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ボット先生  【第34話/全35話】

「動くんじゃねえ。さもないと、コイツの命はないぞ!」
月明かりが、マーさんの禿げた頭を照らしていた。マーさんは、左腕で駅員さんを抱えていた。駅員さんは、帽子が脱げ、濡れた前髪が額に張り付いていた。
「面目ねえ」
駅員さんは、腰の辺りで両手を広げ、苦笑いした。彼の米神に、マーさんはピストルを突き付けていた。
 マーさんは、鬼のような顔だった。ドローン軍団を使ってボクを浚おうとしたけど、警察に阻止されて、いよいよ手段がなくなり、駅員さんを人質に取った。どうしても、ボクを連れて行くつもりらしい。
「おい、お前」マーさんは顎でボット先生を指した。「エリンギロボットの電源を切れ」
 ボット先生は、全身を二、三周輝かせた後、おとなしく指示に従った。砂浜に立っていたボットPを巡り、次々と電源を落とした。ボットPは光を失い、音を消した。
 マーさんは口を斜めにして笑った。
 マーさんの後ろの海が、突然盛り上がった。それが大きな蛸のように膨らんだかと思うと、円盤型の潜水艦が現れた。YTSの秘密兵器だ。これで、ボクを連れ去るってわけだ。
「お前、こっちへ来い」
ボクに指示した。ボクは、ボット先生を見た。先生は頷いた。仕方ない。ボクは砂地を歩いてマーさんの方へ向かった。
 マーさんは、駅員さんを離した。「悪いな」すれちがうとき、駅員さんは言った。ボクは彼を見上げてちょっと笑った。
 悪くないよ。ボクは思った。駅員さんのおかげだ。ボクは、将来の夢ができた。学校を卒業したら、駅員さんになりたい。
 ボクが大人になった頃には、駅員の仕事は、ロボットに取られているかも知れない。でも、それでもいい。ボクは、駅員さんみたいになりたいんだ。今の家には帰りたくない。YTSにも捕まりたくない。どっちもイヤだ。ボクには、どこにも居場所がない。でも、昼間とは気分がちがった。どっちに行くことになっても、ボクは、ボクだ。ボクは、駅員さんみたいな、子どもの話をマジメに聞いてくれる大人になるんだ。
 あ、イテ。砂の窪みに躓いて転んだ。前のめりに両手を突くと、背中のリュックから、中身が全部出た。
「早くしろ!」
マーさんに急かされた。ちょっと待って。ノートと筆記用具。ジシューくんと、ロールパンと、からしマヨネーズ。『三倍パンチ』も出てきた。『たこのにもの』の『もの』。防犯グッズだ。
「何やってんだよ」
マーさんが近寄ってきた。目を吊り上げ、鼻を膨らませていた。チェッ、威張ってやがる。
「うわ、何しやがる!」
ボクは、マーさんの顔面にからしマヨネーズをかけた。狙い的中。ぎょろッと開いた目に、たっぷりマヨネーズがかかった。
『伏せるんでアリマス!』
ボット先生に言われた通り、ボクはその場に倒れ込んだ。
 ボットPミサイル炸裂。先生はマーさんに直撃し、そのまま海上の潜水艦に突っ込んだ。


ボット先生  【第35話/全35話】|nkd34 (note.com)

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