【書評】「仮想化」実装の基礎知識

法橋和昌、前島鷹賢、中川栄一郎、花崎隆直、佐々木敦守、西口健太郎
リックテレコム
2015/05/26

 課題図書。過去物理本で購入して自身が学習した本であり、古いものの初学者には得られるものが多く、課題図書として採用しようと最初から決めていた本でした。

 2015年出版で改版もなく、今となっては古い内容です。が、物事を理解する、情報として得るだけでなく知識に昇華して見識として身に着けていくためには、歴史的背景や比較・推移・変化を知ることが必要です。今インフラITのセールスとなった人間は、目前はIaaSの知識だけがあればある程度販売活動はできるかもしれません。しかし現実にはオンプレミスは未だマジョリティであり、何なら変化に弱く硬直性の高い大企業ほどクラウドリフト&シフトが進んでいなかったりする実情もあります。また、仮想化とはから、サーバ、デスクトップ、ストレージ、ネットワーク仮想化の全域にわたるカバレッジの高さがこの本の良さです。著者は6人名を連ねていますが、全員IBMに由来を持つインフラエンジニアの方のようです。

 第1編は仮想化の基本。ホストOS型、ハイパーバイザーとはとか、HorizonやKVMなど多少のプロダクト名も出てきます。オーバーコミットやライブマイグレーションなど仮想化ならではの機能や考え方も紹介してもらえているため、仮想化をすることのメリットやモチベーションを理解しやすい構造になっています。デスクトップ仮想化もわかりやすく類型化・比較がされます。最近実務でMicrosoftのAzure Virtual Desktopを扱うことが多いのですが、この本があったからこそ、AVDマルチセッションの構造とメリットが理解できたと思っています。

 第2編は実践。目的の設定と計画から、設計の勘所、移行まで順を追って説明してくれます。仮想化特有の事情や活かすべきメリットを踏まえて設計すべき要所を教えてくれています。P2Vの経験を踏まえると、P2CやV2Cも差分でクラウド特有の事情を踏まえて検討すればよく、理解が促進されていると感じます。

 第3編は今後。当時の目線でこれからの技術や期待を紹介してくれます。もうコンテナは開発者にとって常識ですね。ストレージは個人的には進化が進んでいないと感じます。NetAppやDell EMC、Pure Storageなど何年も言っていることそれほど変わらないですし、IaaSにホストするようなサービスは出ていますが、コストも高くあまりメリットを享受できるシナリオが少ないように思えます。boxなどのオブジェクトストレージベースのSaaSへの移行が先行しており、もっとハイブリッドでIaaS連携して階層化の機能を使いやすくリーズナブルにするとか、オンプレとの組み合わせで期待したい機能があるんですけどね。。。また、ネットワークについてはそれほど記載が厚くなく、OpenFlowとネットワークオーバーレイについて少し触れる程度。最近はゼロトラストを経てSASE/SSE系ツールの商談が圧倒的に増えている体感があり、この辺りはさすがに情報が古くて参考になる趣きはありません。IDaaSだのIdpだのの言葉も、たぶん当時はありませんでしたしね。

 課題図書として受講者に読了してもらうため、改めて私も読み直した次第です。相変わらず硬くて予備知識の少ない人には眠い本ですが、やっぱり今のクラウドに関連する知識の基本部分をこの本でいただいたと実感しました。改版か続編出してくれればいいのになー。


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