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【ライブレポ】SAKANAQUARIUM 2024 “turn”@大阪城ホール(2024.05.28)/サカナクション

2024年5月28日【SAKANAQUARIUM 2024 “turn” @大阪城ホール】に参加してきた。

公演からかなり時間が経ったが、文章自体は割と鮮度があるうちに書いたもの。そのままになりそうだったものをギリギリのうちに引っ張りだしてきた。

サカナクションのライブは2022年武道館以来の2度目。前回もレポ的なものを書いている。

彼らにしても、それ以来のツアーになる。正しく言うと、ツアーを予定していたが中止になってしまった。彼らにとってのこの2年間は、山口一郎氏の病気との闘いそのものだったのだろう。だからこそ、昨日は、その逞しいパフォーマンスを体感し、大きく感情が揺さぶられた。

自身がサカナクションの“ファン”なのかというと、自己評価的には“ファン”ではないと思う。新譜を追っているわけでもないし、未だに知らない曲も多いし、たまに気が向いたときに聞く程度で、それ以上の楽しみ方はしていない。

山口一郎氏についても同様で“ファン”ではない。ただ、彼の好きなものを好きなことが多いので、長いことちょくちょく気にはしている。意外なところで好きなものが繋がったりする感覚が面白い。イサムノグチ、横尾忠則、川久保玲、山本康一郎等々。いずれもその一致を後から知るパターンが多く、つまり、“彼の好きなものが好き”なわけではない。釣りも好きじゃないし、歌詞も正直よくわからないし。それでも、彼の表現するものはなんとなくかっこよくて、なんか良いのである。その纏う雰囲気全てが絶妙にセンス良くて、その言語化できないものを明らかにしていきたいという欲があると言えばある。

ということで、前回の武道館も友人に誘われたからという消極的な理由だった。ただ、確実に一度ライブに行った経験が今回の動機になっている。前回は、コロナ禍であり、声出し禁止、動きも控えめな状況だったが、それでも十分会場の熱気を感じたし、何よりもサウンド、演出、映像のクオリティ(笑)が高く、かっこよかったのだ。

前回はコロナ仕様の演出になっていたが、これが解禁されたらどうなるのだろう、という好奇心を持っていた。噂には聞いていたが、サウンドは素晴らしい。武道館というそもそもイマイチなハコに規格外のスピーカーを持ち込んでクオリティを上げていくその姿勢もクールだ。ちなみに、城ホールは比較的音響の良いハコと言われているが、そこにも規格外スピーカーを持ち込んでいたので、今回もサウンドは素晴らしく(素人ながら)、読んで字の如く、音に溺れた

さて、ドキドキしながら迎えた昨日、天候は一生続くのではないかと思われるほどの雨。山口一郎氏にちなんで、足元に至るまで身に着けるものは、ほぼ「The Ennoy Professional」で固めた。気合は充分。開場時間近くに大阪城ホールに着き、近くのカフェでハートランドを2本空けながら時間をつぶす。20分前くらいになったので、いざ入場。

久しぶりの城ホールだが、慣れ親しんだ会場だけに懐かしさがある。今回は、ファンクラブ席でもないのでスタンド後方。アリーナはスタンディングオンリーの珍しい座席のつくり。開演5分くらい前、隣に座っていた中年男性に対し、「そこ私の席だと思うんですけど~」という諮問が中年女性からなされ、結果、中年男性がどこかにフェードアウトしていった(前後レベルの間違いではなかったようだが、彼はどこにいったのだろうか)。そうこうしているうちにブラックアウト。

ここからはダイジェスト。インストの「Ame(B)」がこの日の強烈な雨音と同化していて、かなり良かった。映像とサウンドはさすが。ここで一気に神秘的な世界へ引き込まれる。

と思いきや、その後、真逆の演出で「陽炎」。緊張と緩和。登場と同時にステージを駆け回り、会場のボルテージを一気にあげる。ここからは怒涛のつなぎ。「アイデンティティ」~「プラトー」まで、息つく間もなく、爽やかクール系の楽曲ラッシュ。撥水が行き届いた傘に勢いよく落ちる雨粒のように会場全体が音楽に弾け飛んでいるかのようだった。もちろん、私もその勢いに抗うことなく弾け飛んでいた。

ラッシュの後は、バラードでもないし、なんといえば良いのかMellow系ゾーン。どのアーティストでもこの手の楽曲を持っていると思うが、これはライブの醍醐味だ。普段イヤホンでこの手の楽曲を聞くことはないし、映像で見ても大して面白くもない。このリアルな空間だからこそ、音を全身で楽しむことができるし、音に合わせて自然と体が揺れていく感覚。ぼーっとしているようで、神経は研ぎ澄まされている。そういった表裏を併せ持った表現と体感を身体が覚えていく。

その後、テクノ系の楽曲。サカナクションの代名詞ともいえるクラブミュージック的なノリ。楽曲に合わせて動く映像と照明の演出に惹き込まれる。音の重なりがより一層増したような強めのサウンド。そして「ミュージック」。ここの演出はやっぱりかっこよい。10年くらい前に何かで見たミュージックの演出が神懸っていて、それを10年越しに体感できた喜びがあった。その後は、最後に向けてもうひと盛り上がり。

「ショック!」~「新宝島」でもう一度会場が飛び跳ねる。クライマックスに向かっている感を会場全体が作り上げようとしている優しい空間だ。MCをはさみ、この2年間の振り返りがあり、「忘れないの」で終了。その後アンコール。

最後のMCで山口一郎氏が言っていた言葉が印象的だった。以下、うろ覚え抜粋。

「2年間の空白期間を超えて、もうこれまでのサカナクションには戻れないと思う。これからは新しいサカナクションになっていく。それがどんなものなのかは僕たちにもよくわからない。これからライブを通してそれを見つけていく。それはたぶん皆さんが求めているようなものではないかもしれない。それでも、僕たちは、ライブや楽曲を通して、皆と一緒に感情を動かして、感動やワクワクを届けていきたい。」

全てのアーティストがそうなのかどうかは私にはわからないが、サカナクションは、新しいことに挑戦し続けるアーティストだと思っている。変わらない音へのこだわりやテクノ要素を大事にしつつも、楽曲はもちろん、それ以外にもその表現の在り方のようなものに対しては常に自らへ問いを投げ続けている。

それが彼らのカッコよさの源である。世間から求められるものに流されるのではなく、自分たちがどうしたいか、ということを判断の基準においている。だからこその歪もあるだろう。それでも、焦らずにじっくりとその意味を沁み込ませて、表現に変えていく。そのような表現を鑑賞するものたちは、その残滓のようなものを大切に抱えて日常生活に戻っていく。

人生でこれが最後にはならないような気がする。あとまだ何回かは彼らのパフォーマンスを体感したい。それはきっと今回見たものとは違ったかたちのものなのだろう。

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