よその人も「ぜんぜのこ」作りませんか? 岐阜県飛驒市の試み

皆さんは「ぜんぜのこ」をご存じですか。岐阜県の最北端、飛驒市で宴会や祝いの場で歌われる民謡です。席に居合わせた参加者が、7・7・7・5の字数となった歌詞を歌います。どんな風に歌われているのでしょうか。ちょうど私が参加した会合のようすを飛驒市役所が撮影し、公開しています。

https://www.youtube.com/watch?v=VVp0EPGjH3c&t=1s

映像ではややわかりにくいですが、歌詞にはこんなものがあります。表記は飛驒市が提供した通りに記載しました。

音に名高い 古川祭り 起し太鼓の 勇み打ち

鮎は瀬につく 鳥や木に上る 人は情けの 下に住む

この「ぜんぜのこ」の歌詞はどんどん増殖しているといいます。うたげが盛り上がると、即興で新しい歌詞が誕生するのことです。100番を超える歌詞があるともいわれ、歌は地域住民の連帯感を強めているようです。「ぜんぜのこ」の新しい歌詞を飛驒市は市外の住民から募集しています。飛驒市役所はホームページ上などから11月6日まで受け付けています。11月13日に東京都内で開く、「飛驒市ファンクラブの集いin東京」で入賞作品を発表します。飛驒市は集いの参加者(定員50人)も11月7日まで募っています。

地域コミュニティーだけで歌い継がれてきた「ぜんぜのこ」の歌詞を市外の人に作ってもらう試みには、交流人口を拡大したいという思いが込められています。飛驒市の人口は約2万4000人余り。富山県に接する山間部で大都市から遠く今後も人口減少が進むと見られます。他地域からの移住者も呼び込みたいところですが、実際には移り住んだ場合の住まいや勤務先の確保が課題となるうえ、もともと住んでいる住民と移り住んだ人とのあつれきも懸念されるところです。

飛驒市の都竹淳也市長は「市民の人交密度を上げるべきだ」と提唱しています。人と人とのかかわり方の密度という意味です。「今までの自治体は移住か観光の振興に走りがち。移住に限れば、すぐに実現できない人だっている。それならまず飛驒市のファンになって交流してもらうところから始めようと思った」とも都竹市長は話しています。

個人の経験となりますが、飛驒市で行われた会合で地元の人が「ぜんぜのこ」が歌っていたとき、歌詞を知らない私はただ眺めているだけでした。そのとき都竹市長は「市外の人から新しい『ぜんぜのこ』の歌詞を募集したらどうだろう」と提案しました。今後私が新しい歌詞を知るようになれば、地元の人と一緒に歌えるようになります。とても小さなことですが、地域に参加できることがまた1つ増えて、飛驒市が身近に感じられるようになります。

飛驒市は「ぜんぜのこ」の歌詞を募集するだけでなく、会員証に特長を持たせた「飛驒市ファンクラブ」の会員を募集しています。さらに、これとは別に、市内の旧宮川村の種蔵(たねくら)集落の景観維持などに力を貸すボランティアを架空の「村民」と位置づけ、全国から〝住民登録〟を募っています。

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO36159440V01C18A0CN0000?type=my#AAAUgzE2MDA

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32289670X20C18A6CN0000/

こうした取り組みは直ちに飛驒市の人口増に結びつかないのかもしれません。しかし細かなことの積み重ねで、市外の人と地元住民との心の垣根が少なくなれば、この街を度々訪れ、何かのときには街の力になりたいという人々が増える可能性があります。宅地を整備し、無料または格安で移住者に分譲する自治体なども見られる中で、飛驒市は違った手法で新しい可能性を探っているといえます。