象はあると思います。ですが、正欲はなんというかお通夜のような雰囲気で皆粛々と退場していきます。中にはカップルと思われる人もいましたが、明らかに「デートで映画観てきました⭐︎」みたいなインスタを投稿する様子は見られませんでした。

私が影響を特に受けた作家の朝井リョウ氏原作の正欲。原作も読んだので、ある程度のメッセージ性は割愛。強いて言えば、原作と異なる点が少しあったりではあるなと。まあ完全にイコールはできないですからね。

自分はこの作品を原作ありきで読んだけども、果たして映画初見だった人はどう受け取ったのだろう。という気持ちもありつつ、私の感想を書きたいと思います。


新垣結衣は魅力的である

この言葉に尽きる。同年代のガッキーはとにかく「可愛い」でした。ふわっとしか観たことがなく、リーガルハイ、ドラゴン桜、逃げ恥など。どこか抜けていて、それでも可愛さが滲み出る。三枚目的なコミカル役でも「ガッキーが可愛い」が出ている。そういう印象でした。
ですが、今作については「ガッキーが可愛かった」という印象は持ちませんでした。もちろん、纏っている雰囲気や所々でる夏月の素の表情などは可愛いとフワッと思うものの、全体を通して「可愛い」とは思うことがなかったです。むしろ、瞳孔が開いてる、目から光が消えている。そんな印象でした。Xの感想では「死んだ魚の目」とも書いてありました。すごいですね、私の世代のヒロインが「死んだ魚の目」と形容されるって。
可愛いという感想は否定しません。ただ、前述の過去出演作のような「一目見て反射的に出てくる可愛い」とか「可愛いところをかき集めて出てきた可愛い」とかではなく、それこそ正欲のような特殊な趣向まではいかずとも一周まわって「可愛い」だと思います。願わくば、その「一周まわった」思いは是非表に出すべきだ思います。
ただ、これが新垣結衣という女優に惹き付けられる魅力なんだと思います。同級生夫婦が尋ねてきた時、同僚に対して悪態をつくところ、そして予告編のような表情。クールな表情も素敵とかそんなレベルでは無い、そんな印象がありました。シンプルな感想だと「ガッキー凄い!」でした。メルティーキッスのクリアファイルで可愛いとか言ってる場合じゃないですね。


果たして普通が本当に正義かどうか

主人公の1人、検事の寺井啓喜。この人は観ている側からしたら敵にしか見えない。非常に腹の立つ存在だったかもしれない。ですが、啓喜はいわゆる「普通」なのだとも思います。だって、この作品を見るまで「水に性的な興奮を覚える」存在や、それに近い何かを持つ人のことを知らなかったはずですし、もしあなたの家族がそういう趣向だつたら「気持ち悪い」と思うかもしれないですよね。その後味の悪さは、朝井リョウ作品の凄さだと思うのです。特に稲垣吾郎さん演じる啓喜は、多少強引なところはあれど、必要悪や絶対悪というよりも視点が異なると悪になる存在だなと思うのです。でもその実態は「この作品を観て思うところがあった」と考えるあなたとそんなに変わらないのです。その絶妙に「自分かもしれない」と思うような姿。めちゃくちゃ嫌な奴でもないし、めちゃくちゃ誠実な優男でもない。普通の人。
そして今回タイトルに書いた「正義」というのも普通はこれ!というのが必ずしも正義とは限らない。そう感じるのです。Xの感想は、舞台とかは賞賛してなんぼ、おべっか使ってなんぼなところがあります。「可愛いとは思えんかった」という感想なんて書こうものなら誹謗中傷ですし、演出側も少し気を使ってしまう部分があります。
ですが、今作は「可愛いと言わせない」ような演出や役作りだったように思います。
たまに、こういう役柄を演じていて「可愛いって書かれるのはなんか違う」って言われることがあります。その気持ちが凄くよくわかる反面、そう思われてる時点で伸びしろだよねとも。そして「可愛い」と思わせなかったガッキーはやはり凄い。

私自身は、こういう特殊な性癖についてはほんのちょっとだけ知ってて、かつてbazookaというCS放送で、AV男優のしみけんが「クルーバービューシー症候群」について話していました。自動車のようなある程度形があるものはまだしも、高速道路という漠然としたものに性的興奮を覚える人がいる。エッフェル塔と結婚した人もいる。一応その点だけ知っていたのが、今回受け入れやすくなっていたと思います。
だからといって、じゃあ全部受け入れられるかと言うとそうではないですね。

映画館で観るべし

私はあまり映画に行かないのですが、うわって思ったところがあります。夏月が佳道の家の窓を割るところ。3次元的に水の音が頭の周りを包むようで、だんだんと夏月の感覚に引き込まれているような感じになりました。感情の変化を「音」で伝えるのは映画館でしか出来ない技法だなと思いました。
これこそ、「映画館に来てくれ」と言える材料だなと思います。舞台でもそうですよね。生のステージは凄いから観てくれ。ではなくて、凄いと言うフックがあると、心から「来てくれ」と思えるのです。

受け取り方は人それぞれ

たまに、脚本の詰めの甘さを「観ている人に想像させる」という逃げをしているものをよくみますが、今作は本当に人によって色んな感情を持たせると思います。ガッキーを一周まわって可愛いと思うのも、水だけでなく他の物が好きな人に対してどう思うのか、自分はもしかしたら変なものが好きかもしれないとか、啓喜のような自分とと、ほかの人たちのような自分をどう比べるのか。少なくとも、自分はほんの少し心が動いた部分はあるし、もし特殊な性癖がある。というのなら理解はできるかもと思います。

ちなみに、原作の感想では、私は頬骨フェチかもみたいなことを書いております。まあだからといって、好みの頬骨の子供を買春することはないですが。それはダメ絶対。

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