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MMT思考でフィッシャー方程式を改良するよ!

 前回のエントリ「金利とインフレーション」に対してかつさんから、うれしいご感想と質問をいただきました。

 かつさんは、会計学?アカウンティング?周りの主として実務系の勉強をかなりされている方とお見受けしているのですが、そんな方に読んでいただき対話を進めることができるのは実にうれしいことです。

 そのご質問へのリプライはぜひ公開でやりたいと提案したところ快諾いただいたので書いているのが今回のエントリということになります。

ありがとうございます! とても面白かったです。またじっくり考えたいのですが、差し当たり、結局のところ「実質金利」をどう考えると言う問題に行き着く気がしました。ここまで議論してきたように、物価の上昇に伴う貨幣価値の下落を相殺するための金利(インフレプレミアム)は、誰もが正当だと考えると思います。 しかし、「名目金利=実質金利+インフレプレミアム」における、「実質金利」部分はどうでしょう?実質金利を正当なものと考える、つまり、「金を貸すことによる機会費用」に対する補填を正当なものと考えるなら、その分だけ、名目金利とインフレ率には乖離が存在して良いのかと。存在して良いと言うか、社会がそのように考えているなら、「金を貸すことによる機会費用」の大きさが実質金利として反映される。また、政府はその大きさを調整できるみたいな話になるのかなと。この実質金利部分も0と考えるのがMMTなのでしょうか?

MMTとは何なのか?

 まず、MMTとは何かということをはっきりさせておきましょう。

 ちょうど石塚さんが先日こう書かれていました。

 そう、MMTという客観的真理というものは世界のどこにもないんですよね。

 あらゆる理論は社会的な構築物なのですから。

 ですのでわたくしとしては、MMTの創始者であるモズラーの書いていることに忠実であることをもって「MMTの考え方を採る」というように言おうとしています。

首尾一貫した論理を読み取るということ

 しかし問題は、モズラー自身も過去の発言や文章においてある同じ言葉、たとえば inflation を別の意味で使っているようにしか見えないこともあったりするのです。

 マルクスにもそれがあります。

 有名なのは「転形問題」と言われるものですが、なんでも、資本論の第一部のある記述と、第三部の記述が矛盾してしまうということなのです。

 わたくしから見ると、矛盾でも何でもないのですが、あれを問題だと思う人たちにはわたくしの方がトンデモに見えるということなのでしょう。

 いつも意識しているのは石倉雅男のこの言葉のようなことです。

「オリジナルの議論」を,どこまで「一貫したもの」と把握できるのかを考え抜くという作業は,やはり欠かせないのではないか

https://www.hit-u.ac.jp/hq-mag/archive/pdf/hq30.pdf
より

 要するに、モズラーやマルクスの言葉についてこれをやろうとしているのがこの note だったりブログだったりするのですね。

 このような立場で回答申し上げるということを最初にお断りしておきます。

「実質金利部分も0と考えるのがMMTなのでしょうか?」

 この問いは分解してお答えする必要があると思います。

 政府と中央銀行は金利をゼロに強く誘導せよ、とMMTは主張します。しかし、金利を支払ってでもお金を借りたい人が存在し、そういう人に対して誰かがお金を貸すことを否定するわけにはいかないでしょう。

 一方で、昨今の教育ローンや英米の不動産ローンのように弱い人々が負債を負わざるを得ないコンテキスト上の話であれば、それは正義でなければ公益に反することにすらなり得るでしょう。

 逆に一般論としての解答であれば、いかなる商品も二者に合意があるならばそれをダメだという理由がありません。その商品がローンでもパンでも戦車でも原則は同じことです。

「実質金利=名目金利-期待インフレ率」という式

 これはフィッシャー方程式というやつですね。wikipedia

 これって、カネを貸したい側のエンティティが貸出先エンティティに金利を要求するときの理屈じゃないの?っていつも思うんですよね。

 ローンであれパンであれ戦車であれ、買い手にとって商品というものは品質に対して安ければ安いほど良いわけで、原価が高かったとか、製造費用がこれだけかかったとか、そういう理屈は一切どうでもいいんです。

 いったいどうして金利の話の時だけ売り手の一方的な理屈が中立な理論の顔をして登場するのかがわたくしにはさっぱりわからないのです。

 さらに。

実質金利って何ですか?

 インフレということばをさんざん考えた結果、それは価格の全般的な膨張だったわけです。それって、よくよく分析すると、インフレというのは金利という社会的な合意の現れだというのが前回の結論でした。

 みんなが金利で合意する水準というのが存在するというのなら、期待インフレ率はそれと一致するはずです。

 つまり、名目金利=(期待)インフレ率 なのです。

 よって論理的に初めからおかしいフィッシャー方程式に代わるものとして、わたくしは以下の連立方程式を提案するしかない。

フィッシャー方程式を改善した「ニュン連立方程式」

こうです!

 ・名目金利-期待インフレ率=0
 ・実質金利=0

ちゃんちゃん。

 貸し手がフィッシャー方程式を根拠に、彼らが計算した名目金利のローンを売ろうとするならば、借り手サイドはこちらを使えばいいのです。

…まあこれは冗談半分というか思考実験だったわけですが、前回のエントリのようによくよく考えると金利もインフレも、社会的合意なんですね。

 立場の弱い借り手たちが強者の論理を受け入れざるを得ない。

 この理論って次のようなことだと思います。
 
 歴史のある時点において一方的な支配者側の論理が「中立なフィッシャー方程式」として現れた。
 こういうのって近代の偏向した科学なんだなーとわたくしには素朴に思われるのです。


【暫く経ってちょっと追記】
 あらためて集合的な金利(名目)というものを考えると、それは裁定によって集合的なインフレ率と一致する。 だからその差は常にゼロであるはずであり、実質金利という概念はそもそも成立しないのでは、ということと思われる。

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