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第12回 資本論 "Quantum"はどう訳せばよい?

資本論-ヘーゲル-MMTを三位一体で語る」の第12回。

 前回は次の資本論の一文、「ある使用価値ないし財は、ただ一つの価値だけを持つ。なぜなら抽象的な人間の労働がその中に対象化、物質化されるからだ。」を取り上げましたが、まさにその直後の文について。

 こちら。

Wie nun die Größe seines Werts messen? Durch das Quantum der in ihm enthaltenen "wertbildenden Substanz", der Arbeit. Die Quantität der Arbeit selbst mißt sich an ihrer Zeitdauer, und die Arbeitszeit besitzt wieder ihren Maßstab an bestimmten Zeitteilen, wie Stunde, Tag usw.

 次のように訳してみます。

では、その価値の大いさ(Größe)はどのように測られるのだろうか。それは、それらの中に含まれる「価値形成物質」である労働の数量値(Quantum)を通じてである。労働の量(Quantität)は、その経過時間で比較されるが、労働時間もまた、一時間、一日など、ある特定の幅の度量標準を持っている。

 Größe、Quantum、Quantität という似た意味の単語たちをどう訳せばいいのだろうという問題です。

 中でも Quantum がちょっと異様(はっきりラテン語なので)で、カントやヘーゲルなどの量論を想起しないわけにはいきません。

 カントは Größe を Quantum と Quantitas というものに分けて、狭義の Quantitas をくくりだしました。前者は直観するもので、後者は、それが数によって時間化されるものですから、ここの文脈では価値は Quantitas の方がしっくりくる気がする。

 資本論の Quantum の意味は、ヘーゲルの、しばしば「定量」と訳されるときのそれに近そうです。

資本論における Quautum の初出を訳しなおす

 ところで「ちゃんと読む」はうっかり流してしまいましたが、資本論における Quantum の初出は以下の個所でした。

Nehmen wir ferner zwei Waren, z.B. Weizen und Eisen. Welches immer ihr Austauschverhältnis, es ist stets darstellbar in einer Gleichung, worin ein gegebenes Quantum Weizen irgendeinem Quantum Eisen gleichgesetzt wird, z.B. 1 Quarter Weizen = a Ztr. Eisen. Was besagt diese Gleichung?

 やり直してみます。

 次は二つの商品を考えよう。例えば小麦と鉄だ。両者の交換の関係がどのようになっているとしても、それは常に一つの等式で表すことができる。つまり、所与の小麦の数量値(Quantum)に対して、どれだけの数量値(Quantum)の鉄が等置されるかの式で表すことができる。たとえば「1クォーターの小麦=aツェントナーの鉄」である。この等式は何を語っているのだろうか?

 おお、よくなった気がします\(^o^)/

 小麦商品と鉄商品の交換関係は、小麦の数量値(Quantum) が「1」と与えられるとして、そうすると、ある一つの数量値(Quantum)「a」の鉄と等しいという形になっていますよね、という話です。

 ヘーゲルの論理を援用すると、小麦商品や鉄商品の「質」はそれら商品と呼ばれる存在の第一の直接的な規定態であるのに対し、「量」は存在に無関心になった規定態。

 だから「1」や「a」という記号を「数量値(Quantum)」と表現するとこのあたりのニュアンスが出せる気がして、それを狙っています。

 よくある誤解で「マルクスは労働に価値があるという信念から論理を組み立てている」みたいなのがあるように思いますが、ちゃんと読めば、論理の組み立てはまったくそうではないんです。

 商品の交換価値にとって、使用価値はまったく「無関心」です。しかし労働の生産物であるという属性だけはしっかり残っている。

 で、そこに対象化された抽象的な人間の労働が、数を通じて時間化され、ただ一つの値に収束している。これが「価値」。

 話を戻して Quantum の訳語ですが、わたくしとしては「数量値」とし、それが Quantum という語の訳であることを明示するために今後は「数量値(Quantum)」と表記していこうと思います!

 ピンと来ない?

 それでいいのです。

 ヘーゲルだって、ドイツ語にふさわしい言葉がないから Quantum のようなラテン語を使うしかないんだ、みたいに書いていたのですよ。だんだん腑に落ちていくことを期待して。

 こんな表も作ってみたので(未完成)、またそのうちに。

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