コロナで見えてくる教育格差とこれからの学校のあり方

ようやく6月から段階的に登校が再開されます。しかしこれまで通りの学校生活が再開するわけではありません。緊急事態解除宣言が先んじて出された北九州で、第二波の危機がすでに見え始めているところを見ると、東京、大阪、名古屋といった都市圏は(もちろん都市圏に限った話ではありませんが)、いつ再度外出自粛が要されるかわかりません。
(参考 : https://www.tnc.co.jp/news/articles/NID2020052707251 )

このような状況下において、子どもたちの教育をどのように保障していくかについてNews Picks内の番組「WEEKLY OCHIAI」と「THE UPDATE」にて連続で取り上げられていましたので、これらを見た上での課題と今後の教育について考えたいと思います。

WEEKLY OCHIAI「コロナ格差と教育を考える」

落合陽一さんと有識者で社会や経済の問題について対話する「WEEKLY OCHIAI」にて「コロナ格差と教育を考える」というテーマの回がありました(4/29放送)。

ゲスト:  竹中平蔵 / 山口周 / 宮田裕章(慶應大学医学部教授)/  松田悠介(Crimson Global Academy 日本代表)

この回は大きく「リモート化による変化と課題」「オンライン教育の課題」「教育による格差の拡大」「学校に求められる役割」というトピックで対話が進められました。

THE UPDATE「オンライン教育は日本を救うのか?」

NewsPicks 編集長の佐々木紀彦さんと古坂大魔王さんをMCに、専門家で議論する知の格闘技「THE UPDATE」では「オンライン教育は日本を救うのか?」というテーマで白熱した議論が行われました(5/12)。

ゲスト:藤原 和博 / 夏野 剛 / 稲葉 可奈子 / 高濱 正伸 / 松田 悠介

こちらの番組ではオンライン授業が全国の学校で始まる中で、その実態や教育現場で活躍される方々による議論が繰り広げられました。議題は大きく「オンライン教育のメリット・デメリット」「学校はどのようにICTを活用していくか」「日本にもっと必要な教育改革は何か」「九月入学の是非」という流れで進められました。

オンライン教育の課題

日々ニュースなどでもZOOMやGoogleのプラットフォームなどを用いたオンライン教育の話題が上がっていると思います。私の学校でも少しずつ環境が整えられ、学校に来れない間の連絡や教育活動が始まっています。しかしどの学校でもすぐにオンライン化できるわけではなく、そこには大きく3つの格差が存在すると挙げられていました。

・自治体、学校間格差
・学級、教員間格差
・家庭間、経済格差

1つ目に自治体や学校のオンライン教育に対する姿勢の格差が挙げられます。オンライン教育導入にはデジタル環境が整っていることが必須となります。日常的にiPadなどのデジタルデバイスを通して授業を行なっている学校(私立の割合が多いでしょうか)は対応が早かったと思います。入学の段階で保護者の合意が得られており、家庭内でデジタル環境が整えられているからです。一方でそれ以外のほとんど学校ではICT環境の導入が部分的、あるいは全く行われておらず、自治体からの支援もまばらです。また校長の一存によるところも大きいようで、すぐに旗振りができた所とそうでなかったところでも時間差がありました。本来であればインターネットは物理的な地域間の差(地方と都市圏)を埋めるものと期待されていましたが、その地域差が教育の差にでてしまっているという状態になってしまっています。

次に学校として環境が導入できたとしても、それを積極的に使おうとするかどうかという学級、教員間格差が挙げられます。デジタルネイティブな生徒たちは環境さえ与えられれば使いこなすことができます。それに対して我々教員側がどのように使いこなしていくかによってその導入の意義が変わってきます。特に学校現場は社会的に見てもICT化が遅れており、OECD加盟国の中でも学校でのデジタル機器の利用時間が最下位です。また生徒側の学習用途でのインターネット利用も進んでいません。OECD平均ではインターネット利用時間が長いほどPISAの三分野(数学・科学・読解)の平均得点が高くなる傾向がある一方で、日本は利用時間が4時間未満の生徒の平均得点の差がほとんどなく、4時間以上利用する生徒の平均得点は低下傾向にあります。つまり他の加盟国では生徒がインターネットを学習に用いており、利用時間と平均得点に相関関係が見られますが、日本ではそれ以外の用途にしか使われておらず学習時間を圧迫していることがわかります。
(参考 : https://www.mext.go.jp/content/000021454.pdf )

最後に家庭の考え方や経済による格差が挙げられます。経済的にデジタル環境が揃えられる家庭とそうでない家庭があることは事実です。特に公立の学校ではその差は大きいのではないでしょうか。このまま国や自治体からの支援なしにオンライン化が進むと、教育の平等は保証されなくなるのではないかと思います。また上記の結果から日本ではインターネットを介して学習するという習慣がついておらず、保護者もインターネット=遊びというゲームの延長線上でしか認識しておらず、その使用を制限してしまうという家庭もあると思います。ここを解決していくには、学校側もICTを活用しながらオンライン学習を周知していくと同時に、子どもたちに習慣を身につけさせるということが重要になってくると思われます。

モチベーション問題

仮にオンラインでの教育が始まったとしても、次に生徒のモチベーションをどうやって維持するかという問題にぶつかります。実際多くの家庭や学校でもこれに悩まされており、学習状況がデータとして残ってくれるのでやっている子とやらない子の差が顕著に現れています。また、学校という拘束時間がなくなることで自分の趣味や好きなことに時間を割けるようになり、学習以外のことにインプットやアウトプットに回せるようになったことで休校期間を有効に使える子と、無為に時間を過ごしている子の二極化も進んでいくと考えられます。つまり自分から好きなことを学べる子と言われないと学べない子の格差が将来的にかなりの差につながっていくことになるということになります。

ここから見える解決すべき問題点

以上のことからオンライン教育の課題として以下のようなことが挙げられます。

1. 環境的に教育機会の格差をなくせるか
2. モチベーションをどのように保って学習させられるか
3. 次の時代の価値観をどのように教えていけるか

環境格差については早急に解決されるべきだと思います。中学や高校を卒業するまでインターネットにほとんど触れられずに育った子どもと、生まれた時から触れている子どもとでは情報のアクセス量に膨大な差が生まれてしまいます。現状それが学習に向けられていないので、インターネットの利用時間が長いほど学力が低下するという結果が出ていますが、もしこれが学習に向けられ始めたら家庭学習だけで埋められないほどの差が生まれてしまいます。どのようなガイドラインを設けて子どもたちに使わせるかは保護者や学校側が考えて教育していく問題であり、漠然と危ないから、よくわからないから、遊んでしまうからと制限してしまうのは子どもたちにとっても社会的にも損失となってしまうと思います。コロナ禍を機に社会全体の意識も変わったと思いますので、国や学校、自治体が協力して環境を整えていくべきだと考えます。

モチベーションについては、現状のような画一的な教育に柔軟性を持たせることが重要なのではないかと考えます。この休校期間に自分でマネジメントできる生徒がいる一方で、ほとんど何もせずに3ヶ月を過ごした生徒もいます。このように自分でできる子とできない子に対して個に応じた教育をしていく必要があります。人によって接し方を変えるように人によって教育を変えるべきです。動画授業やWebテストなどを使ったオンライン教育は知識の詰め込みに向いています。教員が今まで授業として行ってきたことです。しかし必ずしも学校に全員出てきて行う必要はなく、自分で学習できる子に関しては家で学習し、リモートで質問対応するなどができます。家でできない子は学校で対応してあげるというようにすれば、人数を絞ることができるのでより丁寧に対応することができます。一方でオンラインは体験的な学習やコミュニケーションには向いていないため、そちらは全員に対して学校という「場」としての価値を提供することが必要となってきます。

新しい価値観の教育に関しては教員自体が、その価値観を理解していかなければ始まりません。しかし多忙を極める教育現場で新しい研修や行事などを増やしても当たり障りのないものになることは明白です。議論の中にもありましたが、教育現場ではやることが足されることはあっても引かれることがあまりなく、色々なことを少しずつ詰め込んだ「教育の幕の内弁当化」が起きています(松田悠介, Crimson Global Academy 日本代表)。慣例的な繰り返しではなく、新しいことに取り組みつつ、必要なことを取捨選択していく必要という意見には同意せざるを得ません。

つい先日文部科学省から「学校教育における外部人材の活用促進事業」の公募が始まりました。このように学校外の社会との接続を生徒に持たせる、あるいは学校が持つというのは実社会や未来の社会を考えていく上で非常に有効だと思います。教育は教員や学校だけでなく社会全体で行なっていくべきではないでしょうか。
(参考 : https://reseed.resemom.jp/article/2020/05/29/302.html )

これからの学校の役割

授業がオンライン化していくことで教員の仕事は必ずしもTeaching(教えること)ではなくCoaching(指導すること)へと変わっていくと両番組内で言及されています。教科書や単元の解説は、喋りや説明が上手くて面白い動画に任せてしまい、教員はその内容についてこれない生徒のサポートをしたり、更に進みたい生徒へのアドバイスをしたりという風に変わっていくと言われています。予備校と個別塾のハイブリッド言った感じでしょうか。アメリカではすでに反転学習が広がってきており、事前に生徒が視聴してきた学習動画に対してのディスカッションやプレゼンテーションを教室で行うというスタイルで授業が行われています。つまり先にも書いたオンライン授業と学校の授業の特性ごとに棲み分けを行い、インプットとアウトプットを行なっていくことでより深い学びに繋げていくことができます。

また、大学受験を目指して全ての生徒が同じ水準での学力を求められるという偏差値重視の教育から、特技や興味を伸ばして社会の中で何ができるのかを突き詰めていく個性重視の教育へと変わっていくと考えられます。画一的な労働生産は機械やAIが低コストでできるようになるため、それに代替されない働き方に価値が生まれると至る所で耳にされていると思います。このような社会に適応していくためには、以前紹介した落合陽一さんの『日本再興戦略』(2018, 幻冬舎)で述べられていた、これからの社会で必要とされる2つの能力、ポートフォリオマネジメントと金融的投資能力を身につけていく必要があります。また、逆に言えば我々教員はそれらを教えていけるようにしていかなければなりません。

以上のようにコロナ禍によって図らずしも教育の(これまで見て見ぬ振りをしてきた)課題に社会全体が気づかされることとなりました。学習指導要領に基づけば、教育の目的は「人格の完成」と「生きる力を育むこと」です。オンラインで様々な学びができるようになってきているとはいえ、その使い方や社会性を学ぶために学校という場は必要だと思います。これをきっかけにして、今一度学校が果たすべき役割は何なのか、教育はこれでいいのかということについて議論が起きればと思いますし、考えていきたいと思います。
(新教育指導要領参考 : https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg18688.html )

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