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マグロ自転車【ショートショート】#38

出勤のため最寄り駅へ向かうのためバス停へ歩いていると
1台の真っ赤な自転車が猛スピードで僕の真横スレスレを通り過ぎて行った。

「危ないなぁ…」と思いながら自転車を目で追いかけていると
その自転車は赤に変わったばかりの信号にも臆することなく走り過ぎる。
さらに停車していたバスに乗りこもうとする
乗客とバスの隙間をも駆けて行った。

ちょうど乗りこもうとしていたご婦人は「ぎゃあ〜」と
仰向けにのけぞり後ろで並んでいた乗客たちに支えられていた。
「一体何なんだあれは…」と呆気に取られていたら
危うくバスに乗り遅れそうになった。

最寄り駅へ近づいてきたころ、救急車のサイレンが耳に入ってきた。
目を向けた前方の交差点には人だかりが出来ている。
信号が青に変わり交差点を通りすぎところで降車した。

いつものように横断歩道を渡って地下にある駅まで降りていくのだが
今日は野次馬の人だかりをかき分けて行かなければならない。
ただでさえラッシュ時は混んでいると言うのに・・・。

人だかりをかき分けながら横断歩道を渡っていると
意図しない情報収集により自転車と車による
交通事故が起きたのだとわかった。

渡りきったところで振り返ると人だかりから
救急隊員2人がストレッチャーに傷病者を乗せ出てきたところだった。
その傷病者はつい先ほど猛スピードで駆けて行ったあの男だった。
男は首を両手で押さえながら「息が…息が…」とか細い声で叫び
救急車に乗せられる頃には目を開けたまま動かなくなっていた。

「朝から嫌な光景を目撃してしまったな…」
その日は男の様が脳裏に焼きついて仕事に集中できなかった。
・・・いや、それはいつものことか。

何とか誤魔化しながら仕事を終え帰路につく。
今朝騒がしかった交差点も落ち着いた様子だった。
自宅に戻りスーツを脱ぎながらテレビをつけた。

「本日、全国各地で暴走自転車による事故が多発しました」と
アナウンサーが言い終えると同時にテレビに目を向けた。

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