【書評】悪人礼賛 ――中野好夫エッセイ集

1990/12/04
筑摩書房
★★★

 ビジネス書ではないです。たぶん高校の時だったかな?教科書に載っていたものです。当時は勉強など一切しない怠惰な生活で、教科書は概ね学年末まできれいなままでしたが、タイトルが刺さって珍しく読んだ記憶があります。

 教科書に載っていたのは冒頭の章の抜粋で、全文は300ページあり中々のボリューム。改めて著者について調べてみると、1985年没でほぼ私と入れ替わりでこの世を去った方でした。一流の大学教授を歴任しており、太宰治とバトルしてアンサーラップかますような、教養がありながらも歯切れの良い人の印象。かの「もはや戦後ではない」という名フレーズを発した張本人です。本を読んでいると当然色んな方の表現に触れるわけですが、こういう魅力的なエッセイを書ける人はきっぷが良くて、中々真似が出来なくて、羨ましいなあと思います。

 中身は端折り、冒頭の悪人礼賛の部分だけコメントをば。今読み返しても強い共感を覚えます。自らが大した経験を積んでいたとは今でも思えませんが、若いときはよくわからない自信には満ち溢れていました(みんなそうだよね?)。で、なぜか「能力が低いが善意の名の元に、余計なタスクを押し付けてくる輩に迷惑を被っている」という被害者意識というか、世の不条理みたいなものを感じいたわけです。表現はかなり高慢チキですが、内心現在でもそう思っているフシが強く、自分の生き方にフィットした考え方なのだと思います。

—それにひきかえ、善意、純情の犯す悪ほど困ったものはない。第一に退屈である。さらにもっともいけないのは、彼らはただその動機が善意であるというだけの理由で、一切の責任は解除されるものとでも考えているらしい。

—世には人間四十を過ぎ、五十を超え、なおかつその小児の如き純情を売り物にしているという、不思議な人物さえ現にいるのだ。

悪人礼賛--一九四九・一〇

 最高だなw


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