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ボット先生  【第26話/全35話】

 潜水艦を下りたボクは、ジシューくんを取り出した。どうすればいいか、ボット先生に相談しなきゃ。
『そこで待っていればよろしいデース』
ボット先生はまた、マジメな顔だった。待つって、何を待つんだ? 
 すぐに、天井にポカンと穴が開いて、ツルッパゲのオジサンが降りてきた。マーさんみたいなひげを生やしていた。
「ボクは、モーだ」禿げオジサンは言った。「ついて来なさい。ケンタ君たちに、合わせて上げよう」
 こいつ、敵だよね。
 ボクの腕を掴もうとしてモー氏が伸ばした手を、ボクは払い除けた。モー氏はムキになってまた手を伸ばした。ボクは後ろに跳んで避けた。
「何してるんだ。行くよ」
モー氏は苛立って眉を寄せた。「ボット先生」ボクはジシューくんに尋ねた。「この人、敵だよね?」
 そのとき、空中に映像が現れた。黒い画面に緑の線。ボット先生だ。
『潜水艦に乗るんでアリマス!』
ボット先生は言った。モー氏は上着を脱いで、その画面に引っ掛けて塞いだ。手品みたいに画面は消えた。
 ボクは駆け出して船に飛びついた。
『待ちなさい。戻るデース!』
ジシューくんの中のボット先生が言った。
 ボット先生が二人! どういうことなんだ。
 ジシューくんのボット先生は、目を吊り上げ、口を開いて歯噛みしていた。
『船に戻るデース! そうしないと、危険デース』
『しゃがみなさい。蓋を閉めるのでアリマス』
二人のボット先生が、全然ちがうことを言っている。どうすりゃいいんだ。
 モー氏が潜水艦に近寄り、またボクの腕を掴もうとした。ボクはとっさにリュックの中のバナナを投げた。でも、揺れる潜水艦の中でよろけたために、モー氏には当たらなかった。
「さあ、戻るんだ!」モー氏は足を踏み出して潜水艦の縁を掴もうとした。そのとき、足元に落ちていたバナナを踏んでバランスを崩し、海に落ちた。
 逃げよう。
 ボクは潜水艦の蓋を閉じた。
『だめデース。戻るデース』
ジシューくんの電源を落とした。潜水艦の中に、空中映像のボット先生が現れた。
『キミは、偽ボット先生に騙されたのでアリマス』
潜水艦は、またみなとみらいを目指して動き出した。途中、ボット先生が説明してくれた。
 昨日から、ボット先生は登場できなくなっていた。ハッカーの仕業だ。ボット先生は、フジモト君の会社が開発した学校向けロボットなんだけど、その会社がハッカーに襲われ、しばらくボット先生用のプログラムが使えなくなっていた。今日の夕方になって、ようやくそれが復旧したそうだ。
「ボット先生って、学校にいるロボットじゃないの?」
『それは、そうなんでアリマス。でもあれは、端末の一つなんでアリマス』
何でも、先生は『クラウド』という空間に存在しているんだそうだ。クラウドというのは、英語で雲という意味だけど、IT用語では、情報を蓄積しておく空間、ということらしい。
 でも待てよ。おかしいぞ。
 先生は人工知能だったはずだ。その知能は、学校にあったボット先生端末に搭載されていた。端末から離れたら、先生は機能しないんじゃないの?
『それは、こういうことなんでアリマス』
あの端末から、ボット先生は生まれた。先生はあの端末で様々な活動をすることで、たくさんの情報を得た。そうして得た情報を、端末に保存せず、クラウドに保存していたわけだ。クラウドにある『ボット先生情報』を再生することで、違う端末でもボット先生として登場できるようになったってわけだ。
「でも先生、ここには端末はないよ?」
『この船が、端末になってるんでアリマス。あの客船も、そうなんでアリマス』
へへえ。客船全体が、端末になっているのか。それで、液晶画面がなくても、空中に現れることができるのか。
 例の、おかっぱ前歯の針金オジサンも、ボット先生をインストールした端末だ。フジモト君の会社で開発したものだそうだ。
 ジシューくんでは機能が不足しているので、ボット先生を直に登場させることはできない。さっきジシューくんに現れたボット先生は偽物だ。『YTSが、東セラのシステムをハッキングして、ボクの情報を一部盗んで作ったのが、偽ボット先生でアリマス』
『たこのにもの』の『に』。偽物に騙されるな。ボクはすっかり騙されちまった。ジョーシキを守るのって、案外難しいね。
また、日本丸近くの港に着いた。
 あ、フジモト君。
「オーッ、無事だったか」
フジモト君は陽気に手を振った。首を斬られて、死んだんじゃなかったの?
「あれは、YTSが作った偽フジモトだよ」
フジモト君は、赤い電気自動車で叔父さんの家まで送ってくれた。


ボット先生  【第27話/全35話】|nkd34 (note.com)

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