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エモーションロッカー【ショートショート】#40

「感情のお預かりが完了いたしました。この感情は3日間を過ぎますと・・・」

AIコンシェルジュが説明を終える前に、ビジネススーツを着た男はボックスから出ていった。ボックスの外からは、まだAIが説明を続けている声が微かに聞こえている。

その男は大きなキャリーバッグを引きながら「エモーションロッカー」と書かれた看板の入口から出てきて、バスロータリー方面へと歩いていった。その男の表情は、まるで長時間我慢していた用を足した後のようなスッキリした表情をしていた。


・・・


「班長、これが鉄道職員から通報のあったロッカーです」

「そうか、この中の感情が放置されてどれくらいだ?」

「3日が経過しています。職員によるとこのエリアのロッカーの保管期限は3日で、
それが過ぎたため警備員が感情の回収のためロッカーを開けようとしたら、
中から焦げ臭い異臭がするということで通報がありました。」

「そうか、すると中に置き去りにされている感情はたぶん“怒り”やろうな」

「おそらく。…では処理を始めます」

「うん、刺激には要注意やで」

対爆スーツを着た隊員は該当のロッカーへ近づき
エモーショングラフィーと呼ばれる感情測定装置をかざした。

「ピピピ・・・」

隊員たちの予想通り装置の画面には「怒り レベル8」と表示された。

「班長!怒りのパラメーターは8です」

「そうか、“激怒”に変化する手前やったか。このロッカーは従来のコインロッカーを改造したタイプやから、このまま放置されていたら大変なとこやったで。引き続き、処理を続行してくれ」

2時間後、半径10メートルに敷かれていた規制線テープが解かれた。

「レベル8の怒りの感情を耐久性の低い旧式のエモーションロッカーに置いていくなんて…あまりにも危険すぎる。これは置き忘れか、それとも故意によるものなんだろうか。許せないな」

「まあまあ、たった今、他人の怒りを取り出したばかりなのに、そうイライラしなさんなって。そうやって無意識のうちに感情が伝染してしまうのが良いところでもあり、危険なところでもある。それに、あくまで感情のレベルは僕たちのような専門分野の人間にしかわからない。預ける当人たちには簡単な感情の種類しかわからないっていつも言っているだろう」

「確かに、そうですけど…」

「わかったわかった、これから本部に戻って詳細の分析を進めよう、な?」

防護スーツを着た隊員たちは黒いハイエースに乗り込んでサイレンを鳴らしながら、駅を出発していった。

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