『ベルファスト』レビュー

 今回は、ケナス•ブラナー監督『ベルファスト』(2021)のレビュー。北アイルランドでのカトリックとプロテスタントとの内戦を背景にした映画だ。最初と最後以外は全てモノクロ映像であるが、とにかく描写が美しい。屋根から滴り落ちる雨や校庭のグラウンド、ストリート、バディ少年の眼差しなどが繊細に撮られている。また、この映画で特に印象的だったシーンは、おじいちゃんが病院で少年に語るシーンだ。言葉が通じないかもしれないイングランドへの移住が不安な少年に、「言葉が通じないのは相手が聞こうとしないからだ」と言う。この言葉はこの映画や世界を考える本質なのだと思う。英語が通じないという些細なことが大きな対立に繋がっている、ということはすぐに分かることだ。それなのに、いつまでも自分たちと違う人々を笑っている。ハードな側面から宗教的、社会的問題を考えることはもちろん重要であるが、9歳の少年の目線からこれらを見通すことは、目の前の小さなことを捉えることができる。その点においても素晴らしい映画だった。

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