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手紙

「お父さんの会社の人から連絡があって、5月22日にお父さんの還暦パーティーをするから何か言葉下さいって言われたんだけど〜。娘さんでもいいですよって言われたんだけど、どうするう〜?」

私は、文章を書くことは嫌いではないので手紙を書くことにあまり抵抗はないが、身内へ向けてというのは訳が違う。
しかも、この役を半ば娘の私に押しつけようとしている母親に嫁もやれという気持ちで「わかった。書くけどお母さんも書きなよ」と母親にもこのミッションを与え、母、私、妹の3人で一つのカードに父への手紙をしたためることとなった。

まさか父宛の手紙を結婚式ではなく、還暦の祝いの席で送ることになるとは想定外であった。
この年になって子供二人を育てることがどんなに大変か…といった内容の父への感謝の言葉を綴りながら、私は結婚もしてなければ子供もいないので、正直…知らんけど、と心の中で最後に付け加えた。

父はゴリゴリ理系の奇天烈男と思われるが、ええ格好しい、なとこもあるので、会社ではどんな人柄で部下の皆さまと接しているのか謎である。
無駄に役職にもついているので、皆さんがお気遣いして下さって、パーティーなんぞを開いてくれるのだろう。
なんだか、すいません、しかも、カードの紙がマーメイド紙のようなぼこぼこした紙なのでその凹凸にボールペンのペン先が負けて、文字がかすれてしまいました。読みづらい手紙です。恥ずかしいので多少ふざけもしました。でも、多少泣かせそうな、そうでもないような。

茶化す場とそうでない場という見極めは、案外神経を研ぎすまさないといけないもので、その辺の嗅覚をはずすと時にとんでもないことになる。

以前、TBSラジオのジェーン•スーの『相談は踊る』を聴いていたら、久米宏が代行MC役を務めていた回があった。この番組は、ゲストと言われる立場の人が番組の進行役をやらなければならない仕組みだ。
当時、全く売れておらず大病もしていた久米宏を奥さんは「私の周りの男の人の中で一番貧乏だったから」という理由で選んだらしい。だから先があると思ったとのことだ。腹がすわっている。
プロポーズはバスの中で久米さんからだったようだが、その経緯を結婚式の披露宴で話した時にTBS関係者から野次が飛んだ。
「風呂場でヤッたのか、お前は!」
バス違いの下世話なジョーク。思考回路はすかさずアンダー方面。業界の空気が漂う。かたや奥さんは経済本など出すお堅い出版系とのことで静まり返ったそうだ。奥さんのご両親が怒っていて、後日、向こうのお宅に謝りに行くはめに。

全くやれやれと思いつつも、空気を壊す人も世の中には必要だと思う。野次があるから眠くぬるい場が活発化することだってある。一石投じることはこわいが変化をおそれては事態が硬直し続けてしまうことも。

わたしは、本厄の一年をうまく駆け抜ける自信が備わぬまま、周りの空気にのまれつつある。ザ、中立女。目指せ、スイス、永世中立国的な。








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