2022.04 トルコ旅行記(人物編)
前回のHatay編が食、歴史、文化の紹介と、あまりに普通だったので、出会った人にフォーカスした記事を書きました。
ZekiとはHatayのレストランで知り合った。ウェイターのチーフをしていて、笑顔あふれて気も効いて、とても気持ちよく食事をとることができた。翌日同じレストランの前を通ると開店前で暇そうだったので、一緒にお茶をすることに。
ZekiはHatay生まれHatay育ち。なのに、ネイティブ並みの英語を話していた。理由を聞くと、2011年に始まったシリア内戦によってHatay含むトルコ国境周辺の都市に国連の事務所ができ、国連の運転手をしていたとのこと。
シリア人難民問題は深刻
トルコはざっと300万人のシリア難民を抱え、シリアまで目と鼻の先のHatayにも多数の難民が住んでいる。難民がHatayの安い労働力となり、仕事を失ったトルコ人も多い。小学校ではトルコ人とシリア人が同じクラスで授業を受けており、シリア人の子供に罪はないものの、親世代が我が子にネガティブにシリアを語ることで子供同士のいじめに発展している。
日本の外務省の渡航情報ではHatayはレベル4の「Not to go」地域であるが、実際は治安は回復している。一方、更に国境に近いReyhanlıにはシリア難民が過半数を占め、治安が悪いまま、とのことだ。
Zekiはとてもリベラルで、「シリア内戦のお陰で国連や人権団体が飯を食えている」という発言はとても印象的だった。物事を2つのサイドから見ており、シリア人やトルコ人が困っている一方で、(もちろん助けている側面はあるものの)シリア内戦によって集まるお金を懐に入れている国際組織もいるという冷静な指摘だった。
トルコ経済はなぜ悪化したままなのか
エルドアン大統領という暴君が原因の一端であることは日本のニュースでも報じられているところであるが、我々の理解以上にトルコ政府は腐敗しているらしい。ここ数年でトルコの貨幣価値は1/3以下に落ちているが、Zeki曰くこれは政府の意図によるものとのこと。貨幣価値を下げることで不動産価格も下げ、外国の富裕層にトルコの不動産を買ってもらうことに狙いがあるそうだ。(不動産業界から政府にキックバックがあるのかその辺りは賄賂が蔓延りすぎてクリアに見えないらしい)
ヨーロッパ、アフリカ、アジアの結節点にあるトルコは本来は物流拠点であるが、南のシリア、東のイラン、アルメニア、アゼルバイジャンの国境も通過を厳しくしており、ロジを止めることで経済も止めているという見方だ。(それだけ政府は貨幣価値を下げたい)
若者が大量に海外に流出している
その結果、若者は大量に海外、特にイギリスやドイツへ流出している。なぜならトルコで給料的に最も人気職であった医者ですら、月給が10万円程度であるくらい、トルコ経済は疲弊しているからだ。教養のある人なら、単位時間あたりの生産性を求めて国外に行くことも頷ける。
ちなみにトルコ政府は人材の国外流出を全く問題視していないらしい。それは教養があってリベラルな人材は国にとって邪魔であり、保守層を国内に残しておきたいという思惑が作用しているそうだ。
Halukはトルコ南部の都市Gaziantepで医者をしている。Couchsurfingというコミュニティサイトで知り合い、Gaziantepでお茶を飲んだ。ちなみに地元民はGaziantepをAntepと呼んでいる。
戦場で医者をしていると人の死に慣れてしまう
彼はイスタンブール大学の医学部を卒業し、トルコの地方で医者を勤めてきた。彼が希望したというよりはトルコでは若い医者が地方に飛ばされるらしい。彼の場合、「間が悪く」ちょうどシリア内戦と重なり、戦場に医者として帯同することになり、先程のReyhanlıにも滞在していたとのこと。シリア人の医者と一緒に戦場で傷ついた患者の手当を不眠で対応していた由。シリア人の医者は本当にピンキリで瀕死の患者が来ても真面目に対応しないこともあったと話していた。
早くドイツに行きたい
労働が過酷である一方大した給料ももらえず全く割りに合わないと嘆くHaluk。出身地であるイスタンブールへの近日中の帰任が決まり心底喜んでいる中での今回の出会いだった。彼の両親、5人の兄弟、誰もAntepを訪ねてこないそうだ。イスタンブールのトルコ人は南部は危険で魅力もない場所だと思っている。イスタンブール帰任後は、ドイツでのキャリアを模索していることも話してくれた。
トルコ北部の町Trabzonから東部のまちVanへの飛行機移動中、イラン人の4人組と知り合った。テヘラン出身で全員医者。Ramadanの休暇でトルコに遊びに来ていた。
トルコはイラン人にとって遊び場
アルコールが飲めないイランでは、国境通過もVISAなしで容易いトルコに来て酒を飲んで騒ぐのが定石だそうだ。彼らもテヘランからトルコ国境まで車で移動し、車を置いてトルコに入国してきたそう。Vanの市内もホテルが満室になるくらいイラン人でごった返していた。
一方、トルコ人はイラン人をよく見ていない。お金を落としてくれる以上にマナーが悪く、言葉も通じないので仲良くなれないのであろう。アルコール飲みにはっちゃけに来ている人たちだから「旅の恥はかき捨て」の感覚なんだろうなと思った。
イランの医者はオマーンとUAEを目指す
イランもトルコ同様、政府の腐敗著しく、医者も待遇改善のため、オマーンやUAEに行く由。トルコと違って、VISAの問題もあるだろうが、欧米を目指さないのが印象的だった。留学含め、欧米に行くのは政治家などの子弟とのこと。彼らはお金があるだけで全く頭は良くないと言っていた。
考察
トルコでの人の出会いを通じて感じたことを記す。
明日は我が身であること
自国の貨幣価値が落ちて、海外に目が向くことは日本でも十分起き得るということだ。東南アジア人が日本に出稼ぎに来るように、日本人もやがてはアメリカに出稼ぎに行き、本国の家族に送金するような暮らしになるのかもしれない。
もしかしたらハワイやバリのように、極東に浮かぶ観光の島と化し、経済コンテンツは空洞化して欧米人の余暇の受け皿になる日本の未来も頭に浮かんでしまった。
日本を見ている人は誰もいない
日本についての印象を聞くと、マンガ、アニメ、車、バイクのみで少なくとも日本で留学したい、働きたいという人には1人も会わなかった。それだけ魅力のない国になっているのである。日本は厳しい入国制限をしてきた国であるが、制限なんて傲慢である。今や「来てください」とこちらから頭を下げなければいけない時代になっていることを僕たちはまだ気づいていないのかもしれない。