舌切りスズメ、ばあさんとの熟年離婚【400字小説】
欲深い人間は嫌いだ。ばあさんをもう愛していない。若い頃はあんな人間ではなかった。お淑やかで自己主張も控えめで見守る系統の女性だった。それでいて大事なことはきちんと口にする人で。そんな人柄が好きだった。それがいつからだろう、金に目がくらむような腹黒い性格になってしまった。大きいつづらのことで肝をひやしたから変わるかもと思ったけれど、結局、ケロッと元通りの意地悪いばあさんに戻った。性格の変化は、もしかしたら、わしのせいかもしれない。わしも昔と変わってないと言ったら嘘になる、自覚しているのだ。小さいつづらの宝物たちは絶対ばあさんとの生活で使いたくはない。独り占めにしたい。わしがそこが変わったところ。以前なら喜んで夫婦のために使って平和に暮らしていただろう。「結局は財産を自分だけのものにしたいんじゃな」とばあさんが言ったが、少しも罪悪感を感じなくて、本当に自分は人が変わってしまったのだと落胆した。
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