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インターホン

インターホンが壁から乖離した。実家に帰省したもののガス点検のためにトンボ返りで家で待機していた。チャイムが鳴ったその時だ。本体ごと外れたのだ。本体は外れるくせに受話器は一向に外れない。オートロックを解錠できず焦ったが、程なくして受話器は外れ東京ガスの社員を家に入れることが出来た。

かろうじてコードでぶら下がるインターホンをみて感電を想像し少しナーバスになった。その想像もまたチープで体に電気が走るとホネホネロックのように骨が浮かび上がりビリビリしているという類いのものだ。ガチャガチャし続けていたら落ち着くところに落ち着きほっとした。

4月に入り社内でチーム異動がありフロアが変わった。フロアが変わると今まであまり接点がなかったメンバーと給湯室やトイレで顔を合わすことが増え、いよいよ新年度感を感じるようになった。

トイレで歯磨きをしていたら、ほぼ初対面の子が入ってきた。フロアが変わってからというものの、そのフロアのトイレの天井材のはがれが気になっていたので「天井材はがれちゃってますね」と世間話的に話しかけたら「あ、ほんとだ、全然気づいてませんでした」と返ってきた。

おう、と思った。結構はがれてるけどな。思わず口をついて「え、うそ」と言葉が出た。聞けば去年の6月入社というから彼女は10ヶ月間この天井材のはがれには気づかなかった。
年を聞けば今年二十歳という。ついに来たか、と思った。一回り以上離れた世代が現れた。天井材のはがれが気になるのは年の功なのだろうか。

学生の頃、IDEEが運営していた都市再生プロジェクトのIDEE R-projectでシェアマンションのリノベーション事業を手伝っていたことがあった。今は、この名前は残っておらず、定かではないがR-STOREとして独立したようだ。そのシェアマンションは学生向けだったので、始めは学生の意見を聞きたいということで集められたのだが、その流れでリノベーションを手伝うことになった。 なんてことはない、チラシを配ったり、荷物移動などの雑務、壁のペンキ塗りやニス塗り、仕上げが甘い部分を多少補修みたいなことだ。パッキンと壁の隙間をよくわからない建材で埋めたりした。

考えてみたらわたしは昔から内装材を気にしていたのだ。病院の天井材と家の天井材が同じで病院に親近感などを感じていた子供だ。これは年とは関係なく、その人の興味がどこにあるかなのだ。

しかし、多少動揺したのか、その後、給湯室でまだ沸騰していない湯でコーヒーを淹れてしまった。ドリップの途中で気づいたのだけど、もう後戻りは出来ないという変にまっすぐな気持ちが芽生え淹れ続けてしまったのだ。
淹れたコーヒーは、ぬるく、浅く、全く美味しくなく、午後の仕事に支障をきたしたのである。




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