『ドライブ•マイ•カー』レビュー

 濱口竜介監督の『ドライブ•マイ•カー』(2021)を見た。原作は村上春樹『女のいない男たち』である。
 私が最近考えていた問題が、他人の心という問題である。その中には統合失調症やサイコパスも含まれる。特殊な事例を考えることで、典型的な我々の意識や心が分かってくると思うからだ。この映画に登場する、ドライバーのワタリ•ミサキの母親は多重人格な傾向が見られる。ワタリは虐待をした母親を憎んでいたが、もう一人の人格、サチを愛していた。母親の大切な部分が彼女に表れていたという。
 主人公のカフクは、妻が裏で不倫をしていたことが怖かった、だからあの日家に帰らなかった、と後悔している。もう一つの人格があるということを普通のことのように受け止められなかった、と。そして、ドーニャ役を演じるはずだったタカツキは、人を殺して平然としていた。
 人間は誰しも裏の顔を持っており、それはごく普通のことで、しかもそれは他者が本当に想像もしなかったことである。それはある決定的なことが起きるまでは誰も知らず、何も起きなければ誰にも知られないまま死んでいくのである。どんな人間もある意味役者である。そんなことを考えさせられた映画だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?