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全力でバカができる空間 #プリベビ

民本しょう子さんプロデュースのプリズン DE ベイビー(#プリベビ)初日を観劇いたしました。
ネタバレ含みます


あらすじ

脱獄を企む皆さん、じゃあこれからちょっと、赤ちゃんになってもらいます

世界のどこかにある『リッペルボーン』という国で起こったお話。
リッペルボーンでは近年、幼い子供や赤ちゃんが親の不注意や更には虐待で亡くなるニュースが度々流れ、世間を賑わしている。「親になるならもっとちゃんと自覚も覚悟も持って」そう言いたいけれど、少子化も国をあげての問題になっているので政府もあまり強くは言えない現状。
その中政府の役人は考えた。一度罪を犯して刑務所に入っている者たちになら、「開発中の『特別プログラム』が試せるんじゃないか」と。一度罪を犯した者が親になろうとするなら、特に厳しく意識を持ってもらわなければならない。だから試す理由になる、と。

でも囚人たちは『特別プログラム』と聞いてニヤリとする。「どうやらプログラムは刑務所の外で行われるらしい。これって脱獄するチャンスじゃないか。

しかし、そんな企みだらけの囚人たちが、プログラムに参加した先で気がついたら自分が赤ちゃんになっていた。

「自分が赤ちゃんに戻って、気持ちを知ることが事故や虐待の一番の防止になる」それがリッペルボーン政府の考えたことだった。刑務所の看守は、『特別プログラム』の為に集まり、赤ちゃんとなった凶悪犯たちを前にニヤリとする。「まさか脱獄を狙って参加したわけじゃないだろうけど、その状況では絶対に無理ですね」

プリズン(牢獄)でベイビー(赤ちゃん)となってしまった囚人たちと、企みを見抜いて受けて立つ看守とのバトルが始まる!

http://prisondebaby.com

率直な感想

とにかく笑いました。
いや、とにかく笑いました。
演技力の高い役者が全力でバカをやる。なんて表現をすることがありますが、もえそんな次元ではない。演技力の暴力でバカバカしさすら凄いと昇華できる。これぞコントではなく全力コメディで、芸人ではなく役者がやるものだとつくづく思いました。

キャラに頼らない

小演劇というのは狭いコミュニティで役者との忖度が生じるシーンが多かれ少なかれあります。もちろん役者のラインナップを見て期待するという意味では間違っていませんが、なんとなく普段のキャラを知っているから面白い。なんていうゴリ押ししてくるのはちょっと…という部分は正直あります。

が、本作は確かに普段を知ってれば面白いです。が、重要な演技力のベースがしっかりしているので空回り感がない。
例えば、セリフがちゃんと聞こえなくてもなんとなく面白いこと言ってる感で笑うんじゃなくて、ちゃんと聞こえるから面白い。おもらしという、それだけで笑いが取れるシチュエーションに大真面目な演技とシチュエーションが掛け算されたミスマッチがあるから面白い。
ネタありきの笑いではなくて演技力ありきの笑い。という印象がありました。

人数も多くなく、一人一人の演技がしっかり見れる。いわゆる「とりあえず居ます」になる人物がいなく、基本ほぼ出ずっぱり。(日替わりゲストを除く)
そしてどの人物も(赤ちゃんというコンセプトも相まって)完璧ではない愛らしさがある。

強いて言えば自己紹介のシーンがちょっと間延びしたかな?感はありました。ハイハイのシーンから立ち上がって回想シーン→戻る。というのが何度か繰り返され「これ全員分やるのかな?」という気持ちにちょこっとなりました。

滲み出る久保田イズム

全員がメインキャスト
閉鎖空間からの脱出
脱出後はそれぞれの道を歩む

という部分は、同じ久保田作品のハンズアップに近いものを感じます。多分骨組みは同じなのかな?肉付けは全く違うけど。
元々ハンズアップという作品が劇団の暫定最終公演でも上演されるくらいの強い(語彙力)作品ではあるので、イズムが出てくるのは個人的には嬉しいところ。

じゃあ令和版とも、コメディ版とも、たみしょうプロデュース版とも言えるかと言うとそうではない。まったく新しい何か版と捉えるのが良いかと思います。

ボクラ団義作品では推理小説のような高尚なロジックで物語を組み立てる氏が、奥様であるたみしょうさんを活かしたコメディに舵を切るととんでもない爆発力が出ることがよーく分かりました。

作る過程が見てみたくなる作品

最近は、ゲネプロ、読み合わせ、顔合わせ等の公開を販売するところもチラホラ出てきました。もちろんファンであればお金を払ってでも見たくなる。という需要はあるでしょう。
今作はそれを特に感じさせる作品でした。
初めて台本を手に取り、演出がついてない段階でどんな顔して(失礼)あの奇々怪界なセリフや世界観を味わったのだろう。なんて思うわけです。
稽古風景をひとつ見ても、「なんだこれ?」となる訳ですし、どうやってあの大の大人達の完成されたハイハイや赤ちゃん仕草が出来上がったのか興味がある人も多いのではないでしょうか。

完成度の高さ

大の大人が赤ちゃん化けして、作中の8割はハイハイしてるようなカオスな作品。これどけきくとわカオスな笑いだけを押し売りしてるように感じますが、実はすんなりとストーリーは受け入れられます。

というのも、最初の段階で「プログラムの完了」か「脱獄」というシンプルな目的を囚人たちが持っていることが明らか。看守2人はコミカルだけど、一応ヒールのポジション。このふたつの要素だけでもかなり観やすい。
あとはそれに向かって全力を尽くす姿に笑いどころが散りばめられているのを楽しむだけ!となればシンプルに作品を楽しめました。実際最後はちゃんと脱獄できて、みんな笑顔で終われた。

すごくひねくれた見方をすると、黒幕の内閣府はとか少子化がとか、プリズンはなんで喋るんだ。みたいなことをいうのですが、そこはストーリーにおいて重要な要素ではなかったのかな?プリズンが喋れるのは赤ちゃんの能力ってことですし。そこを深く追求しなくても、コメディの設定として昇華するだけでいいんだなーと思いました。

そしてあとは、「お前たちの演技力次第だぞ」と言わんばかりの迫力ある熱演。絶対に経験したことがないであろう状況なのに、世界に引き込めているのは流石お眼鏡にかなった役者陣。
先にも書きましたが、コメディだからと言って「細かいこと考えずに笑えよ」といって演技や構成を誤魔化すんじゃなくてちゃんと上質なものとして作り上げられたんだなと思います。
ちゃんとハラハラしたし、ちゃんと頼り甲斐があったし、ちゃんと頼り甲斐がなかったし、ちゃんと漏らしたときに共感性羞恥が擽られたし。

是非配信をご覧になられた方は、頭空っぽにして笑ったあとに個々の演技力も注目して頂きたいですね。

最後に

板の上では何が飛び出てくるか分からない民本さんですが、終演後ちゃんとプロデューサーとして入口までいらっしゃった姿が印象的でした。実質2年ほどの休業期間を経て、お客さんの前に立つことが何より嬉しいのだと伝わりました。

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