ライフライン「私ライフラインやめようと思う」オクタン「は?」
※妄想垂れ流し。ゲーム設定と食い違いあり。基本シルバ・シェ呼び。
オクタヴィオ・シルバは得意のグレネードを使ったフィニッシャーでとうとう自分の鼓膜までふきとばしてしまったんじゃないかと自分を疑った。
(へ、俺は自分の足を吹っ飛ばした男だぜ・・・)
胸の奥でつぶやきつつ、左手の小指で耳の穴をグリグリとほじくる。
自身の小指が耳の中をえぐる音がぞわぞわと響いたことで、その疑問はすぐに解消された。
だが何だろう。胸がざわつく。
それくらいに、ライフラインことアジャイ・シェの言葉は、何というか、彼女らしくない言葉だった。
「シェの姉貴、何かあったのかよ」
シルバの問いに、シェは答えなかった。
何も答えないまま、たんたんと彼女は手を動かし続けた。
シルバの左足の太ももには多数の注射痕がある。
それはAPEXゲーム中に彼が使用する興奮剤の注射痕だ。
放っておけば注射痕から様々なウイルスが体内に侵入し、最悪義足よりもっと上の部分を切り離すことになるかもしれない。
それをシェは丁寧に消毒して、ガーゼを巻いてくれる。
APEXゲーム参加当初は自分でやっていたのだが、
「どうせあんた、ちょっと消毒液つけてガーゼでグルグルにしてほったらかしでしょ?」
とシェに注意されてからは、シェがシルバの注射痕の消毒を担当するようになっていた。
深い手傷を負ったときは泊まり込みで看病もしてくれた。
まあ、別にシェは誰が傷ついていても泊まり込みで看病するだろう。
・・・
シルバの問いにシェが答えないまま、しばらくの間、沈黙が辺りをつつんだ。
シルバもそれ以上追求しなかった。
話したければ話すだろうし、話さないという事は今は聞くべき時じゃない、なんて、キザな韓国人みたいなことを考えていた。
そんなうちに、シェが口を開いた。
「・・・私さ。・・・みんなのけが。治してるじゃん」
「そうだな。俺もめちゃくちゃ助かってる」
「意味あるのかなって」
「はあ?あるに決まってんだろ?ライフラインを断たれるのは地獄だってのは姉貴のセリフだぜ?」
「そっか」
シェが短く答えると、またしばらく沈黙が続いた。
今日のシルバの手当てはもうとっくに終わっていた。
それでもシェは帰ろうとせず、シルバの隣に腰かけた。
安っぽいベッドがキシッと音を鳴らした。
「私、このゲームで上位に入賞する度に、そのお金を故郷の子供たちに送ってる。最初はそれでいいと思ってた。私が頑張ればそれだけ、あの子たちも幸せになれるんだって」
呟くようにシェが続ける。
「でも最近思うんだ。私はAPEXで誰かを傷つける立場にいる。だけど、私の職業はライフラインなの。人を治療するのが私の仕事なのに、私は誰かを傷つけている。まるで逆。最初は皆のケガを治すことが誇らしかった、」
だけど、と消えそうな声。
「私は、治らない傷を与えてしまった」
シルバはハッとした。
胸の中のざわざわが1つにまとまって、コレだぜって教えてくれた。
少し前のチャンピオン争いの事だった。
高所を取られていて劇的に不利だったシルバ達を逆転に導いたのは、シェのクレーバーでの一撃だった。
相手パーティはクレーバーの一撃に動揺し、そこからシルバのジャンプパッドを使った強襲が突き刺さった。
ゲームを見てる側からすればこの上なく面白い展開だっただろう。
大逆転。見事、シェ・シルバ一行がチャンピオンを勝ち取ったのだが。
相手パーティの1人が死んだことが後からわかったのだ。
クレーバーの弾が体を貫通せず、不完全に体内でさく裂し、弾が抽出不能になった。
そこからの感染症が原因で亡くなったそうだ。
実はAPEXゲームで死者が出ることは意外にもめずらしい。
強力な攻撃に耐えられるボディシールドやヘルメットの存在と、レジェンド達の強靭な肉体があるからだ。
シルバははっきりと、あれは事故だったと思えた。
このAPEXゲームの性質上、いつかは起こる、誰しもが経験しうる悲しい事故だ。
(そしてそこが・・・このゲームのクソッタレなところだ・・・。)
「あれは事故だったよ。シェの姉貴」
「事故だった。すみません。じゃあしょうがないですねで彼の家族は許してくれると思う?」
「それでもあれは事故だったんだよ。姉貴」
久々にシルバは嫌な気持ちだった。
自分の心の臓をガッシリと握られたような息苦しさに襲われた。
バンガロールの奴だったら、こんな時でも何かうまいことが言えるのだろうか。
(あいつ傭兵だしな・・・。)
シルバは色々な事を考えた。一つも言葉にはならなかったけれど。
「私が死ねば、それでトントンかな」
こういう時、シェの姉貴はとことん思いつめる。
たぶん放っておけば、どんどんダメになる。
俺にできることってあるのか・・・?
シルバはシェを見つめていた。
「・・・シルバ?」
「姉貴、ちょっと俺の首に腕回してくれ」
「え?ちょっとなに?わぁ!」
シルバはヒョイとシェを持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつで。
「姉貴だけじゃ持ちきれない荷物なら、俺も持ってやる。なあに大丈夫さ。この義足は丈夫だからな」
これくらいだ。
俺にできるのはこれくらいだ。
うまいことは言えねえ。
どっかの博士みてえに心理学何かにゃ詳しくねえ。
これくらいしか。これくらいしかできないんだ。
「・・・姉貴?」
シルバの体の上から下の方にかけて伝っていく何かがあった。
「ありがとう。シルバ」
「いいってことよ」
「なんともなくはならないよ。だけど、軽くなった。聞いてくれてありがとう」
「姉貴の為なら当然さ」
シルバはホッとした。いつものシェが少し戻ってきた感じがした。
「でもやっぱり私、ライフラインやめようかなー」
「は?何で?」
「心のライフラインはあんたに任せたって話」
おわり
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