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夜逃げホテル【ショートショート】#37

「もう夜逃げするしかないな…」
男はそう心に決めると、早速準備に取りかかろうと
目の前についた物を掴もうとしたが
すぐに動きを止めた。

「せやけど、夜逃げって…どないな準備したらええんや?」
ポケットに入れていたスマホを探りながら部屋の隅に腰を下ろしす。
「まずいっぺん調べてみるか…夜逃げスペース準備と」
検索結果をスクロールしていると、ある謳い文句に目が止まった。

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「えらいニッチなサービスしてるなぁ…こんなん需要あんのか?」
「・・・あ、俺か」

男は必要事項を入力し「今すぐ夜逃げ」と打ちショートメッセージを送る。
すると「すぐに向かいます。玄関先でお待ちください。」と
息つく暇まもなく返信が返ってきた。

身を潜めるように玄関先で待機していると
1台の電動モビリティが目の前で止まった。
が、誰も乗ってはいなかった。

不思議そうに車体を眺めていると
そのモビリティは「いくで!早よ乗りや」と
突然喋り出し、「えっ?」と男が驚いた瞬間には、
すで車体に乗せられていた。

「しばらくかかるから寝といたらええで」
電動モビリティは、そう言うと静かに走り出した。

「着いたで!早よ起きや」
目的地に到着すると電動モビリティは男に声をかけた。

「うーん、ここは?」
目を開けると目の前に白いスーツ姿の男が経っていた。

「お待ちしてましたで〜。さぁ行きまひょ。」
そういうと、ぐいっと手を引かれ
ホテルのような建物の中へと連れて行かれた。

「…パンチパーマやん」
目の前を歩く男の髪型がパンチパーマだということに気づき
気になりはじめたところで男は立ち止まり
「ほな、この部屋の中で待っといてや。すぐ戻りまっさかい」
とだけ言い去っていった。

「え、夜逃げは…どないなってんねん」と声をかけようとしたが
もうパンチパーマの男の姿は見えなかった。

途方に暮れていると部屋の奥が何やら
複数人が会話するような音が聞こえてきたので
男は恐る恐る扉を開けた。

そこには男と同じように最小限の荷物と
着の身着のままで連れてこられたような人たちで溢れていた。

しばらくすると先ほど出迎えてくれた
パンチパーマの男が姿を現し喋りはじめた。
「皆さま、この度は夜逃げホテルに
 お集まりいただき誠にありがとうございます。
 まぁ、皆さんお急ぎでしょうから挨拶はこれくらいにして…」
と言いパンチパーマの男はガスマスクを装着した。

「皆さんにこれからお連れするのは…宇宙です!」

すると部屋の四隅からガスが噴き出し
部屋に集められた人たちは順々に床へ倒れていった。

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