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ブ季

暑く、ひどく湿気り、蒸された夜を過ごす。寝ようにも寝れない。クーラーを付けたまま寝てしまったんじゃ喉がやられる。ほどほどにせねばと、1時間後に切れるタイマーを設定して眠りに落ちるが、1時間と数分後、そらそうかとばかりに、汗に溺れたかのように飛び起きる。
息も絶え絶え、直感的な生命の危機を感じて起きる。こんな時間あって良いわけない、と嘆きながら睡眠の浅瀬をぴちゃぴちゃやって朝まで過ごす。
設計ミス、どう足掻いても無事に暮らせないようプログラムされた日々に苛立ち続ける。


とはいえ人類、宇宙船地球号の一員として、温暖化の被害は甘んじて受け入れねばならないよと、指を咥えて気候変動をただ眺めるよう、そうやって自らアホを犯して罰を受けるという因果律のもとに設計されてんだよ人類は、みたいなのはどうでも良くて、そんなんはほんとどうでも良いから、ただ夏が嫌いだと叫びたい。
季節として、どうやったって楽しめるように整ってないし、夏が好きだと言う人の感性を毎年毎年否定している。裸になっても苦しい季節を無理から褒めることあるまい。ブス。無駄に明るくてブスな季節。無理から褒めることない、どこに気を遣う必要があるのか。
僕は本当に、人のことを簡単にブスって言わない(知らないよ、知らないか、ごめんね)。なにせ僕がブス、人に言うわけない。じゃあイケボーイだったら言うんかい、知らんよそれは、イケボーイになってから考える。ともかく言わない、かなり言わない。大学3年のイケてなボーイだった頃、1年生として大学お笑いに飛び込んできたモシモシのあきちゃんに、お笑い的に舐められまい(あきちゃんは高校時代からお笑いをやっていたから)として、無理から「おい!ブス!」と言い放ったことがある。全くもってそんなことないのに、思ってないのに。思ってないのに口から飛び出し、飛び出した瞬間に自身の体温が下がり、脳の片隅にヒビが入り、とてつもなく後悔した。数年越しに謝った。陳謝した。言ってすぐには謝れなかった、脳の片隅にヒビが入っていたから。
ともかくそれぐらい言わない。当たり前か。普通に生きてたら言わないか。街中でやたらめったらブスって言ってた動画投稿者も削除してたもんな。ともかく言わない。

それでも言いたくなるほどに、夏はブスだ。夏はブスだよ!



「辛いのはみんな一緒なんだからサ、せめて笑顔で明るく乗り越えようよ!」なら、まだ分かる。苦しい日々を、肩を組んで(汗が張り付いて厭わしいが)走り切ろうよと言うならば、僕だって学生時代はバスケ部の罰走とか日本史の先生の癇癪を仲間たちと乗り越えてきた身だ、むしろ喜んで、修行と思って喜んで受け入れる。

でもなんだ、特に夏が好き、みたいな嘘っぱち、そういうペテンを吐く人間は信用ならない。人が苦しむように作られている季節、ブ季を、なぜ無理して好きと言えようか。なぜ楽しんでいるんだ。歯を食いしばって辛抱するのが筋だろう。ヘラヘラしている、事の重大さの分からぬ者と肩を組みたくないんだ。
女性の露出が多くなるから好きだと?その暑さにやられたギリギリ瀬戸際の判断力だからそんな頓珍漢が飛び出すんじゃないのか?貴様がひときわスケベなのは分かるが、それはそれとしてもう少し好きな季節はなんですかという問いに真剣に答えた方が良いんじゃないのか?気を抜いたら倒れる季節なんだぞ?
花火が好き?冬に上がってないだけだろそれは。夏が好きな理由になるのかそれは。雪とは違うぞ、自然現象なんだから。
考え方、捉え方、自由なんだからさ、否定するの良くないよ、みたいな、あなたは今1番黙っててください、あなたとは楽しいコミュニケーションは取れません、こっちから願い下げよってか、いったん上げろ、俺が下げる。そんなんは百も承知で、夏を否定してる。覚悟を持って否定してる。


これからもっと辛くなる。真夏日が本格化してしまったらば、もう正常な判断も下せなくなり、冷静に言葉を綴ることができなくなるだろう。7月の頭、人が正常でいられる瀬戸際に、どうにか思いを残しておく。過激派のグッサマーピーポーからの妨害工作を受けるかもしれないが、引き続き夏を糾弾していく。
良識ある善良な仲間達、みんなで肩を組んで(汗が張り付くが)この辛い日々を走り切ろう。僕らは仲間だ、サン、サン、サン、太陽の光、僕らの肩に、降り注ぐってか。ダメだ。もうダメかも。

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