方言の可能性を考える~実践方言研究会を聴講して

 10月13日、岐阜市の岐阜大学で「第3回実践方言研究会」が開かれました。方言によるコミュニケーションの効果や地域活性化への取り組みを研究者が発表するというものでした。日ごろ言葉を使って仕事をしている者として興味があり、足を運びました。2人の研究者が発表し、大阪教育大学の櫛引祐希子准教授の言葉がまず耳に残りました。

櫛引准教授は、宮城県名取市の東日本大震災の被災地で、方言を使った文集や劇などで仮設住宅の慰問活動を展開してきた「方言を語り残そう会」の取り組みを紹介しました。会の活動のうち、2017年に震災句集の朗読に参加した65歳以上の会員11人のうち10人が「普段の生活では共通語を使い、場面や相手に応じて方言を使う」と話しているとのことでした。櫛引准教授はその事実に驚いていたようすで、私も東北といえば方言の話者が多い地域と思っていただけに意外でした。

それでも、なぜ方言を使うのか。発表では会の金岡律子代表の発言動画が流されました。金岡さんは「方言は、震災ですべてを失った住民が故郷を思い出すきっかけになった。方言が傷ついた心を支えた」と話していました。被災地のコミュニティー再建に加え、日本が人口減少社会となるなかで、方言には地域の結びつきを強くする可能性があるのだと感じました。

地域の結びつきを強めるという点で、興味深く感じたのは金沢大学の加藤和夫教授の発表でした。加藤教授は石川県や福井県で、地元の放送、活字メディア、自治体の広報誌などから方言の魅力を発信する試みを長年続けています。加藤教授は「金沢はもともと方言を表に出さない土地柄だったが、15年の北陸新幹線の金沢駅延伸をきっかけに方言を見直す機運が高まった」と話していました。人の流れが変わり交流が拡大する中で、地元の人が結びつきを強める手段として方言に注目するようになったようでした。

一方、金沢のイメージを守りたいという地元関係者から「きれいな地元の言葉だけを発信してほしい」という依頼が加藤教授に寄せられるそうです。「そういう依頼をするのならもう協力しません、と返してきましたよ」と加藤教授は笑っていました。お菓子に例えると、桐(きり)箱入りのお土産のような言葉だけが方言ではありません。けんかの時に使う相手をののしる言葉にも、全国に多くの方言があります。そうした言葉を含めて方言の価値を認めていく必要がある、と思いました。