資産運用は非科学に溢れている(2)

副題:ハイリスクハイリターンの功罪

(1) 我々は間違った言葉に踊らされている

 ハイリスクハイリターンという言葉があまりにも幅広く間違って理解されてしまったため、日本は資産運用から遠ざかったしまったかも知れません。この言葉を正しく理解し腹に落とし込むことが資産運用の第一歩だと思います。

 元本は保証されないという事を理解するための方便として使う分には「ハイリスクハイリターン」は必要な表現だとは思います。しかし、この言葉が独り歩きして、というか証券会社の営業マンが悪意を持って使っていたために、今は間違って理解されているように思います。

 そもそも、リスク商品がハイリターンであると同時にハイリスクであったなら、それはギャンブルと変わりません。したがってこういったリスク商品を買うことは資産運用にはなりえません。基本的には資産運用とは増える事を前提とします。従ってそもそもの定義として、リターンがリスクを上回ることが前提となっています。極端な言い方をすると、ローリスクハイリターンでは無ければ、資産運用はそもそも成り立ちません。現実には、いわゆるハイリスクな商品をよりローリスクに運用し、よりハイリターンを得ていく手法で運用していくのが資産運用の定義と言えます。

(2) 株に手を出す

ハイリスクハイリターンという言葉の延長線上に、「株に手を出す」という言葉もあります。これはとても汚らしいイメージの言葉です。株を買って失敗してしまったとき「お前は株に手を出したからだ」と言われると気分は良くないし、いささか自責の念に捕らわれるでしょう。

 しかし現実には、日本国民の殆どが株式のリターンのお世話になっています。何故なら、日本人の年金の原資となる国民年金・厚生年金がが株に手を出している?のであり、全国民、特に自分から何もしなくても、二十歳以降は皆さん株に手を出しているという事になります。

 少なくとも、老後資金を貯めるために、iDECOや積立NISAで株式の投資信託を買うことについて、「株に手を出す」という言い方をするのは、非科学です。

(3) 赤信号を渡るリスク

 赤信号を無視して横断歩道を渡るとき、人は、ケースバイケースでリスクとリターンを比較します。その能力が人には備わっています。全く車が通っていないとき、急いでいるとき、リターンがリスクを上回った時、人は赤信号を無視してリターンを得ます。

 火はハイリスクハイリターンだから、時々火事になっても仕方ない、と考えるのは非科学です。我々は科学の力を使って火からリスクを無くし、リターンだけを得ることが出来ています。家庭にガスコンロがあっても火事になることはまずありません。

 それらと同じように、科学的に比較的ローリスクで比較的ハイリターンな方法を見つけることが、資産運用の第一歩であるはずです。どうやったらローリスクハイリターンになるのか?を考え始めたとき、例えば売買の時間分散、長期での投資がローリスク化の選択肢に入ってきます。

(4) リスクは科学である

 リスクは科学の分野に該当します。なぜなら分析し、管理できるものだからです。ですので、感情にしたがって「俺は太く短く生きたいからハイリスク商品を買う→大抵は日本株を買う」という蛮勇も、「私はリスクが嫌いだから債権で手堅く運用しよう」も、資産運用の世界では正当化できかねます。

 長期投資では、運用期間が長くなるにつれ、リスクが下がりリターンが増えます。だからこそ長期運用では株式投資が良いされています。これは長期資産運用においては非常に重要な定義です。しかし、このことは、ハイリスクハイリターンというあやふやな言葉では説明できません。

(5) リスクとリターンは別のもの、比べるべき対象である

 リスクとリターンは、別々に存在するものです。まず、ここから理解しないとなりません。ですので、ハイリスクハイリターンという言葉は、皆さんの脳内辞書から一旦消し去ってほしいです。ある投資商品に出会ったとき、期待リターンは何パーセントか?という疑問を持つと同時に、リスクは何%か?という疑問を持つべきです。

  もし仮に「ハイリスク=ハイリターン」という商品があったとしたら、これを買うわけにはいきません。しかしリターンがリスクより大きい、「リスク < リターン」な商品があれば、買うかもしれません。リスクとリターンを比較するという事は、そういう事です。

 端的に言えば、リスクとリターンは、比較するべき関係なのです。例えば「期待リターンが40%で、リスクは30%」という商品があれば、「10%多くリターンが貰えるのかな?」といった見立てを建てることが可能になります。

(6) 標準偏差とシャープレシオ

 現在はリスクとリターンを比較する事は、残念ながらあまり一般的ではありません。しかし存在しないわけではありません。投資商品ではリターンの振れを統計上の標準偏差で表して、それをリスクと表現する場合があります。

(投資商品の)リスク=(統計上の)標準偏差

 更には、シャープレシオという指標も存在しており、投資信託ではリスクを測る指標として一般的に使われています。

シャープレシオ = (リターン ー 安全資産利子率)  ÷ リスク

上記計算式での「リスク」とは「標準偏差」の事です。

 シャープレシオを用いることで複数の投資信託を比較する事が容易になります。単純に「シャープレシオの大きい投資信託が優秀な投資信託」と理解して構いません。しかし惜しいことに、シャープレシオの数字「1.3」の絶対的な意味が分かりにくいです。よほどのプロでなければ、この数字の持つ具体的な意味を説明することは不可能です。

 このように、標準偏差やシャープレシオといった指標が、あまり一般化しておらずうまく世の中で運用されていないとはいえ、投資信託を扱っている会社の中には、このような指標を重視して、リスクを低くリターンを大きくしようとしている会社・投資信託も実在するので、そういった努力は評価されるべきです。

 なお、RRs分析ではこの問題を解決し、誰にでも分かり易いリスクとリターンを比較するツールを提供しています。

(7) まとめ

 ハイリスクハイリターンという言葉に疑問を持ち、或いは忘れ、リスクとリターンを比較するという考え方、リスクを減らしリターンを多く得る工夫を是非身に着けてほしいと思います。

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