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ボット先生  【第35話/全35話】

 冬休みが明けても、さやか先生は戻って来なかった。サンキューの後は、イクキューだそうだ。
「イクキューって、何?」
となりのキムラ君に尋ねると、「知らね」と素っ気無く言われた。
 キムラ君は、ボクがけむったいんだ。というのも、ボクが彼と同じ塾に移ったから。そんなの気にしなくてもいいのに。算数では、ボクは全然キムラ君に敵わない。英語もだ。でもたまたま、前回の模擬テストで、ボクは塾で一番の点数を取った。国語だけ。今まで全教科でトップだったキムラ君は、それが気に入らないんだ。
 ケンタはいないし、マミちゃんもいない。ウーちゃんも、年末年始は大道芸の興行で全国を回るとかで、休みがちだった。波多野君やカスヤンが話し掛けて来るけど、前みたいに偉そうじゃなくなった。何となく、遠くから眺めている感じだ。ボクは、教室でポツリ。遊び相手もいない。
 でも、いいんだ。ボクはもう、村田テツヤじゃないんだから。
 お母さんは、本村さんと結婚した。ボクにお父さんができた。ただ、一緒に暮らすのは、もう少し先にするらしい。ま、邪魔だからね、ボクが。受験して、ボクは寮のある学校に入る。お母さんたちは、新しい家を建てて住む。ボクは、居場所ナシ。
 ボット先生は来なくなった。フジモト君もだ。ジシューくんは回収されて、代わりに外国製の、ひどく動作のノロいタブレットが配られた。
担任の代わりにタクト先生がきていたけど、すぐにいなくなった。塾のやり方を学校で通そうとして、失敗したらしい。それからは、いろんな先生が、代わる代わるボクらのクラスにきた。
「おい、ムラタ。あ、いや、モトムラ」理科の授業にきたシゲタ先生がボクを呼んだ。まだ午前中なのに、もううっすらひげが伸びていた。「お前の自由研究なんだけどさ、『歩いて地球を一周する方法』って、何だ? 地球の陸地はつながっていないんだから、徒歩だけで一周はできないぞ。まさか、船の中で歩くとかいうオチじゃないだろうな」
そんなわけねージャン。
「南極点の周りを、一周するんです」
ボット先生はもういない。でも、ボット先生はいる。ボット先生の端末はなくなったけど、先生は、ネット空間に今でも存在しているんだ。
(了)


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