見出し画像

凪良ゆうさん「流浪の月」「汝、星のごとく」

 凪良ゆうさん読みたいんだよね、と言われたらもう書くしかないじゃーーん!と筆を取った。本をすすめる時、感想文より印象的な引用をする方が作品の良さが伝わるような気がしているので、ネタバレに気をつけつつ引用をしようと思う。

 この2作品は割と似ていて、どちらもいろんな理由でうまく社会を生きられない「世界からはじきだされる側」の人たちを主人公に、社会とは、愛とは、生きるとはどういうことか、を描いている作品だ。何気なく見上げた空に星が光るようにひそやかに、さりげなく、読者に生きる力を与えてくれるような物語たちだ。

「流浪の月」

 こちらは2020年本屋大賞受賞作。主人公の男女が、互いを自分にとって唯一無二の『月』と見做し、白昼を生きるのではなくふたりきりで闇夜を流浪することを選ぶ、そういう物語。だが、普遍的な恋愛小説とは違う。彼らの間にあるのは凡庸な恋愛感情ではない。
 あらすじ。少女・更紗(さらさ)は、両親と楽しく暮らしていたが、父の病死をきっかけに不幸に陥っていった。9歳で母親が蒸発、叔母の家に引き取られるものの、今までの暮らしとは違う「常識」を押し付けられ、さらに叔母の息子・孝弘は毎夜彼女の部屋に忍び込み体を触ってくる。安心して過ごせる場所を失った更紗を掬い上げたのは、近所で『ロリコン』と噂される19歳の男子大学生、文(ふみ)だった。更紗は文の家で、両親がいた頃に戻ったかのように幸せな日々を送るも、世間からは非道な誘拐事件としてしか見られなかった。すぐに文は警察に捕まり、ふたりは引き剥がされてしまう。それから15年の時を経て、偶然ふたりが再会した時、幸か不幸か、運命の歯車はまた回り出していく。

ひとりのほうがずっと楽に生きられる。それでも、やっぱりひとりは怖い。神さまはどうしてわたしたちをこんなふうに作ったんだろう。

凪良ゆう「流浪の月」p. 225

負の感情だけをぶつけてくれるなら、いっそ楽だと思う。怒りや蔑み、上からの哀れみ。そんなものなら、なんのためらいもなく投げ捨てられる。けれどその中に時折、優しい気持ちが混じる。この人を理解したいとか、自分になにかできることはないかと、そういう善意がわたしの足をつかみ、そっちにいってはいけないと強く引き留める。

同上 p.266

ごめんなさい、と心の中で謝った。せっかくの善意をわたしは捨てていく。だってそんなものでは、わたしは欠片も救われてこなかった。

同上 p.271


「汝、星の如く」

 2023年本屋大賞候補作!ちょうど友人に本を貸してしまって手元にないのであらすじが書けない、ので私が読みながら書いていた感想。

 瀬戸内の島、家庭に問題を抱えた高校生の櫂と暁海は、似た境遇に自然と惹かれあっていくも、漫画の原作者として成功した櫂が上京すると遠距離恋愛になり、二人には心の距離ができてしまう。経済的自立ができれば幸せになれるのかな、と思いきや、働いてお金を稼いでいても、実はそれは土台でしかなくて、介護や病気や人間関係、ままならないことがあまりに多くあって、だから結局みんなで泣きながら衝突しながら恨み合いながら、支え合って生きていくしかない。きれいな虚構ですって顔をした生々しい現実を鼻先に突き付けられてもう息が、息ができない。

人はなにがしかの事情があって、その舞台裏になにが転がっていようといいじゃないか。薄皮一枚の下に、弱くて泣きたい自分を隠していてもいいじゃないか。

凪良ゆう「汝、星の如く」p. 210

わたしにとって、愛は優しい形をしていない。どうか元気でいて、幸せでいて、わたし以外を愛さないで。愛と呪いと祈りは似ている。

同上 p.269

どこにも飛んでいかないで、ずっとわたしのそばで生きていて、じゃなくて、好きなとこ飛んで行っていいよ、ちゃんと追いかけるし、ちゃんと追いつくから。

同上 p.324

あーーん引用しぼりきれない…やっぱり良すぎる…

読了直後の私の感想。
「流浪の月パワーアップバージョンって感じ、さらに物語が分厚くさらにたくさんの人生が肯定されていて、ほんと最高、愛おしい、生きていこうと思う、わからないことだらけの夜を、星あかりを頼りに」


どちらも内容はもちろん装丁も最高なので、とりあえず書店で手に取ってみてねー!実際私も買うつもりなかったのに、本屋で表紙に惹かれて手に取って、プロローグを読んだら、気づいたらレジに並んでた……恐るべし魅惑。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?