Aの秘密

 私の友達であった彼女。彼女のことを『A』とする。Aは、私が小学生の頃から高校を卒業するまでいつも一緒にいた。私とAが高校卒業するまでの話をする。
 まず、私とAとの出会いは小学校の入学式。クラスが同じで席が隣であることがきっかけ。Aは隣に座っていた私に話しかけてくる。その次の日も、また次の日も。明るく楽しそうに何度も話しかけてくる。Aの第一印象は明るい子であった。私から話しかけると、Aが喜んでくれたのを今でも覚えている。
 私がAと友達になって、四年後。私は、Aのことについて悩んでいた。それは、Aが『何かに影響されやすい子』であるということ。例えば、子供が好きなヒーロー番組やアニメをAは少しでも見ただけで影響される。その翌日には、Aがヒーローのマネをして悪のいじめっ子を倒していた。学校の休みの日は、Aの母の手作りであるヒーローの格好をして地元を守る為に歩いていたことを思い出す。かなり目立っているので、地元では有名であった。

 中学生の頃、Aは大人しかった。私は不思議に思って、買い物帰りのAの母に聞いてみた。
「今は、恋愛のドラマに興味があるのよ」
「恋愛? ヒーローの方は?」
「引退して、他の子に譲ってたわよ」
 Aの母は、嬉しそうに話していた。とりあえず、私はAが影響された恋愛ドラマを見ることにした。そのドラマは、引っ込み思案で大人しく地味な女の子が学校一のイケメンの男の子の本性を知り、お互いに関わっていく内に両思いになって恋人になる話であった。人気のある女優や俳優が出演したことがきっかけでファンが増え続けている。続編が作られるみたいだが、Aが別の物に興味を移すことはないだろうと思った。
 五ヶ月後、Aが興味を持った恋愛ドラマが放送中止になった。原因は、現場での事故である。深くは知らないが、続編の話が無かったことにされた。そのことを知ったAは、すぐに別なことに興味を持った。今度は、ゲームを始めて三日後に引きこもりへとなって学校に行かなくなった。また、帰り道で買い物帰りのAの母にあった。
「Aのお母さん。どうして、Aがゲームに興味を持ったの?」
「それがね……。Aが本屋に行った時に、興味があったらしくてゲーム雑誌を買っちゃったのよ。それで、貯めていたお金でゲーム機とソフトを買っていたわ」
 Aの母は、楽しそうに話していた。ころころと別の物に影響されやすいAと、ニコニコとするAの母に少し違和感があった。
 中学卒業間近に、Aは引きこもりを卒業していた。私の考えでは、Aは何かに影響されたに違いないと思った。またまた、学校の帰り道で買い物帰りのAの母にあった。
「今度は、学園ドラマに興味を持ったの?」
「たまたま、テレビを付けた時にAが夢中になって……」
 悲しそうに話していたAの母に、私は意味が分からなかった。今日は親に「早く帰ってくるように」と言われていたので私は家に帰った。

高校生になった時、Aが若手小説家になっていた。理由は、本屋で見た一冊の本がきっかけらしい。学校では、注目を浴びているAに私は昼休みの時間に何に影響されたかを聞いてみることにした。
「何の本に影響を受けたの?」
「それは秘密」
 悪戯っ子のような笑みのAに、私はつられて笑みがあふれた。いつもと変わった日常を過ごすAに、私は憧れを持っていた。けれど、一緒にいて気付いたことがあった。それは、買い物帰りのAの母に会った時であった。
「何回か、会いますね……」
「……そうね、本当に偶然ね」
 微笑んで見えるはずのAの母に、私は少し怒っているように感じたのは気のせいだろうか。
「Aは、何に影響を受けたのですか?」
「……今度は、若手小説家の話」
「若手小説家の話ですか?」
「うん、そう……」
 いつもと違って、落ち着きが無いように思えた。どうかしたのかと私が喋ろうとしたら、Aの母は「急いでいるから、また今度ね……!」と走って行った。
 高校卒業した時、Aは地元から離れた所に住むことになった。私は地元に残って、大学に入学することが出来た。大学での生活に慣れてきた時、自宅のポストにAからの手紙が届いた。


 それが、六年前の出来事。今日は、地元にあるお寺に私がいた。目の前には、『A』とその両親の名前がある墓。今日はAの命日であり、私とAがお互いに初めて出会った日でもあった。Aから送られた手紙には、次のようなことが書いてあった。自分の母に見て欲しくて興味を持ったことを行動に移した。そうすることで見てくれたこと、気にかけたりしてくれたが。Aの行動は母が愛した亡くなった父と同じだった。Aの父は、小学生時代はヒーローで人助けをしていた。中学時代は恋愛ドラマを見て憧れがあって幼馴染みと恋人になった。高校時代は若手小説家として有名だった。高校を卒業してすぐに結婚してから一ヶ月にAが生まれた。その後に、Aの父は自殺した。そのことを知ったAは、父のように自殺し、母は後を追うように死んだ。私は信じられなかったが、何より私がAのことに気付けなかったことを悔やんだ。何度もやり直したいと願った私に、時間だけが過ぎてしまう。だから、私はずっと後悔して生きることに決めた。

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