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【400字小説】米

「ライス大盛りで」とマイルは頼んだっきり、
スマホの画面に夢中で。
カヒミも黙ってつまらなそうにメニューを再読。
まだ22歳だというのに、
熟年夫婦のようにお互いに関心がない。
結婚もしていないフレッシュな関係。

町中華を堪能するなら、
ビールの一杯でも飲めたら良かったけれど、
マイルが運転手で、カヒミは運転免許を持っていなかった。

「やっぱり麻婆豆腐にすれば良かったかな」と
カヒミはつぶやく。
マイルは「ワンタン麺と麻婆豆腐って、
どっちかと言えば真逆じゃない?」と
返事したが目は下に向けたまま。

ほどよきタイミングで食事が提供される。
回鍋肉のライスの大盛りの加減が規格外だったので、
目をそちらに向けた瞬間、マイルは身を反らせて笑った。
「残さないでね」とカヒミは言って、
「流産かもしれない」と唐突に告げた。

「そうか。でもさ、お父さんにちゃんと挨拶したいから」

平然ぶったマイルだが、やっぱりライス大盛りを食べ残した。

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