AIイラスト×500文字の物語|言の葉
「なに?」
月音衣毬 (いまり) は読んでいた本から顔をあげた。
青く透き通った大きな瞳に、窓から降る木洩れ日が輝きを与えている。
――寂しそうで……綺麗だった。
「いや、別に」
あやうく零しかけた言葉を飲み込み、ごまかす。
別に愛の告白でもないのに。なんで想ったことをそのままに言えないのだろう。
「そう。何か用かとおもった」
月の音色のような声。そんな言葉を吐くわけにいかず、意味もなく窓の外を見る。
「別にっていったろ」
「ふーん」
目の端が少し捲れたスカートを追ってしまうのを見透かされたのだろうか。
窓を開け、無意味に身体を乗り出す。
外には満開の桜。
いくつもいくつも流れていく花びらの向こう。校庭では下級生らが部活に励む大声が響いている。
「もうすぐ卒業だね」
すぐ後ろから声がして、思わず体が固まった。
「ちょっと寂しい。もうここで本読めなくなっちゃうのも」
少し、声が震えている、のか。
「誰かさんが会いにきてくれなくなるのも」
「ああ」
こんな時。もっと気の利いた言葉があれば。
「そうだな」
言いたいことも伝えたい気持ちも、上手く唇から出ていけない。
胸の奥で、痛みになって残るだけだ。
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