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サバの帰還

近所にスーパーはコープさんとライフさんと、2軒あった。
 比較的、ライフさんに行く事が多かったと思う。
両親は共に美容師で、ぼくがものごごろついた頃には、2人とも同じお店で、ようは父親のお店で働いていた。

僕はといえば、小学3年までは学童に通っていたが、その両親が働く美容室、家、学童があったサービスセンターとよばれていた市役所の支所のような所は、3箇所共、凄く近かったので、学童がおわるころ、迎えに来てくれた母親と晩ご飯のおかずを買いにライフさんにといってた。

お菓子をねだるような事は、あんましなかったと思うけど、後年聞かされた話で、あの時は周りの人がみてくるし、バツが悪かったわーと、母親が話てくれたことがある。

スーパーの陳列棚に並べられた、魚。である。サバの切り身。
頭やしっぽが切り落とされたサバたちが並んでいるのだ。
それをみた僕は、
可哀想や可哀想や、なんでこんな事するの?と、けっこうひつこく母親に泣きついたらしい。
 いや、どないせーっちゅうねん。笑。


そんな僕がある時、釣りにハマる。
ハマるといっても、だれかに連れて行ってもらわなければ、ならなかったので、そんなに頻繁にはいってない。もちろん、めんどくさがりなぼくが楽しんだのは、サビキ。
サビキ一択である。虫を針につけたり、竿をうまく投げたりできなかったので、とにかくサビキをした。
 ちなみにサビキとは、糸の先に小さなカゴがついていて、その中に、レンガと言われるエサのネリ製品みたいなのをいれて、ボチャンとして、ゆさゆさするだけで、どんどん釣れるという初心者むけの釣りの方法だ。(と解釈しております。)ちなみに、針はいくつかついていて、一回で2.3匹釣る事ができる。
ダイレクトに竿に振動を感じとれるので、キターッ!て感じは凄い。あとは、巻いて引き上げるだけである。

両親の仕事関係の知り合いで小蔵さんという理容師のご夫婦、ちょい親より年配だった気がするから40代だったのかな。子供がいなかったからか、たまに遊んでもらえる時は随分可愛がってもらったな。家に連れて行ってもらった時は、なんと!レンタルビデオで何本でも借りていいというので、キョンシーのビデオをかりてみまくったな。
 そんな小蔵さん、小蔵のおじちゃんと、小蔵のおばちゃんが、釣りによく連れていってくれたのだ。尼崎の海釣り公園。いまでもあるのかな。
 そこでぼくは、サビキヤロウを決め込んだ。
 釣って釣って、釣りまくった。釣り吉三平気分で、釣りまくった。
 しかし釣り上げたはいいが、魚を針から外す事ができず、外してもらっていた。釣り上げる度に外してもらっていたので、小蔵さんにしたら、たまったもんじゃない。いい加減に自分でやれ!と言われて当然である。
 が、小蔵のおばちゃんは毎回、ちょっとまってなーと、笑顔で一緒に喜んでくれてた。今考えるとほんとに優しかったな。
そんな調子だったから、ほどなくして、クーラーは満タン近くなり、その後はもう入らないから海に返そうみたいな事いわれたけど、せっかく釣ったのにー!みたいな雰囲気をぼくは全身から醸し出してたと思う。
 全くもってわがままなやつである。且つ、あのスーパーで悲しんだ心はいずこ。
 さすがにもう入りもしないので、しぶしぶ釣っては放流。という流れの中で、その時はやってきた。今日のその時がやってきたのだ。


今日1番の大物ではないかと思われる、ジャンボサバが釣れたのだ。
 釣り上げに成功し、興奮気味のぼくは、はやくとってー!と小蔵さんに叫んだ。(いや、自分でとれよ。)
 小蔵のおばちゃんはもう疲れていたのだと思う。当然だ。すぐには外しにはきてくれなかった。或いは、自分の釣りがいい所だったのかもしれない。
 その間に、サバはかなりのサイズだったため、暴れると針から自然と外れてしまった。
 そして、数秒後にはビチビチと暴れながら見事にサバは海へと帰還したのだ。
 あー!!!その時の僕の落胆っぷりは、尋常じゃ無かったと思う。半泣きであった事は言うまでもない。

もちろん小蔵のおばちゃんは何一つ悪くないのに、その時はもちろん、後年、たまーに顔を合わせて話す機会があると、あの時はごめんなーって、あの時の顔が忘れられないって。よく話をしてくれたな。


大きくなって、こちらにしたら、そんな事あったかな?ぐらいの事も、相手にしてみれば深く印象に残る事って、そういやある。

 あの時をずっと後悔している。という程ではないにしろ、気になっている事。
謝りたい事。


小蔵さんたちとは、時とともに疎遠になって、数年前に訃報を耳にした。


時間はとても儚いけれど、とても温かく輝いている。


全ての人にありがとう、しかきっとでないんだろうなと、思う。


2020/3/17 1:45。自宅にて。
(先日、京都へ向かう時に書ききれなくて。)

....
この文章を読み直しながら、当たり前だけど、あの海釣り公園の景色が鮮明に蘇って、涙がでました。小蔵のおばちゃんは足が悪くて、歩き方が独特で。
釣り上げるたびにいちいち、よいしょよいしょって、外しにきてくれて。
いわば、僕は他人なのに、ほんとに優しかったし、ほんと笑顔で接してくれてた。

蛇足だとは承知だけれど、あの時はほんとにありがとうと伝えたい。どうにかして伝えたい。

願わくは、どうか皆、元気でいてほしい。

2022.1.16 13:41 自宅にて。

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