センチメンタルバイト、中田君もう勤続7年だから

年の瀬が近づく。ちょっとした別れがどどっと相次いで、今までの人生を振り返ってもなかなかなレベルでセンチな冬を過ごしている。


アルバイトの出勤もあと1日となった。芸人活動だけでかなりギリギリな経済状況を攻めていくことにはなるが、そんなことはさておき、7年半ほど勤めた場所に行くのがあと1日となった。否が応でもセンチになった。

入社した時にもらった、メモ用のバカでかいノート、B4?のノート、を頭から見返した。7年の歳月を経ているものだから今とは全然ルールが違ってて、シフトの出し方一つとっても登場する単語レベルで変わってる。例えば明日入社したルーキーがこのノートを手に取ったとしても、さながらヒエログリフのごとく読解に窮することだろう。これはかなり歴史的で、かなりセンチな資料だ。

イラレの操作方法が手書きでメモされている。
このバイトのおかげで僕はちょっとだけイラレを触ることができる。バイトで使うやり方しか知らないから、体系的なことはろくすっぽ理解していないと思う。それでもイラレをちょっとだけ触れるおかげで、美大出身の人との

「僕はちょっとだけイラレを触ることができるんですよ」
「へえ!そうなんですね」

というワンラリーを頂戴することができる。「サブレイヤー」とか言える。


緊張が見て取れるぐらい、丁寧に丁寧にメモしていてなんともいじらしい。1年やそこらでノートは開かなくなったけど、いろんなことを教わった。教わったことを詳細に書きそうな雰囲気を出しつつも、社内業務のことなので一切書かない。
ともかくいろんなことを教わった。
「仕事に取り組む姿勢を学んだのだ」とか「成功の秘訣を知らずのうちに体得していた」とかそんな大袈裟なことは恐らくないんだけれども、新しく知る仕事一つ一つに新鮮に緊張したし、出来るようになったら新鮮に嬉しかった。



お笑いという詳細不詳のライフワークを盾にバカくそお休みをいただいて、勝手にお休みをいただいたくせして勝手にビビりながら次の日出勤してきたけれども、みんな応援してくれた。
「すごいね!」って言ってくれる人もいれば、ニヤニヤしながら「アレ出てたね」って言ってくれる人もいたし、「ギャラちょうだいよ」って言ってくる人もいれば「大変な世界だよねえ…」としみじみ漏らしてくれる人もいた。
みんながみんなありがたかった。意外なことに、みんながみんな良い人だったし、みんなの言葉が新鮮に嬉しかった。

ともかく怒られたくなくて、出勤中はともかく黙々と業務に勤しんでいたけれども、そんな185cmのロングシャイ男を訝しむことなく、応援してくれた。そもそも怒る人なんていなかった。怒る人なんていないのにビクビクしながら黙々仕事するのが僕だった。みんな優しかった。





僕の退職が社内メールで共有される際、

「中田君が退職です。
お笑いに向けて背水の陣で臨むとのことです。」

と、実際には言ってない、めちゃめちゃイタくて照れくさいワードチョイスで要約された時は、めちゃめちゃむず痒いながらも頑張ろうと兜の尾を締めた。そしてそのまあまあ直後に、M-1の3回戦で敗退した。メールを見返すと「背水の陣」がデデーンと太字で主張してくるように見えた。黙々と業務に勤しんだ。


不穏な気配を(勝手に)感じながら退職が近づくことになったが、滑り込むようにフジテレビのTHE MANZAIに出演することができた。たけしさん、ナイナイさんの前で、歴戦のチャンピオンたちと並んで漫才を披露することができた。
見てくれた社員さんがすごいね!と言ってくれるのが、実に月並みに、実に感慨深かった。奇跡が重なって、何やらすごい気配を残して去ることに成功した。奇跡が重なった結果ではあるけれども、背水の陣も伊達じゃないぞと、なんとか格好がついて良かった。
社員さんたちが褒めてくれたのが、ともかく一番嬉しかった。



バイトを辞めることなんざ、なぜそこまでおセンチに書くことがあろうか。その理由は、もう二度とバイトに戻らないためである。ノーモアおセンチバイト、背水の陣で臨む。
クソお世話になりました。めちゃめちゃ感謝してる、大好き、たくさん自慢してもらいますように。

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