見出し画像

ボット先生  【第24話/全35話】

 明日は土曜で学校がない。仕事で遅くなるので、叔父さんの家に行くようお母さんからメールが来ていた。そのまま日曜まで叔父さんの家に泊まらせてもらうってわけだ。
 いやだな。
 叔父さんは、お母さんの弟だ。駅前のアパートで一人暮らししている。あまり好きじゃない。小さい頃は優しくしてくれたけど、近頃は、こっちからは会いに行かないようにしている。機嫌が悪いと、何かと八つ当たりされるからだ。最近仕事を辞めたらしくて、一日中散らかった部屋に閉じこもって、パソコンに向かってぶつぶつ言っている。一部屋しかないアパートなので、叔父さんの家にいると、ずっとそのブツブツをずっと聞いてなけりゃならない。ご飯を作ってくれるわけじゃなく、たいていデリバリーのピザとか弁当で、それもボクが自分で注文しなけりゃならない。叔父さんの分も一緒にだ。
 その他にも、タバコを切らしたとか、お酒が足りないとか言って、ボクを買い物に行かせようとする。タバコや酒なんて、小学生一人では売ってくれないのに。要するに叔父さんも、ボクが邪魔なんだ。お母さんがおカネを渡しているから我慢しているけど、本当は、一人でいたいんだ。『晩御飯はどうしよう?』とメールしたら、『食べてから来いよ』と返事が来た。よかった、聞いておいて。聞かずに行ったら、何も食べずに寝ることになるところだった。
 冷凍庫にあったジャンバラヤを電子レンジで温めた。お湯を沸かしてマグカップにスープを入れる。今日は玉子スープだ。熱い。うまい。でも、こういう食事って、どうなんだろう? 家庭科では、一汁三菜って習った。ご飯とみそ汁と、おかず三品を毎食食べるのが、正しい食事なんだそうだ。だとすると、ジャンバラヤみたいな、ご飯とおかずが合体している料理は、正しくない? カレーライスもそうだ。でもカレーは、おかずとご飯が同じ皿に乗っているだけで、一応別々に料理されている。例えば、カツカレーに福神漬けが乗っていたら、それでもう三菜だ。でもジャンバラヤは、ご飯とおかずを一緒に作るし、他のおかずと言えば、目玉焼きを乗せるくらいだ。後は、中にせいぜい鶏肉や玉ねぎが紛れ込んでいるだけ。これは、三菜の内には入らないだろう。つまり、今夜のボクの食事は、正しくないってことだ。
 いろいろ、不安になってきた。そんなことを言ったら、朝、お母さんが、ボクの朝ご飯を菓子パンと牛乳にしたり、ブロッククッキーだけにしたりするのも正しくない。もっと言えば、給食のかた焼きそば。あれはおやつだ。酢の物やプリンがついていたりするけど、パンはあったりなかったり。つまり、主食があるとき、あれはおかずになるわけだ。おやつを主食にするのはおかしいし、さらに、おかずの一つにするのもまちがいじゃないだろうか。
 そんなことを考えながら食べていると、テーブルの上に置きっ放しだったランドセルから光が漏れ出した。ジシューくんだ。取り出してみると、メールが来ていた。
 ボット先生だ!
『緊急事態、デース』
メールを開いてみると、そこにメッセージはなく、いきなり画面がボット先生の顔になった。それも、いつもの笑顔じゃなく、目を開き、唇を固く結んだマジメな顔だ。
『いよいよ、ケンタ君とマミちゃんが、外国に向けて出発するのデース。これを、阻止するんデース』
ボクは椅子をふっとばして立ち上がった。
 ケンタは、まだ日本にいたのか。
 団地の入口にフジモト君がいるので、彼の車で港に向かうよう、ボット先生は言った。行くさ! 当たり前だ。ケンタを取り戻せるなら、ボクは何だってやるさ。
 すぐに出掛けよう。持ち物は、スマホと、ジシューくんと、水筒があればいいかな。そうだ、三倍パンチ。ボクはポケットの中のグローブを確認した。これがあれば、大人と戦えるはずだ。ボクは塾用のリュックにそれらを突っ込んだ(こっちの方がランドセルより軽いんだ)。
 そうだ。食べ物も持って行こう。いつ帰れるか分からないけど、このことが終わったら、ボクは叔父さんのアパートに行かなければならない。たぶん、明日の夜か、日曜の昼頃までは叔父さんの部屋だ。お腹が空いたとき食べられるものを持っていた方がいい。台所の棚に六個入りのロールパンの袋があったので、リュックに突っ込んだ。ジャムがないかな。何もつけずに食べるのはつらい。冷蔵庫を開けてみた。ジャムはなかった。まだビニールに入ったままの、からしマヨネーズがあった。お母さんにマヨネーズと言われて買ってきたら、からし入りだった。お母さんは辛い物が嫌いだから、一度も使っていない。あの時はひどく怒られた。ボクは右の親指の爪を噛んだ。何もつけないよりはマシかな。ボクは食べそこねて茶色くなったバナナと一緒に、それもリュックに詰めた。


ボット先生  【第25話/全35話】|nkd34 (note.com)

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?