ONE_PIECEのポリシー集

【教育コラム】ONE PIECEのポリシー集 -スモーカーという生き方―

ポリシーの漫画『ONE PIECE』

不祥事が絶えない今日この頃です。有名な大企業でも、お国の偉いさんでも、頭の良い人々がなぜ?と首を傾げたくなりますが、それほど、組織の力学に揺さぶられ、首根っこをつかまれてしまうのが、仕事なのかも知れません。

組織に屈することなく凛と立っておくためには、個人としての譲れない信念のようなものが必要になるでしょう。信念というとイメージが湧きづらいかも知れませんから、ポリシーの方が適当でしょうか。『ONE PIECE』はポリシーの漫画です。「海賊なら!!!信じるものはてめェで決めろォ!!!!」と叫んだ四皇・白ひげは「家族は決して裏切らない」というポリシーを携えていました。麦わら海賊団で医師を務めるチョッパーは「誰だろうと治療する」、コックのサンジは「食いてェ奴には食わせてやる!!」が其々ポリシーだと言えるでしょう。登場人物一人ひとりのポリシーがここまで丁寧に描かれ、しかもどのポリシーにも一理あるという共存的な描き方は、他の作品では類を見ません。

ポリシーとは海賊旗

では、改めて、ポリシーとは何でしょうか。主人公のルフィがドラム王国でワポルに向けて放ったセリフから、ポリシーとは海賊の象徴である「海賊旗」だと考えることができそうです。彼は「これ(海賊旗)は!!お前なんかが冗談で振りかざしていい旗じゃないんだ!!」と言い放ちました。つまり、ポリシーとは冗談などではなく、大真面目に心の底から信じて譲れないものを指します。冒頭で触れた不祥事や不正行為に手を染めてしまう人々は、たとえお勉強ができても、ポリシーを育み磨くことをやってこなかったのかも知れません。

スモーカーのポリシー

しかし、組織の力学より個人のポリシーを優先させる行為は容易いことではありません。なぜなら、それは時に、所属組織に歯向かうことを意味するからです。働き方改革の流れもあり副業が増えつつありますが、まだまだ1社に所属し収入を得るのが一般的です。そうなると、村八分に遭うリスクや解雇に追い込まれるリスクを鑑み、結果的に組織の命令に従わざるを得ません。

この、極めて現実的なジレンマ的テーマに対して、参考になる組織人が『ONE PIECE』には描かれています。それは、海軍に所属するスモーカーというキャラクターです。海軍とは現実世界では警察のような組織で、海賊という犯罪者を捕まえ海の安定を維持することが主な仕事です。しかし、彼はアラバスタ編で主人公のルフィ(海賊)と遭遇した際、職務であるはずの捕獲をせず、諸々の事情を鑑み、「行け」と逃がしました。「だが今回だけだぜ…おれがてめェらを見逃すのはな…」と付け加えて。(もちろん現実世界で警察が犯人を見逃すことはあってはならないです)

彼のポリシーは何でしょうか。彼が譲らなかったものは一体何だったのでしょうか。それは、頂上戦争の際に暴力組織と化した海軍に対する「何が違う!!❝正義❞も❝悪❞も…!!!!」という彼の心の声が物語っています。彼は物語のなかで、正義とは何かについて、真摯に直向きに悩み続けます。私は、彼のポリシーは、「WHOではなくWHAT」、つまり、「❝誰が正しいか❞ではなく❝何が正しいか❞」の追求だと考えています。

❝誰が❞ではなく❝何が❞のキャラクターたち

実は、同様のポリシーを持つキャラクターは『ONE PIECE』に数多く描かれています。たとえば、王下七武海のドフラミンゴは「海賊が悪!!?海軍が正義!!?そんなものはいくらでも塗り替えられて来た…!!!」と叫び、青キジも「正義なんてのは立場によって形を変える」と類似コメントを述べています。また、藤虎は「不備を認めたくらいで地に落ちる信頼など元々ねェも同じだ!!!」と同じ海軍組織の赤犬に突き付けてみせました。

他にも、海軍中将だったサウロは、ただ歴史を研究しているだけのオハラの考古学者を殲滅することに疑問を抱き世界政府の命を受けた海軍の命令に逆らいましたし、奴隷解放に努めたフィッシャー・タイガーは、人間嫌いでしたが差別せず世界貴族から奴隷を解放しました。

多種多様なポリシーが描かれる『ONE PIECE』において、❝何が正しいか❞を追求するというポリシーが複数のキャラクターに吹き込まれていることは、ただの偶然ではないように思います。

現実世界でも求められる❝何が❞のポリシー

「たかが漫画じゃないか」と言われるかも知れませんが、「されど漫画」です。たとえば、DeNAのファウンダー南場智子氏は、優秀な人材の条件として「思考の独立性」を挙げています。近しい表現として、アイシン精機で社長を務めた山内康仁氏は「権威に依拠しない自分の考え」と表現しています。お二方とも、その意味するところは、❝何が正しいか❞を他人に与えられるのではなく自ら考え出せる人物、ということでしょう。

産業界だけではありません。日本でトップの東京大学の入学式で石田洋二郎氏(副学長)は新入生に「周囲の同調圧力に迎合して安易に妥協してはならない」という趣旨の呼び掛けをしています。これが、日本のトップの東大生に向けた警鐘のメッセージであったことは注目に値します。つまり、無意識でいると、日本で最もお勉強が得意な面々でも、周囲の同調圧力に屈してしまい、思考が独立でなくなり、権威に依拠した考え方になってしまうリスクがある、という解釈ができてしまうからです。

実在する❝何が❞の人物たち

では、思考が独立した人物とは実際にはどのような人物でしょうか。皆さんの身の回りにもいるでしょうが、有名どころでは、イチロー選手の例を挙げたいと思います。彼は、オリックス時代、まだレギュラーになる前ですが、監督にバットを短く持つように言われても従いませんでした。それは、彼の中に、「監督は2~3年で替わる。僕は僕のスタイルを作りたい」という明確なポリシーがあったためです。

また、『ビリギャル』のモデル・小林さやか氏の次のコメントからは、意外な人物が思考の独立性を持つ人物であることが窺えます。「私、ギャルやヤンキーは本当に宝だと思ってて。同調圧力に屈しないし、疑問に思ったら声を上げるし、何より自分の言葉を持ってるのが良いですよね。」

仕事とは、何に仕えることなのか

❝誰が正しいのか❞ではなく❝何が正しいのか❞を追求するスモーカー。思えば、私達も既に同じポリシーを有しています。たとえば、尊敬する人物に勧められた本や映画が必ずしも自分にとって面白いとは限りません。本や映画に限らず、好きな食べ物も、好みの音楽や匂いも、好きな相手も、どれだけ信頼する人にレコメンドされたって、自分の好みは譲れないものです。

仕事だって同じです。「仕事」は「事」に「仕」える、と書きます。そう、「人」に「仕」えるのが仕事ではないのです。先ほどご紹介したDeNAで大切にされている価値観に「コトに向かう」というキーフレーズがあるそうです。正に、スモーカーのように、上司などの「人」に迎合するのではなく、正しい「事」は何かを追求する姿勢でしょう。

スモーカーの生き方は、揺れ動く人生を生き抜かねばならない私達にとって、強力な羅針盤になるのではないでしょうか。


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