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AIイラスト×500文字の物語|蓮の華

蓮の花は、地の底から伸び上がり水面に花開きます。それは穢れた不浄から清らかな浄土へと解脱する様に例えられ、神聖なものとされております。

季節が巡り、再び花開く姿はまさに輪廻転生。
蓮は太古からその姿で現存し続けている種であり、生きた化石と呼ばれております。そう、はるか一億四千万年もの昔から、彼らは輪廻を繰り返しているのです。

彼らは輪廻の輪を巡りながら、考えています。
『幾度巡れば天へと至るのだろう』と。

植物ですから、人間のような自己という概念はありません。今も昔も、遠くも近くも。蓮は全てが同じ一つの"個"。
私達の感覚に例えるならば、遠く離れたところに切り離された右手を、風が撫で、陽射しが温もりを注ぐのが感じられるといった物でしょうか。

彼らは、いえ、彼は一億年以上にわたり輪廻転生を繰り返しながら、目指しているのです。
天上を――あの空に浮かぶ、白銀の月を。
やがてその大地に、一面に咲き乱れる己を。

そのために生き残り、そのために人類と共生してきたのです。

ヒトが木から降りた猿であった時より永い時を経て、ついに人類は天へと至るまでになりました。

今宵、蓮の華はその時が近づいているのを感じながら、少女に願いを託します。
空に浮かぶ月を恋い焦がれるこの少女が、蓮の美しさに惚れ、はるか天上へと連れ出すように。美しく咲き誇り、共に旅立たんと月光に揺れて囁いているのです。

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